子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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覚悟

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 突然スイッチが入ったかのように、私は力強く声を出す。それに、つられたように2人は大きくうなずいた。

「気にしないで、何でも言ってね。私、心が広い方だと思うから」
「それは、もちろん。……知ってる」
「うん」
「僕がこの世界の人間だというのは、いつから気づいてた?」
「向こうの世界にいる時は、まったく分からなかった。……でも、この世界に来て、リンクの話を聞いて、徐々に確信に変わったの」
「あぁ。……それもそうだね」

 何かを思い出すような仕草を見せるノルドは、柔らかい表情を浮かべている。
 ……でも、私は複雑だ。
 何故、リンクには伝えたの?
 何故、私には今まで教えてくれなかったの?
 そんな不満はあるけれど、言うのは我慢する。だって、私たちをこの世界に呼んでくれたのだから。
 何らかの理由があるはずで、それは私には言いづらいことなのだろう。ノルドを困らせるような話を聞く前に、もっとシンプルな質問をしたい。

「……そういえば、あの日と服装が一緒なんだね」

 少しシワがついてはいるが、いなくなった日と同じ服装を着ている。
 さっき出会った人たちもファンタジーな服だったし。私も含めて、この世界ではあきらかに浮いているのに、着替えないのは何でだろうか。
 ふと思って聞くと、ノルドは困ったような顔をして前髪をさわった。

「汚れてるかな。家に入る前に浄化魔法はかけたけど、近づかれるのは嫌だよね」

 何でもない質問のつもりが、意図が違うように捉えられてしまった。

「そうじゃないの。ほら、1週間もあったでしょ。何でなのかな、って」

 他意はないと説明するが、ノルドの視線は下に落ちる。

「時間が、なかったから」
「時間?」

 十分にあったと思うが……。そんなに忙しかったのだろうか。
 すると、後ろに控えていたウイルが剣のある表情を浮かべ、「それは、私が……」とゆっくりと話し出す。

「ここの世界と、あちらの世界は時間の進むスピードが異なります」
「え?」
「こちらの時間で換算すると……、ノルド様が戻ってきて……そうですね。一日くらいでしょうか」

 単純計算さえも、上手にできない。混乱する頭で必死に考える。

「……それって、大変なことだよね」
「そうですね。行き来するには膨大な魔力を使うため、一度もお戻りにならなかったですし」

 淡々と言っているが、わざとノルドに嫌味を言っているようだ。きっと、ウイルは部下で指示を受ける必要がある立場なのだろう。

「連絡は、定期的に取っていた」
「そういう事を言っているのではありません。時を戻す魔法は無い。お忘れでしたか?」
「…………すまない」

 確かに、ノルドと出会ったのは私が18才の頃。それからリンクが生まれて、幼稚園にこの春に入る予定だった。
 こちらで半年間しか経っていないとしても、ノルドは向こうの世界で成長をしていた。その長い年月を考えたら、謝って済む話じゃないだろう。
 でも、今はノルドだって疲れてる。くわしく説明は聞きたかったけど、そんな苦しそうな顔をさせたいわけじゃない。

「ね、ねえ。とりあえず、こまかい事は置いておいて。……改めて、ノルド。私達を呼んでくれて、ありがとう」

「こまかい事?」と、ウイルが眉をひそめるが無視をする。

「もっと、早く呼びたかった。だけど、時空の狭間で2人が離れてしまうと、別の場所に着いてしまう可能性があって……」
「うん」
「サクラが……。リンクを抱きしめてくれるのを、待ってた」

 だから、ギュッと施設の前で強く抱いたあの瞬間。転送するための光が舞ったのか。

「大丈夫だよ。ちゃんと一緒にこっちに来れた」
「こわい思いを、させたね」
「ううん。なんかね、安心する光だったから」

 まだ聞きたい事がいっぱいあるけど、空は暗くなってきている。太陽のような存在があるのは同じらしく、夜が訪れるらしい。
 心を落ち着けるために、大きく深呼吸をした。話をするのは後にして、休憩をした方が良いだろう。

「これだけは、聞いておきたいの」
「なに?」

 緊張の面持ちのノルドをまっすぐに見る。今から確認する、大事な事。変わらないものだと、自分は思っているけれど何回でも聞きたい。

「ノルドは、どう私の事を思っているの?」

 あえて、私だけの事を聞く。
 リンクの名を出せば、きっと迷いなく全てを投げ売ってくれると分かってるから。

「愛してる。……サクラから、どんなに嫌われようとも。この世界に無理やり連れてきてしまうほど、離れたくない」

 私は、その言葉で。
 しらない場所で、何があろうとも生きていく。
 そう、覚悟を決めた。
 
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