何でもない日の、謎な日常

イトウ 

文字の大きさ
18 / 38

レモンケーキ

しおりを挟む
 忘れるはずのない出来事に、何かが引っかかって、モヤモヤする。

「そんなことあったような、無かったような?」
「いまさら?いつのこと?気になるから話して」

 病人なのに、膝をたたき催促する。

 だが、催促を断るように、紅茶の良い香りがしてきた。

「ケーキ買ってきたわよ。お茶をいれるわね」
 
 凪夜はティーカップから出ている、フワフワ上に上がっていく湯気をぼんやりと見て、何とか思い出そうとする。
 確かにそんな事があったような。でも、思い出せない。
 桃夢は、その時の記憶は、はっきりあるみたいだから、問題は凪夜の方にあるのだろう。

「この店の美味しいよ。オススメはレモンケーキ。酸っぱいの好きだろ?」
「好きだよ。でも、そっちのレアチーズケーキも美味しそうだね」
「半分こするか?」

 見舞いに来た方が心配されてしまうのは、良くないな。と凪夜は反省する。
 それからは、凪夜は今日の補習授業の内容を伝え、いかに南沢がチャラついていたかを熱弁する。
 内容は、まぁ、分かりやすかったので良かったけれど。とフォローするのを忘れない。

 窓の外がまだ明るいので、早い時間かと思ったら、あっという間に南沢との約束の時間になった。
 夏に近づいてきたのだろう。太陽の入りが遅い。
 南沢がいきなり部屋に入ってきて、座り込んだ。

「桃夢先輩、大丈夫ですか?ほら、今日の補習の内容、まとめてきましたよ」

 ポンッと桃夢の膝の上に置かれる。

「凪夜が、ノート見せてくれたら別に良いや。完璧なやつ」

 桃夢がプリントをパラパラしながら、苦笑いする。
 南沢は虫に刺されていない所を選んで、桃夢の腕をつねる。

「……まぁ、良いや。暗くなる前に帰ろうか?凪夜くん」
「そうですね。仕事中すみません。お願いします」

 階段を降りてから、あら?ケーキあるわよ。と言う言葉の誘惑に南沢は負けず玄関を出ていく。

 例のチャラいスポーツカーに乗り込み、そして、凪夜は家の場所を言いかけると、南沢は笑って言う。

「大丈夫だよ。行ったことあるから分かるよ」
「何で知ってるの?」

 もしかして。と、凪夜の無くした記憶と結びつく。

「ほら、凪夜くんが過労で倒れて、車で家まで送っていったんだよ。桃夢先輩と一緒に」
「やっぱり。それ、いつ頃ですか?俺、記憶なくて」

 昔の事だし他の生徒の合否でもバタバタしてた頃だから、あんまり覚えてないんだけど、と前置きしつつ答えた。

「中学受験の試験の後だよ。いきなり凪夜くんが塾に電話してきて、倒れそうとか言うから慌てて試験会場に向かったんだ」

 やっぱり、その頃か。
 調子が悪くて、倒れたのだろうか。凪夜は、その頃の記憶がおぼろげに、なっている。

「そしたら、絶対受かるって言われてたのに、まさか希望の中学を落ちるだもんな。俺ら、塾を辞めさせられるかと、思って覚悟したわ。結果、おとがめ無しだったから良かったけど」

 別に試験に落ちたのは塾のせいじゃなくて、俺の健康管理が出来なかったせいだろう。
 模試では、余裕で合格圏内だったんだから。

「俺。落ちた記憶はあるんだ。1校しか受けてなかったから、あきらめて公立の中学校いったのは覚えてる」

 それにしても、何でだろう。本当にそれだけだろうか。
 明日、春人に聞いてみよう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...