18 / 45
深夜
しおりを挟む
「……ごめんね。なんか、美味しく出来なかった」
食事を終えて、リンクの寝かしつけをサーシャに頼み、ノルドと寝室へ入るやいなや、私はしょんぼりしながら謝った。
頑張って作った魔物料理は、サーシャの事をとやかく言えない出来だった。
不味いわけではないが、美味しくもない。明確な原因は、とにかく調味料が足りない。塩だけだと、さすがにどれも同じような味になってしまう。
この土地の農産物を開拓すれば、改良の余地はあると思うのだけど。せめて、主食の米があったら、バランスが取りやすいのに。
「なんで? 美味しかったよ」
それなのに、ノルドは返答に迷いもせずに褒めてくれる。
「本当?」
「サクラに作ってもらえる料理は全て美味しくて、嬉しくて泣きたくなる」
「……そこまででは、ないと思うけど」
「そこまで、だよ」
そう言うと、ベッドに腰かけながら、見慣れた淡いピンク色の掛け布団をあげてくれる。
「うん」
「寝ようか。また、早朝に王都に行かなくちゃならなくて朝には出るんだ」
「忙しいの?」
「僕しか出来ないこともあって、兄には今まで長い事、迷惑をかけてるから断れない」
ノルドは美しい眉を少し上げながら、肩をすくめる。話の流れ的に、……今が聞くチャンスかも知れない。
「私が妊娠と出産と子育てでバタバタしてたから、話してくれなかったの? どうして?」
少し、トゲがあったかな。でも、これくらいハッキリいわないと、優しさで言葉をくるまれてしまう。
すると、案の定、ノルドが悲しそうな顔をして否定をする。
「違う。毎日が楽しすぎて、サクラとリンクの生活を壊したくなかった。僕が弱いから、言い出せなかった」
「でも。あと伸ばしにしてたから、大変なことになったんでしょ」
「そうだね。……本音を言うと、一生このまま日本で死ぬまで過ごすのも良いかなって、思ってた」
それは……、立場的にも無理なのではないだろうか。
一時的に避難しただけなら、私はノルドの家族を知らないけど心配したに違いない。
「そんなの、ダメだよ」
「知ってる。でも、自分の中で生まれて初めて知った感情を、抑えられなかった。自分勝手だとは思ったけど。結果……、サクラに迷惑かけただけだったけど。でも……、」
ノルドの声がだんだんと小さくなっていく。
まだ、よく分からない。
「じゃあ、どうしてこの世界に、突然戻ったの?」
「戻ったんじゃない。強制的に戻されてしまった」
その時の事を思い出したのか、ノルドの顔が暗くなっている。
高度な時空魔法はこの世界ではノルドしか使えないと、サーシャは言っていた。なら、勝手に戻せるほどの力を持っている存在は、きっと。
「……創造神?」
「そう。その存在は国王しか会う事は出来ない。だけど、存在は何時でも感じてて、この世界の秩序を守るために色々と操作してる」
戻されたのは、そのせいだということなのね。
常識が違いすぎて分からないけど、魔法がある世界とない世界で神の関与の違いがあるのだろうか。
「分かった。言いにくいこと、聞いたよね。教えてくれてありがとう」
「いや。……ごめん。でも、少しだけ、甘えさせて」
いつだって、甘えて欲しい。
頼ってくれると、必要とされているみたいで私は嬉しいから。悪くないことで謝らなくても良いのに。
でも、それを言うと、かえってノルドを苦しめてしまいそうで、謝ることで何か吐き出して、気持ちが楽になるなら。
そう願いながら、カーテンをゆっくりと引いた。
食事を終えて、リンクの寝かしつけをサーシャに頼み、ノルドと寝室へ入るやいなや、私はしょんぼりしながら謝った。
頑張って作った魔物料理は、サーシャの事をとやかく言えない出来だった。
不味いわけではないが、美味しくもない。明確な原因は、とにかく調味料が足りない。塩だけだと、さすがにどれも同じような味になってしまう。
この土地の農産物を開拓すれば、改良の余地はあると思うのだけど。せめて、主食の米があったら、バランスが取りやすいのに。
「なんで? 美味しかったよ」
それなのに、ノルドは返答に迷いもせずに褒めてくれる。
「本当?」
「サクラに作ってもらえる料理は全て美味しくて、嬉しくて泣きたくなる」
「……そこまででは、ないと思うけど」
「そこまで、だよ」
そう言うと、ベッドに腰かけながら、見慣れた淡いピンク色の掛け布団をあげてくれる。
「うん」
「寝ようか。また、早朝に王都に行かなくちゃならなくて朝には出るんだ」
「忙しいの?」
「僕しか出来ないこともあって、兄には今まで長い事、迷惑をかけてるから断れない」
ノルドは美しい眉を少し上げながら、肩をすくめる。話の流れ的に、……今が聞くチャンスかも知れない。
「私が妊娠と出産と子育てでバタバタしてたから、話してくれなかったの? どうして?」
少し、トゲがあったかな。でも、これくらいハッキリいわないと、優しさで言葉をくるまれてしまう。
すると、案の定、ノルドが悲しそうな顔をして否定をする。
「違う。毎日が楽しすぎて、サクラとリンクの生活を壊したくなかった。僕が弱いから、言い出せなかった」
「でも。あと伸ばしにしてたから、大変なことになったんでしょ」
「そうだね。……本音を言うと、一生このまま日本で死ぬまで過ごすのも良いかなって、思ってた」
それは……、立場的にも無理なのではないだろうか。
一時的に避難しただけなら、私はノルドの家族を知らないけど心配したに違いない。
「そんなの、ダメだよ」
「知ってる。でも、自分の中で生まれて初めて知った感情を、抑えられなかった。自分勝手だとは思ったけど。結果……、サクラに迷惑かけただけだったけど。でも……、」
ノルドの声がだんだんと小さくなっていく。
まだ、よく分からない。
「じゃあ、どうしてこの世界に、突然戻ったの?」
「戻ったんじゃない。強制的に戻されてしまった」
その時の事を思い出したのか、ノルドの顔が暗くなっている。
高度な時空魔法はこの世界ではノルドしか使えないと、サーシャは言っていた。なら、勝手に戻せるほどの力を持っている存在は、きっと。
「……創造神?」
「そう。その存在は国王しか会う事は出来ない。だけど、存在は何時でも感じてて、この世界の秩序を守るために色々と操作してる」
戻されたのは、そのせいだということなのね。
常識が違いすぎて分からないけど、魔法がある世界とない世界で神の関与の違いがあるのだろうか。
「分かった。言いにくいこと、聞いたよね。教えてくれてありがとう」
「いや。……ごめん。でも、少しだけ、甘えさせて」
いつだって、甘えて欲しい。
頼ってくれると、必要とされているみたいで私は嬉しいから。悪くないことで謝らなくても良いのに。
でも、それを言うと、かえってノルドを苦しめてしまいそうで、謝ることで何か吐き出して、気持ちが楽になるなら。
そう願いながら、カーテンをゆっくりと引いた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる