全方位、光る海面世界

イトウ 

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エピソード②

小さい風灯の話(後編)

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「早く片付けろ」

 一人暮らしをの為に、部屋の中を片付けていたらアルバムの中にタイムトリップしていたようだ。

「幼稚園の頃を思い出してた」
「どんな思い出?」
「俺、大好きだった先生がいて」

 ダメなことをしても、頭ごなしに怒るのではなく、ちゃんと話を聞いてくれた。
 優しい声の先生。

「あぁ、覚えている。その先生に折り紙を貰ったのに、誰かにとられたんだろ?」
「あれ?その事、言ったっけ?」
「幼稚園には、連絡ノートというものがある」
「読んでたのかよ?……こわ」
「弟の成長を楽しみにするのは、兄の義務だ」

 そんな訳ない。
 それに、記憶が間違っている。

「俺から、折り紙をあげたんだよ」
「……そうなのか?じゃあ、部屋で泣いてたから勘違いしたのかもしれないな」

 幼稚園のアルバムをもとの場所に戻して置く。
 下宿先に持っていかないのに、サボってみてただけだ。

「今、思うと。物を返さなくても笑って言葉で、ありがとう、って言えばそれで良かったんだなって」
「………大人ならいざ知らず、まぁ、子供ならそれで十分か」
「今の自分なら、絶対に相手も自分も傷つけずに行動できるな、って思う」
「成長したな。そういうのは、大人でも難しい問題だ」

 確かに、内容は違うが似たような事はあるだろう。

 前には思い出したくもなかった事だが、今は無性に懐かしく感じる。
 それは、自分自身のことが少しだけ好きになれたからかもしれない。

 持って行く洋服をたたみながら、また考え出してしまった。

「……どうしてるかな?」
「ん?」
「元気にしていると良いな」

 風灯が渡した後、その子は配るのを止めて、フイッと何処かにいってしまった。

「……やはり、覚えていなかったか。その子、後輩の矢野だよ」
「……え?」
「お互いに知らないみたいだから黙っていたが」
「………本当に?」

 小学校は別の学区だったから、幼稚園以来、会ってない。
 顔も忘れていたが、確かにあの一途さは通じるところがある。

「間違いない。幼稚園に行って事情を詳しく聞いたからな」
「……だから、こわいよ」
「俺が来たことは、誰にも言わないよう担任には口止めをしておいた。波風を立てたくない」
「………モンスターブラザーだ」

 先生も驚いたに違いない。
 100歩ゆずって、せめて親なら分かるが。

「そういや、ハートの折り紙って、風灯にだけ先生がくれたんだっけ?」
「いや、違う。少し前に、みんなに配ってた」
「……そうか。それを、あげたのか」

 今思うと、確かに貰ったものを誰かにあげるなんて良くない事だ。
 今まで自分が良いように、記憶が改変されていたのだろうか。

 よくよく考えると、自分の方が圧倒的に悪い。
 笑顔も言葉も渡してないし。

「やっぱり、一度、何かの折に矢野と話しておけ。向こうも記憶に残ってるかもしれない」
「……どういう事?」
「悔しいな。その時に解決しておけば良かった。当時は、俺も若かったからなぁ」

 若いって、その頃の海灯は中学生ぐらいじゃなかっただろうか。

 うなっている海灯を放っておいて、風灯は段ボールを積み上げた。

 整理するのは、きらいじゃない。

 あと、友達を作るのは昔と違って好きだ。



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