子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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夢物語

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「上達が早いね。下級魔物なら、もう一人で倒せそうだ」
「パパ、本当? やったぁ」

 鬱蒼とした森の木漏れ日が、優しく親子二人を照らしている。
 一時的に戻ってきたノルドに時間はないが、魔物退治……いや食材採取を、少しでも見たい成長を見守りたいと、戻る時間をのばしたらしい。
 私は邪魔をしないように静かにしているけれど、内心ではかなり私は驚いている。だって、今までリンクはケンカ一つしない、穏やな子だと思っていたのに、かなり好戦的だ。
 普通なら魔物を見るだけでもこわいはず。それなのに戦うことに一切躊躇していない。

「……ノルド様、時間です」

 ウイルは日の陰りを確認するように上を向いた後、ノルドに声を掛ける。いつのまにか、かなり時間がたっていたらしい。

「あぁ、もう限界か。……リンク、ごめんね」
「いいよー。後はサーシャに見てもらうから」
「…………そう」

 何かに集中している時の、他の事が目に入らなさはいつも通りみたいで、ノルドは肩を落としながら、笑って私の方を向く。

「サクラ。そろそろ行くね」
「うん。……あれ?」
「とうしたの? 何かあった?」

 森を出ようとした時に木漏れ日が大きくなって、陽の光が強くノルドにあたる。
 この国の服に着替えてるし、言葉遣いもどこか変化してるけど。もっと分かりやすい部分での違和感に気づく。慌てて駆け寄って、近くでじっと見るけど、やっぱり……、

「髪を染めたの? あと目の色も違う」

 元々から明るい黒髪ではあったけれど、さらに金髪に近くなっている。それに、目の色も緑がかっていて宝石のようだ。さっきは気づかなかったから、いつ変わったんだろう。

「髪と目の色?……あぁ、サクラたちに会えて気が緩んだから、魔法がとけてきているのかもしれない。もう、まわりに合わせる必要もないし、そのままにしてたから」
「ということは、今まで本来の色じゃなかったの?」
「本来の色は、これだよ。……やっぱり、黒のほうが良い? 似合わない?」

 そんなの、何色だって似合うに決まってる。
 この世界では髪を変化させることくらい、大したことではなさそうだから、嫌だと言ったら変えてくれそうだけど。でも、それなら、やっぱり本来の色でいて欲しい。

「わざわざ魔法で変えることない。そのままで良いよ」
「そう? 実は、僕は空間魔法以外とても苦手だから、いつも染めるのが大変で、そう言ってくれると嬉しいな」
「うん。まるで絵本の中の王子様みたい」
「王子様?」
「そう。何となくキラキラしてて、金髪のイメージがある」
「…………サクラは、王族に興味ある?」

 興味とは?
 そう言われて質問の意味が理解できない。あるもないも、ファンタジーとして王子様は必須に近いテーマじゃないのだろうか。

「王子様は女の子の憧れだからね、もちろん」
「そう、なんだ」
「うん」

 なんだか話が噛み合わないけれど、入り口にある転送装置の前で、しばらく待たせてしまっている、ウイルの鋭い視線が気になる。
 これ以上、引き止めてしまったら申し訳ないと、話を終わりにして森の方へ戻ろうとすると、ノルドがためらいがちに口を開く。

「僕は、もう王籍を返還してしまったから、王族にはなれない。こんなこと言うと、ガッカリする?」

 ……即答で「しない」と断言する。

 というか、ノルドは王子様だったんだ。それなら、たしかに色々と納得だけど。ついつい強い意志をこめて、強い口調になってしまった。
 王宮なんて、日本で高級ホテルでさえ、怖気づいて入れなかった私が無理に決まってる。

「それなら良かった。僕には優秀な兄達と妹がいて、後継者争いをしたくないし、もともと王室を離れる気ではいたんだ。家族と、のんびり過ごせなそうだしね」
「なら、なんで日本へ……」

 今まで、この世界に来てから詳しく聞きたかった言葉が、口から出そうになるが、厳しい声が聞こえて、思わず黙る。

「ノルド様! さすがに、もう戻られませんと」

 しまった。ウイルの眉間にはシワがよっている。ついつい会話が気になって、つい続けてしまった。

「…………サクラ。話の途中で、ごめん」
「良いの。気にしないで」
「サーシャに、そのあたりは事情は聞いておいて欲しい。もう、何も隠すようなことはないから」

 本当に、そうなんだろうと思う。
 ただ色々なものを背負いすぎてて、説明が今まで出来なかっただけなんじゃないか、って。

「分かった。心配しないで」

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