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部屋
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カーテンから入ってくる光が眩しくて、薄目を開けると、その光に負けないくらいのキラキラと輝く美貌が微笑んでいた。
「おはよう、サクラ」
「……うん。ノルド、おはよう」
「よく、眠れた?」
「もちろん、だよ。布団はフカフカだし、枕も前に使ってたのと同じ。……って、あれ、何で?」
昨日の夜は話し合いも長かったし、あまりの疲労ですぐに寝てしまったが、こんな枕の種類まで愛用していた物と、そっくりなんてことがあるのだろうか。
「うん。日本では、枕が変わると寝られないっていう、ことわざがあったでしょ?」
それは、ことわざじゃなくて……。いや、問題はそこじゃない。わざわざ私のために用意同じ枕を用意したということ?
その優しさは嬉しいけど、私がこの屋敷に住む事が決まっていたかと思うと、少し複雑だ。
そのモヤッとした気持ちは、この世界に来ることじゃなくて。……内緒にされてたこと。
「…………うん」
「僕はサクラに、安心してリラックスして、ゆっくり眠ってほしいから」
「おかげさまで、ぐっすり」
でも、それも。聞くのは今じゃないから、笑って喜ぶ。
「良かった。……でね、申し訳ないのだけど、すくに仕事に行かなくちゃならないんだ」
「仕事?」
……どんな仕事なんだろう。
その内容は分からないけど、ずっと離れた場所にいたのなら、仕事がたまっているかもしれない。
「まだバタバタしてて、落ち着かないんだ。ごめん」
「ううん。いいよ、長い間、この世界を留守にしてたんだから。ノルドは施設でも責任感強かったし。仕事だと、なおさら気になるんでしょ?」
「サクラ、ありがとう」
「こちらこそ。いつも、ありがとう」
にこっと笑って、またリンクと二人だけになる不安を隠す。だが、その不安は、私よりもノルドの方が強かったようで、真剣な表情で口を開く。
「でね、家の事を手伝ってくれる部下を呼んだ。聞きたいことは、サーシャに遠慮なく聞いてほしい」
「サーシャさん? 手伝ってくれるなんて、嬉しいけど良いの?」
「もちろん。ウイルは忙しいから、あまりこちらにいられない。……女性の方が聞きやすい事もあるだろう」
それは、確かにそのとおりかもしれない。
月のものだって、くるだろうし。女性特有の悩みは女性の方が良い。……なにより、話相手が出来ることが嬉しくて、不安よりワクワクしてくる。
出産してから今まで部屋にずっといて、誰とも喋らない事が多かったから。
「どんな人かな。仲良くしてくれるかな」
「……なんだか、嬉しそう、だね」
言葉には出さないが、嫌なことかあるとノルドは少年みたいな拗ね方をする。今も、なんだか悲しそうで、慌てる。
「あ、ごめん。ノルドと離れてさみしいよ」
「さみしい? 僕と一緒に居たいと思ってる?」
「うん」
大きな声で答える。それは、心から全肯定。
反対に、こんなに完璧な王子様みたいな人と居たくないと思っている人などいるのだろうか。
そばにいるだけで、幸せなのに。
「なら、良かった。夜には帰ってくるから。……いや! 何かあれば、昼間でも帰る」
「ふふっ。優しいところは、ここに来ても変わらないね」
「絶対に、サクラとリンクは僕が守るから」
それは、ノルドが自分自身に言い聞かせているようで。もしかしたら、この世界の状況は悪いのかもしれない。
命の危険があるのかもしれないくらいの、言い方に驚く。もう、すべてが終わって、平和になったとウイルは言っていた。
さっきの村の人達も、幸せそうだったし。何が、ノルドを苦しませているのだろうか。
でも、今の私には情報もなくて、何も出来ない。
「……うん、行ってらっしゃい。気を付けて」
「リンクにも……、」
「……分かってるよ。泣かれると困るから、こっそり行くんでしょ」
「頼んで、いい?」
子供の機嫌を良くする方法なんて、たくさんある。
一番はノルドと一緒に遊ぶ事だけど。2番目から順々にしていけば良い。
「もちろんよ。はい、行ってらっしゃい」
あまり引き留めても悪いから、手を振って送り出す。
ノルドが深く頷くと、今まで急ぐ様子も見せずベッドの横で膝をついて私を見ていたのに、一瞬で部屋の外へ出ていってしまった。
なのに、パタンと柔らかい音を立ててドアが閉まる。
「……行っちゃった」
私の世界の中心はノルドにあるから、ノルドさえいれば無敵。他にどんなことがあったって、どうってことない。それは変わらない。
そのノルドはリンクを愛している。だから、絶対に離れられない。なら、私と一緒にいてくれるということ。そんな、まわりくどい安心を得ようとする考え方に、頭を振って消そうとする。
「うん。やっぱ、なんか暗くなっちゃってるのかも! リンクの様子を見に行こう」
ふかふかのスリッパをはいて、隣の子供部屋へ向かい、あえてノックをしないでゆっくりと扉を開ける。いつもなら朝は早く起こすけれど、今日は寝かせてあげたい。
子供部屋をぐるりと見渡す。昨夜の暗い部屋では気付かなかった。
壁ぞいに備えられている本棚には、日本で読んでいた絵本と、欲しがっていたおもちゃがいっぱいに並んでいて驚く。
「ノルド、もう……過保護だから」
私の枕の件で「そうだろうな」とは思っていたけれど、思っていたよりも数がすごい。
これは、夜中に起きて遊んでいる可能性もあるだろう。そう思いながら、リンクが寝ている窓際のベッドの方を見る。
すると、色んな予測をしたけれど、結果は想像もつかないもので、「机で、静かに勉強をしている」だった。そして、家庭教師のように側に立って教えている女性。もしかしなくても、楽しみにしていた……、
「サクラ様、はじめまして。サーシャと申します」
やっぱり、思った通りだ。嬉しくて、近づこうとするとサッと視界からサーシャが消えてしまった。
驚いて動いた先を見ると、彼女は胸に手を当てて映画で見るような最高位の礼をしていて、目が合わない。
足元に見える、一つに結ばれた長い黒髪がサラリと肩に流れていくの見ながら、どうして良いのか分からずに一緒に座り込むことにした。
この態度を考えられるのは、ノルドの妻だからしかないだろう。
なら、やめてほしい。
そう思って、さらに下から彼女の顔をのぞき込む。
「あの……、顔を上げてください。サーシャさん。私の友達になってくれませんか?」
「おはよう、サクラ」
「……うん。ノルド、おはよう」
「よく、眠れた?」
「もちろん、だよ。布団はフカフカだし、枕も前に使ってたのと同じ。……って、あれ、何で?」
昨日の夜は話し合いも長かったし、あまりの疲労ですぐに寝てしまったが、こんな枕の種類まで愛用していた物と、そっくりなんてことがあるのだろうか。
「うん。日本では、枕が変わると寝られないっていう、ことわざがあったでしょ?」
それは、ことわざじゃなくて……。いや、問題はそこじゃない。わざわざ私のために用意同じ枕を用意したということ?
その優しさは嬉しいけど、私がこの屋敷に住む事が決まっていたかと思うと、少し複雑だ。
そのモヤッとした気持ちは、この世界に来ることじゃなくて。……内緒にされてたこと。
「…………うん」
「僕はサクラに、安心してリラックスして、ゆっくり眠ってほしいから」
「おかげさまで、ぐっすり」
でも、それも。聞くのは今じゃないから、笑って喜ぶ。
「良かった。……でね、申し訳ないのだけど、すくに仕事に行かなくちゃならないんだ」
「仕事?」
……どんな仕事なんだろう。
その内容は分からないけど、ずっと離れた場所にいたのなら、仕事がたまっているかもしれない。
「まだバタバタしてて、落ち着かないんだ。ごめん」
「ううん。いいよ、長い間、この世界を留守にしてたんだから。ノルドは施設でも責任感強かったし。仕事だと、なおさら気になるんでしょ?」
「サクラ、ありがとう」
「こちらこそ。いつも、ありがとう」
にこっと笑って、またリンクと二人だけになる不安を隠す。だが、その不安は、私よりもノルドの方が強かったようで、真剣な表情で口を開く。
「でね、家の事を手伝ってくれる部下を呼んだ。聞きたいことは、サーシャに遠慮なく聞いてほしい」
「サーシャさん? 手伝ってくれるなんて、嬉しいけど良いの?」
「もちろん。ウイルは忙しいから、あまりこちらにいられない。……女性の方が聞きやすい事もあるだろう」
それは、確かにそのとおりかもしれない。
月のものだって、くるだろうし。女性特有の悩みは女性の方が良い。……なにより、話相手が出来ることが嬉しくて、不安よりワクワクしてくる。
出産してから今まで部屋にずっといて、誰とも喋らない事が多かったから。
「どんな人かな。仲良くしてくれるかな」
「……なんだか、嬉しそう、だね」
言葉には出さないが、嫌なことかあるとノルドは少年みたいな拗ね方をする。今も、なんだか悲しそうで、慌てる。
「あ、ごめん。ノルドと離れてさみしいよ」
「さみしい? 僕と一緒に居たいと思ってる?」
「うん」
大きな声で答える。それは、心から全肯定。
反対に、こんなに完璧な王子様みたいな人と居たくないと思っている人などいるのだろうか。
そばにいるだけで、幸せなのに。
「なら、良かった。夜には帰ってくるから。……いや! 何かあれば、昼間でも帰る」
「ふふっ。優しいところは、ここに来ても変わらないね」
「絶対に、サクラとリンクは僕が守るから」
それは、ノルドが自分自身に言い聞かせているようで。もしかしたら、この世界の状況は悪いのかもしれない。
命の危険があるのかもしれないくらいの、言い方に驚く。もう、すべてが終わって、平和になったとウイルは言っていた。
さっきの村の人達も、幸せそうだったし。何が、ノルドを苦しませているのだろうか。
でも、今の私には情報もなくて、何も出来ない。
「……うん、行ってらっしゃい。気を付けて」
「リンクにも……、」
「……分かってるよ。泣かれると困るから、こっそり行くんでしょ」
「頼んで、いい?」
子供の機嫌を良くする方法なんて、たくさんある。
一番はノルドと一緒に遊ぶ事だけど。2番目から順々にしていけば良い。
「もちろんよ。はい、行ってらっしゃい」
あまり引き留めても悪いから、手を振って送り出す。
ノルドが深く頷くと、今まで急ぐ様子も見せずベッドの横で膝をついて私を見ていたのに、一瞬で部屋の外へ出ていってしまった。
なのに、パタンと柔らかい音を立ててドアが閉まる。
「……行っちゃった」
私の世界の中心はノルドにあるから、ノルドさえいれば無敵。他にどんなことがあったって、どうってことない。それは変わらない。
そのノルドはリンクを愛している。だから、絶対に離れられない。なら、私と一緒にいてくれるということ。そんな、まわりくどい安心を得ようとする考え方に、頭を振って消そうとする。
「うん。やっぱ、なんか暗くなっちゃってるのかも! リンクの様子を見に行こう」
ふかふかのスリッパをはいて、隣の子供部屋へ向かい、あえてノックをしないでゆっくりと扉を開ける。いつもなら朝は早く起こすけれど、今日は寝かせてあげたい。
子供部屋をぐるりと見渡す。昨夜の暗い部屋では気付かなかった。
壁ぞいに備えられている本棚には、日本で読んでいた絵本と、欲しがっていたおもちゃがいっぱいに並んでいて驚く。
「ノルド、もう……過保護だから」
私の枕の件で「そうだろうな」とは思っていたけれど、思っていたよりも数がすごい。
これは、夜中に起きて遊んでいる可能性もあるだろう。そう思いながら、リンクが寝ている窓際のベッドの方を見る。
すると、色んな予測をしたけれど、結果は想像もつかないもので、「机で、静かに勉強をしている」だった。そして、家庭教師のように側に立って教えている女性。もしかしなくても、楽しみにしていた……、
「サクラ様、はじめまして。サーシャと申します」
やっぱり、思った通りだ。嬉しくて、近づこうとするとサッと視界からサーシャが消えてしまった。
驚いて動いた先を見ると、彼女は胸に手を当てて映画で見るような最高位の礼をしていて、目が合わない。
足元に見える、一つに結ばれた長い黒髪がサラリと肩に流れていくの見ながら、どうして良いのか分からずに一緒に座り込むことにした。
この態度を考えられるのは、ノルドの妻だからしかないだろう。
なら、やめてほしい。
そう思って、さらに下から彼女の顔をのぞき込む。
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