何でもない日の、謎な日常

イトウ 

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代理講師

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「こんにちは!本日は病欠の篠田先生の代理で来ました。南沢裕翔。31才です。ビシバシ授業をしていくので、ついてきてください」

 そんなに強くいきそうもない、ゆるく明るい口調で南沢は授業を始めていく。
 南沢は桃夢と同じ塾の講師で、凪夜もその塾へ通っていたので付き合いは長い。

 補習が終わり、桃夢の状況を聞くために凪夜は南沢に駆け寄ると、南沢は「その話?」と、軽い調子で教えてくれた。

 すると、昨日の午前中に病院へ行った後、塾の仕事を終え家に帰ったら、すぐに高熱が出たらしい。
 今は、落ち着いてきたが、家で休んでいるそうだ。

 やはり、ブヨか何かに刺されて悪化してしまったのだろうか。
 凪夜は、あの時すぐに病院へ行け、と言わなかった事に後悔する。そうしたら熱が出なかったかもしれない。

「凪夜くん、篠田先生がそんなだから部活行けないって、部員のみんなに伝えてくれないかな?」

 ずっと下を向いてる凪夜に向かって、顔を覗き込み、申し訳無さそうにお願いしてくる。

「あの、南沢先生はもう帰りですか?」
「そうなんだ。これから、木曜日は夜も塾で授業があって行かなきゃならなくて。火曜日なら休みだったんだけど。本当にごめんね」

 顔の横に両手を合わせて、小首をかしげる。
 大人なのにあざといポーズをしやがって、と少し不信感があがる。でも、お願いがあるので、殊勝な態度をする事にした。

「桃夢先生の所に行きたいのですが、連れてってくれませんか?」

 南沢は、感染症じゃないみたいだから大丈夫かな、など、色々な大人の事情的な事を悩みながら、結果的に良いよ。と快く返事をしてくれた。

「ここの教員には内緒にしてね。今、部外者が生徒を車に乗せたりすると、色々うるさいから」

 もちろん、それは言われなくても大丈夫である。

 春人にメールをいれ返事が来た後、2人は駐車場に向かう。
 案内された車は国産のスポーツカーで凪夜は少し気後れする。なんだか、チャラくて高そうだ。

 シューズに土とかついてないかな、とチェックしつつ乗り込み、シートベルトが入っているか確認する。南沢に不安そうなのがバレてしまったらしく。

「大丈夫。指定速度の安全運転で、送らせていただきますね。この学校の私道のうちは分からないけどね」

 南沢が、横の運転席から軽い調子でウィンカーを出しながら、ウィンクをしてきた。
 凪夜は性格が合わないな、と割り切る。

 しばらくクネクネとした道を降りていくが、一抹の不安に反して安全運転で驚いた。
 前のめりになる感じが一切ない。
 
 桃夢の家は、鎌倉駅から車ですぐらしい。
 ただ車が1台通れるくらいの狭い道なので、はじめて来た人は必ず道に迷うそうだ。
 少し進むと戸建ての家が並んでいる区画にやってきた。

「このあたりですか?」
「そう実家暮らしだから。でも、突然行っても大丈夫なウェルカムな家だよ。鎌倉っていっても、昔から住んでるだけで名家って訳じゃないらしいし」

 まぁまぁ失礼な言い方な気もするが、南沢の方が桃夢と違って、何となく金持ちそうなオーラが出てるので何とも言えない。

「ここだよ。どうぞ、足元に気をつけて」

 南沢が先に降りて、凪夜のドアを開けてくれる。

「今、17時くらいかな。18時から少し休憩時間があるから、迎えに来て家まで送るよ。1時間後にくるね」

 そう言ってスマートに去っていく。根は真面目で優しいのかもしれないと少し印象があがった。

 家の前には花の植木鉢がたくさんおいてあり、手入れもきちんとされているようだ。
 古いけれど、リフォーム後らしく住心地が良さそうだ。
 凪夜は、少し、気後れして家の前で立ち尽くし、窓のある上を見る。
 換気のためだろうか、窓が空いているからあそこが部屋かもしれない。
 意を決して、インターフォンを鳴らす。
 インターフォンから声がするの待ってたが、いきなり玄関から優しそうな60才くらいの女性がニコニコしながら出てきた。
 母親だろうか。

「こんにちは!懐かしいわぁ。その制服、森守の山学園のでしょ?変わってないのねぇー。桃夢の生徒さん?」

 間違いがない。この、壁の作らない雰囲気は家族だ。

「はい。お見舞いに来ました」
「大丈夫よ。上がって。熱も下がったし」

 凪夜は、お見舞いの品も何も持ってきていない事に気付いて、しまった。という顔をする。
 しかし、そんな様子に全く気にせず、どうぞどうぞ、と階段をのぼり部屋へ向かう。

 コンコンっと、軽い音をたてドアをノックすると中から、いつもより弱っている声がする。

「なにー。母さん。だいぶ、良くなったわ。あ、あれ?凪夜、どうしてここに?」

 ボサっとした髪に黒のスウェットの上下を着て、暇なのか本を読んでいた。

「お見舞いにきた。今日来ないと、4日間は会えないから」

 桃夢は来客用の座布団を出し、座るようにすすめてくる。

「心配かけてごめんなぁ。俺が凪夜の見舞いに行った事、思い出すよ。今日は逆だな」
「え?覚えてない。いつのこと?」








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