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あらたな展開
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今日は木曜日。
夏休みがあけて、久しぶりの部活だ。
桃夢は、部室の1ヶ月分の溜まったホコリを一網打尽にしようと気合を入れて部室までやって来た。
頭には三角巾、腰にはエプロンをかけ、口にはマスク。
掃除をする格好としては完璧だ。
講師としては、どうだか分からない。
「よしっ!」
水が入って重たくなった金属製のバケツを廊下にドンッと置き、勢いよく扉を開け、声をあげる。
「みんな!久しぶり。元気だったか?」
全員が駆け寄ってくる想像までして大きく腕を広げた。
しかし、全く反応がない。
それもそうだ。明るい髪色の人物が中央に陣取り、部員全員と談笑している。
後ろを向いていて顔は見えないが、只者ではないオーラを感じる。
そして、どうやらここに桃夢を気にかけてくれる部員は、いないらしい。
唯一、春人は気の毒そうに、こちらを向いて申し訳程度に会釈をしてくれたが、それだけだ。
それなら、いっそのこと無視してくれた方が良い。
かすかに持っているプライドが傷つくが、顧問という立場上ここで失礼しました、と言って帰るわけにはいかない。
意を決して、輪の中に入り声をかける事にした。
「すみません。あの、私はミステリー研究会の顧問の篠田桃夢と申しますが、どなた様でしょうか?」
おずおずと言うと、謎の人物は少し長めの髪を揺らしながら振り向き、にこやかに挨拶をしてきた。
「こんにちは。今月から産休に入った石川先生の代理教員で来た藤森護です。来週からお世話になります」
笑った時の白い歯と洋風な顔立ちの笑顔が眩しい。
年齢は25才くらいだろうか。
南沢とは別のベクトルでの端正な容姿に、桃夢は完全に敗北感をあじわう。
しかし、どこかで見たような顔だが思い出せない。
記憶力は良い方だと思うから、昔に会ったのだろうか。
初対面なら不審に思わせてしまうから、聞くに聞けない。
いくら考えても無理そうなので潔く諦め、代わりに大きくなったお腹を優しく撫でていた石川先生の優しい笑顔を思い出す。
ぎりぎりまで働いていたから、そろそろ産まれた頃だろうか。
ぼんやり考え事をしていたら怪訝そうな顔で見られてしまった。
あわてて、手をエプロンの裾で拭いて手をあげる。
「はじめまして。藤森先生。こんな格好ですみません。よろしくお願いします」
藤森からスッと差し出された美しい手に、自分のガサガサの手でさわっていいのか迷ったが、握手をしないのも失礼かと思って軽く手を合わせる。
「はい。篠田先生の事は噂で良く聞いています。会えて嬉しいです」
そう言いながら力強く握り返され驚く。
桃夢は、どんな良からぬ噂だろうかと、疑問に持ちながら、気になっていた事を話しかける。
「イギリスから来日して頂けると聞いていましたが、日本語がネイティブなんですか?とても上手なので」
藤森は含みがあるように口角を上げながら、うなずく。
「ええ。産まれてから高校まで日本で過ごしました。そして、高校卒業後にイギリスへ渡り7年ほど滞在して、また日本に帰国しています」
「なるほど。イギリスへは大学進学ですか?」
「ええ。超常現象についての研究員をしています。幼少から訓練を受けていて、日本では学ぶことがなくなったので渡英しました」
部員たちは、その経歴に興味を持ち質問をしてたようだ。確かにめずらしい。
特に、凪夜は好奇心旺盛のようで紙とペンでメモまでしている。
「そもそも、英語教師と言うのは名目上で、実は学園長から依頼を受け、この学校へきました。あまり知らない人物が校内をふらふらしてると、あやしまれますからね」
「はぁ」
言っていることが、良くわからない。
「正確には、仕事仲間の金井さんがこの件の調査をしていたのですが、イギリスに勤務移動になったため私が引き継いだのです」
少し会話を端折りすぎではないだろうか。
「というと、どういうことでしょうか?金井さんとは?」
話を折るのはどうかと思ったが、耐えられずたずねると、藤森は少しだけ首を傾げる。
「学園長から話が無かったですか?金井さんは、私の同僚で、自然を含む超常現象の研究をしている方です。確か、この学校に金井さんの息子さんの翔太くんが通っていたはずですが」
夏葉が、金井翔太という名前にいち早く反応する。
「あぁ。あのイギリスに引っ越しした金井くんね」
桃夢も、もちろん覚えている。
あれから、数回メールを交換したが、何もそんな事を言っていなかった。
桃夢は、再度確認する。
「学園長から依頼を受けた翔太の父親が藤森先生に仕事を引継いだってことですね」
藤森はうなずいて、少し目を伏せてため息をつく。
「と言っても、私は別件で忙しく、この件に関する細かい調査には学園を良く知っている協力者が必要なのです」
そう言い、強い目でこちらを見てくる。
急展開に桃夢は焦り、生徒たちは話についていけなくなっているようだ。
何とも言えず、黙っていると藤森は説明を続けた。
「私が依頼された調査とは科学では解決できない事案についてです。もしかしたら、人体に影響がある可能性もあるので、至急解決を学園長は望まれています」
藤森は怖い事を淡々と説明する。
ということは、あきらかに呪いであるとか、魔術とかそっちのことを示唆しているようだ。
桃夢は、そっと凪夜を横目で見た。すると青い顔になって震えている。思い当たるフシがありすぎるらしい。
「大丈夫だ。大体の事は99%科学で解決出来るよ」
桃夢は、安心させようと声をかけるが全く心に響いていない。
「あとの1%だったのかもしれない」
と言って、目を潤みだした。
事情を知らない藤森は、その様子に何かを察しながら凪夜の肩に手を置く。
「大丈夫だよ。凪夜くん。私はその1%の為に来たんだから。そして、篠田先生は、あとの99%をお願いします」
そう言って、桃夢の方へ顔を向け深々と頭を下げた。
あきらかに負担のバランスが悪すぎるだろう、とモヤモヤはしたものの、仮にも先生という立場上、後ろ向きなことは言えない。
「わかりました。まかせて下さい!」
夏休みがあけて、久しぶりの部活だ。
桃夢は、部室の1ヶ月分の溜まったホコリを一網打尽にしようと気合を入れて部室までやって来た。
頭には三角巾、腰にはエプロンをかけ、口にはマスク。
掃除をする格好としては完璧だ。
講師としては、どうだか分からない。
「よしっ!」
水が入って重たくなった金属製のバケツを廊下にドンッと置き、勢いよく扉を開け、声をあげる。
「みんな!久しぶり。元気だったか?」
全員が駆け寄ってくる想像までして大きく腕を広げた。
しかし、全く反応がない。
それもそうだ。明るい髪色の人物が中央に陣取り、部員全員と談笑している。
後ろを向いていて顔は見えないが、只者ではないオーラを感じる。
そして、どうやらここに桃夢を気にかけてくれる部員は、いないらしい。
唯一、春人は気の毒そうに、こちらを向いて申し訳程度に会釈をしてくれたが、それだけだ。
それなら、いっそのこと無視してくれた方が良い。
かすかに持っているプライドが傷つくが、顧問という立場上ここで失礼しました、と言って帰るわけにはいかない。
意を決して、輪の中に入り声をかける事にした。
「すみません。あの、私はミステリー研究会の顧問の篠田桃夢と申しますが、どなた様でしょうか?」
おずおずと言うと、謎の人物は少し長めの髪を揺らしながら振り向き、にこやかに挨拶をしてきた。
「こんにちは。今月から産休に入った石川先生の代理教員で来た藤森護です。来週からお世話になります」
笑った時の白い歯と洋風な顔立ちの笑顔が眩しい。
年齢は25才くらいだろうか。
南沢とは別のベクトルでの端正な容姿に、桃夢は完全に敗北感をあじわう。
しかし、どこかで見たような顔だが思い出せない。
記憶力は良い方だと思うから、昔に会ったのだろうか。
初対面なら不審に思わせてしまうから、聞くに聞けない。
いくら考えても無理そうなので潔く諦め、代わりに大きくなったお腹を優しく撫でていた石川先生の優しい笑顔を思い出す。
ぎりぎりまで働いていたから、そろそろ産まれた頃だろうか。
ぼんやり考え事をしていたら怪訝そうな顔で見られてしまった。
あわてて、手をエプロンの裾で拭いて手をあげる。
「はじめまして。藤森先生。こんな格好ですみません。よろしくお願いします」
藤森からスッと差し出された美しい手に、自分のガサガサの手でさわっていいのか迷ったが、握手をしないのも失礼かと思って軽く手を合わせる。
「はい。篠田先生の事は噂で良く聞いています。会えて嬉しいです」
そう言いながら力強く握り返され驚く。
桃夢は、どんな良からぬ噂だろうかと、疑問に持ちながら、気になっていた事を話しかける。
「イギリスから来日して頂けると聞いていましたが、日本語がネイティブなんですか?とても上手なので」
藤森は含みがあるように口角を上げながら、うなずく。
「ええ。産まれてから高校まで日本で過ごしました。そして、高校卒業後にイギリスへ渡り7年ほど滞在して、また日本に帰国しています」
「なるほど。イギリスへは大学進学ですか?」
「ええ。超常現象についての研究員をしています。幼少から訓練を受けていて、日本では学ぶことがなくなったので渡英しました」
部員たちは、その経歴に興味を持ち質問をしてたようだ。確かにめずらしい。
特に、凪夜は好奇心旺盛のようで紙とペンでメモまでしている。
「そもそも、英語教師と言うのは名目上で、実は学園長から依頼を受け、この学校へきました。あまり知らない人物が校内をふらふらしてると、あやしまれますからね」
「はぁ」
言っていることが、良くわからない。
「正確には、仕事仲間の金井さんがこの件の調査をしていたのですが、イギリスに勤務移動になったため私が引き継いだのです」
少し会話を端折りすぎではないだろうか。
「というと、どういうことでしょうか?金井さんとは?」
話を折るのはどうかと思ったが、耐えられずたずねると、藤森は少しだけ首を傾げる。
「学園長から話が無かったですか?金井さんは、私の同僚で、自然を含む超常現象の研究をしている方です。確か、この学校に金井さんの息子さんの翔太くんが通っていたはずですが」
夏葉が、金井翔太という名前にいち早く反応する。
「あぁ。あのイギリスに引っ越しした金井くんね」
桃夢も、もちろん覚えている。
あれから、数回メールを交換したが、何もそんな事を言っていなかった。
桃夢は、再度確認する。
「学園長から依頼を受けた翔太の父親が藤森先生に仕事を引継いだってことですね」
藤森はうなずいて、少し目を伏せてため息をつく。
「と言っても、私は別件で忙しく、この件に関する細かい調査には学園を良く知っている協力者が必要なのです」
そう言い、強い目でこちらを見てくる。
急展開に桃夢は焦り、生徒たちは話についていけなくなっているようだ。
何とも言えず、黙っていると藤森は説明を続けた。
「私が依頼された調査とは科学では解決できない事案についてです。もしかしたら、人体に影響がある可能性もあるので、至急解決を学園長は望まれています」
藤森は怖い事を淡々と説明する。
ということは、あきらかに呪いであるとか、魔術とかそっちのことを示唆しているようだ。
桃夢は、そっと凪夜を横目で見た。すると青い顔になって震えている。思い当たるフシがありすぎるらしい。
「大丈夫だ。大体の事は99%科学で解決出来るよ」
桃夢は、安心させようと声をかけるが全く心に響いていない。
「あとの1%だったのかもしれない」
と言って、目を潤みだした。
事情を知らない藤森は、その様子に何かを察しながら凪夜の肩に手を置く。
「大丈夫だよ。凪夜くん。私はその1%の為に来たんだから。そして、篠田先生は、あとの99%をお願いします」
そう言って、桃夢の方へ顔を向け深々と頭を下げた。
あきらかに負担のバランスが悪すぎるだろう、とモヤモヤはしたものの、仮にも先生という立場上、後ろ向きなことは言えない。
「わかりました。まかせて下さい!」
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