子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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冒険の予感

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「ママ!! おなかすいたぁ!」

 裏庭から、声がする。
 窓を開け外を見ると、汗と泥だらけのリンクが元気にジャンプをしている姿で、短時間でよくここまで汚せたと感心しかない。
 それに、動いた後は、お腹が空くのは分かるけれど……。

「リンク様。泥を落とすために浄化魔法をかけましょう」

 ……思っていたことが、顔に出ていたのだろうか。

 ウイルのから放たれるキラキラとした光に包まれたと思ったら、スルスルと、汚れが落とされていく。そして、自分の体を見て怒られないと判断したリンクが、私のもとに飛びついてきた。
 魔法に頼りすぎるのはやめようと思ったばかりなのに、これは便利すぎる。

「ママ、朝ごはん!」

 ……瞬時にサラサラになった髪をなでながら、急いでる時は良いか。と、簡単に考えをくつがえしてしまった。

「はいはい。みなさん、テーブルについてくださーい」

 料理を作り終え、割烹着姿のサーシャが五人分の椅子を引いている。

「……ん、どうしたの? サクラ」
「ううん。……何か楽しいね。昔はこうやってワイワイ食べてたから懐かしい」
「それなら、良かった」

 私とノルドの間にはリンク。目の前には、ウイルとサーシャが座る。
 昨日は、この国の栄養バランス食のようなものを食べて、すぐ寝てしまったので、久しぶりのちゃんとした食事だ。任せてくださいと言われ、作ってもらったサーシャの料理が並んでいる。

「準備、ありがとう」
「私の最高傑作が出来ましたよ。どうぞ、たくさん召し上がって下さい!」

 そう言われて見た料理は、野性味あふれていて……。なんとも、ジャングルに来ているような。

 トカゲっぽい丸焼きに、洗った野草がまわりに散らばらせたもの。川魚がそのまま茹でられたものに、いくつかの皮ごとふかされた芋がたくさん。
 さらには、豆っぽいものが浮いている無色透明なスープ。

「ご覧ください。夜中に食材調達して、ご馳走を用意致しました!」

 これが、この世界の常識なのか。それともサーシャの創作料理なのか。聞きづらい。

「……いただきます」

 でも、お腹は空いている。再度、丁寧に挨拶して箸を取り、見たことのない原材料がそのまま形に残っている食べ物を掴む。
 リンクが心配そうに私を見るが、郷に行っては郷に従え、である。私は産まれてから結婚するまで、食べ物は残さないように躾けられきた。
 サーシャは、感想を楽しみにしてくれているのに手を付けないわけにはいかない。

「……ママ、どう?」

 うん、素材の味が生きている。
 何が正しいのかは分からないけれど、隣で食べているノルドとウイルは無表情でモクモクと食べているので、きっと同じ感想なのだろう。
 ただ、不味くはない。

「いかがでしたか?」
「大地の栄養を取れて元気になったわ。味付けが控えめなのも食べやすくて、美味しい」

 必要じゃない嘘はつかないようにしているから、全て心から思った真実だ。ただ、これからの生活を考え、リンクの成長のためにも提案しなければならない。

「でも、家の管理だけでも大変なのに。料理くらいは私にやらせて」

 すると、サーシャが真面目な顔になって言う。

「いえいえ、さすがにそれはさせられません!」
「そんな……、大変よ」
「なら、やはり料理人を探そう。僕かウイルに料理の才能があれば……」

 ノルドが別の提案をしてくれるが、それはそれで問題だ。ウイルとサーシャも困り顔をしていて、私の意見と同じらしい。

「ノルド様。それは……、念には念を入れてやめましょう」

 ……なんだろう。ウイルの言葉が少し暗い。知りたくて、サーシャの方を見て教えて欲しいと訴える。

「……この世界では食べ物に毒魔法をかける特殊スキルがあります。もし、気づかずに体内に入ってしまったら、専門の治癒師でないと解毒が出来ません。私も、ウイルも……、」
「……はい。申し訳ありません」

 ……そうだ。今の雰囲気が平和すぎて忘れがちだったけど、治安が悪いんだった。

「ねぇねぇ。僕、料理好きだよ。だから、ママを手伝う」
「うん、そうね。料理は私が出来るだけするのが一番いいわ。分からないことも多いから、手伝ってもらうとは思うけど」
「……そうですか、確かに。リンク様も、サクラ様の食事が食べたいですよね」

 サーシャも折れてくれて、話がまとまりそうだ。

「ありがとう。頑張って、この世界の勉強をしておいしいご飯を作るわ」
「ただ、食材採取だけは、一人で行わないで下さい。私だけで行くか、もしくは同行致します。魔物やら食人植物、触っただけで死ぬ草なんかもありますので」

「えっ!」

 魔物と聞いたリンクが、目をキラキラさせてスプーンを握っていた。

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