子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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深夜

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「……ごめんね。なんか、美味しく出来なかった」

 食事を終えて、リンクの寝かしつけをサーシャに頼み、ノルドと寝室へ入るやいなや、私はしょんぼりしながら謝った。
 頑張って作った魔物料理は、サーシャの事をとやかく言えない出来だった。
 不味いわけではないが、美味しくもない。明確な原因は、とにかく調味料が足りない。塩だけだと、さすがにどれも同じような味になってしまう。
 この土地の農産物を開拓すれば、改良の余地はあると思うのだけど。せめて、主食の米があったら、バランスが取りやすいのに。

「なんで? 美味しかったよ」

 それなのに、ノルドは返答に迷いもせずに褒めてくれる。

「本当?」
「サクラに作ってもらえる料理は全て美味しくて、嬉しくて泣きたくなる」
「……そこまででは、ないと思うけど」
「そこまで、だよ」

 そう言うと、ベッドに腰かけながら、見慣れた淡いピンク色の掛け布団をあげてくれる。

「うん」
「寝ようか。また、早朝に王都に行かなくちゃならなくて朝には出るんだ」
「忙しいの?」
「僕しか出来ないこともあって、兄には今まで長い事、迷惑をかけてるから断れない」

 ノルドは美しい眉を少し上げながら、肩をすくめる。話の流れ的に、……今が聞くチャンスかも知れない。

「私が妊娠と出産と子育てでバタバタしてたから、話してくれなかったの? どうして?」

 少し、トゲがあったかな。でも、これくらいハッキリいわないと、優しさで言葉をくるまれてしまう。

 すると、案の定、ノルドが悲しそうな顔をして否定をする。

「違う。毎日が楽しすぎて、サクラとリンクの生活を壊したくなかった。僕が弱いから、言い出せなかった」
「でも。あと伸ばしにしてたから、大変なことになったんでしょ」
「そうだね。……本音を言うと、一生このまま日本で死ぬまで過ごすのも良いかなって、思ってた」

 それは……、立場的にも無理なのではないだろうか。
 一時的に避難しただけなら、私はノルドの家族を知らないけど心配したに違いない。

「そんなの、ダメだよ」
「知ってる。でも、自分の中で生まれて初めて知った感情を、抑えられなかった。自分勝手だとは思ったけど。結果……、サクラに迷惑かけただけだったけど。でも……、」

 ノルドの声がだんだんと小さくなっていく。
 まだ、よく分からない。

「じゃあ、どうしてこの世界に、突然戻ったの?」
「戻ったんじゃない。強制的に戻されてしまった」

 その時の事を思い出したのか、ノルドの顔が暗くなっている。
 高度な時空魔法はこの世界ではノルドしか使えないと、サーシャは言っていた。なら、勝手に戻せるほどの力を持っている存在は、きっと。

「……創造神?」
「そう。その存在は国王しか会う事は出来ない。だけど、存在は何時でも感じてて、この世界の秩序を守るために色々と操作してる」 

 戻されたのは、そのせいだということなのね。
 常識が違いすぎて分からないけど、魔法がある世界とない世界で神の関与の違いがあるのだろうか。

「分かった。言いにくいこと、聞いたよね。教えてくれてありがとう」
「いや。……ごめん。でも、少しだけ、甘えさせて」

 いつだって、甘えて欲しい。
 頼ってくれると、必要とされているみたいで私は嬉しいから。悪くないことで謝らなくても良いのに。
 でも、それを言うと、かえってノルドを苦しめてしまいそうで、謝ることで何か吐き出して、気持ちが楽になるなら。
 そう願いながら、カーテンをゆっくりと引いた。






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