全方位、光る海面世界

イトウ 

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エピソード②

校舎裏

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「お礼参り、行かなきゃねぇ」
「そうそう。お世話になったし」
「……それって、やらなきゃダメなのか?」
「後で後悔するのも、嫌だろう。」

 中から、そんな話が聞こえた。

 舞台が終わり、これから新生活で忙しくなるからその前に一度みんなで会おうと約束をした。

 わざわざ海沿いの喫茶灯台まで行く必要はないから、潮風駅前の小さな甘味処で待ち合わせをしている。
 ソフトクリームのタダ券を使うためだが、それだけではない。
 なるべく商店街を利用しようと、みんなで決めたからだ。
 食べ盛りの友人たちは、自分たちで買った焼きそばやたこ焼きもテーブルに置いてある。
 どれも、とても美味しそうだが、それどころではない。

 少し遅れてしまった風灯は、深刻そうな顔で4人の話を隠れて聞く。

「なんの話だ?お礼参りって、学校で嫌な人に復讐をするって事、か?」

 普段は人の悪口を言わない友達の、らしからぬ発言に思わず柱に隠れてしまった。

 まだ、風灯が来たことには気付いていないようだ。

「お、俺に対してだったら、どうしよう。みんなには、迷惑かけたし」

 まだ、会話は続けている。
 不安になった風灯は、継続して聞き耳をたてる。

「みんなで行く?」
「あ、それ良いね。早いほうが良いよ」
「この後は、どうだ?」
「夕方になると、閉門するだろ?」

 ……という事は、学校に行くのか?
 確かに、そろそろ夕方にもなる。
 この近くとはいえ、急がないと間に合わないだろう。

「いや、このまま俺がここにいれば、時間がなくて諦めてくれるかもしれない」

 風灯は、ここで待ち合わせのために来た。
 だから自分じゃないはずだ。
 そう思って、少しだけ胸をなでおろす。
 では、誰か?

 考えられるのは、蝶子先生か?いや
 蝶子先生もここに来る予定だ。
 違うだろう。

 ……そうだ。
 海灯も、夕方に何かの用事で高校に行くと言っていた。
 あんなに仲が良い風に見えたが、実は恨んでいたとか?
 とても信じたくないが……。

「そうだ。俺さぁ、いっぱい買っちゃったんだよ」
「おお。見せてみろ」

 蓮二は、何を買ったのだろうか。
 柱の後ろからだと見えない。

 テーブルに何か置かれた音がする。
 何かをその人物から買わされたのだろうか。
 金が絡んでいるとなると、俺で対処できるか分からない。
 どうしようか。

「わぁー。たくさん買ったね」
「お礼もたくさんしなきゃ、ダメだよぉ」

 ………しまいには、ゴトンと大きな音さえする。
 もしかして、武器だろうか。
 平和的に解決を!
 緊張で、手を握りしめる。

「……風灯、遅くない?めずらしい」
「本当だ。約束の時間から15分もたってる」
「そうだな。連絡するか」
「頼む」

 ピロロン
 その直後に風灯のスマホがなる。

 まずい!
 音がなる設定にしてあった。

 きっと、気づかれた。
 覚悟を決めて柱から飛び出し、声を上げる。

「お礼参りなんて、ムダなことやめよう!!!俺が、代わりにみんなの気持ちを受け止めるから!!!」

 4人の前に急いで出る。

 すると、びっくりしたように全員の動きが止まった。

「え?風灯、神様だったの?」
「神社よりも、ご利益あるなら頼みたいけど」

「いや、違うだろ。きっと、バチが当たるのを変わってくれるって事じゃないのか?」
「それなら普通に神社に行こうよ」

 そして、風灯の言葉の意味を議論し始めた。

 さすが日頃から台本をみんな読み込んでいる。
 話の内容の真意は何か考えるクセがついているのだろう。

 ふとテーブルを見ると、お守りやら成功祈願の縁起物がずらりと並んでる。
 さっき、出していた音はこれか……。

「……お礼参りって、本当のお礼参りか」
「本当じゃないのって何?」

 即座に全員から突っ込まれる。
 さすが間のとり方がみんな上手い。

 すると、一連の流れを別の席から見ていた蝶子先生が、涙を流しながら爆笑していた。

「卒業式なら分かるけど、何でこんな時期に?はー、おかしい」
「蝶子先生。居たなら、勘違いしてるって早く教えて下さい」

 この席だと、風灯が柱に隠れていたのも見えていたのだろう。

「うんうん。舞台が成功出来たのは、あなたのおかげでもあります。ありがとう」
 そう言って、涙目のまま蝶子先生は風灯に手を合わせてきた。

「あ、感謝されたかったって事?するよ」
 そう言いながらみんなが風灯に向って手を合わせる。

 その異様な光景に、両手で自分の顔を隠す。
 とても、顔が赤くなってる事だろう。
 甘味処の中は自分たちしかいないが、とても恥ずかしい。

「……もう、やめてくれ」


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