紡ぐ、ひとすじ

イトウ 

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急な階段

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 翌日の金曜日。

 明日は休みだからなのか、下校中の生徒たちは晴れやかな笑顔で家へ帰っていく。
 反対に、尚澄は少し思い詰めたような顔をして下唇を噛んでいた。

「話が、あるんだ」

 やっぱり、昨日は言い過ぎたのだろうか。

「中学の事? ごめん。すみくんにはすみくんの、考えがあるよね。僕の考えなしだった」
「その事だけど……、今は、その事じゃない。明日の土曜日さ、予定ある?」

 では、どの事なのだろうか。見当もつかないが、思い当たることは、他にはない。
 とりあえず予定はないので、少しでも明るい声で「ないよ」と答える。
 すると、ホッとしたように、尚澄は笑顔を見せてくれた。

「一緒に、遊ぼう。うちにくる? それとも、すみくんの家?」

 たいてい、どちらかの家に行くから二択で聞く。
 だが、どちらも違ったようで、思いもつかないもう一つの選択肢が出てきた。

「ねえ。海、行かない?」
「うみ、って、あの海? しょっぱいやつ? どうして?」

 いきなり、どうしたんだろう。
 とっさに『うみ』が思いつかなくて、変な返答をしてしまった。

「何かさ、いつもと同じじゃない所で話をしたい」
「どうやって行くの? お母さん、きっと子供だけはダメって言うよ」
「親には、黙って行こう」

 今まで、2人共に、親にあまり反抗したことがない。
 自己主張が少ないこともあると思うが、反抗する必要がないくらい、自由にさせて貰っているからだと思う。
 尚澄は、反抗期にでもなったというのだろうか。
 いきなり、内緒で遠出するなんて見つかったら怒られるに決まっている。

「バレちゃうよ」 
「平気だよ。何回も行ったことのある場所だし。バスに乗って、電車に乗って、さらに乗り換えて、電車に乗ったら、駅の前が海。片道2時間くらいだから、夕方には帰れる」

 そう何気なく言われると簡単なような気もするが、今までなら考えられない突飛な行動に唖然とする。
 でも、尚澄の強い覚悟を決めた目を見て、絶対に、ここで断ってはいけない気がした。

「うん。良いよ」

 だから、柚流は、はっきりと返事をした。


 次の日は快晴で、潮風を受けながら2人は海を見ていた。

「すごいね、大きい!」

 大きな空に大きい海。
 空と海がつながっていて、地球の一員になれたみたい。
 最近はずっと寒かったけど、今日は太陽が出てきてくれて、水面をキラキラと光らせてくれている。

 せっかくだから、と長い橋を渡り、島を登りながら神社にお参りに行く。

 土曜日だから、まぁまぁの人混みだ。
 でも、それくらいの方が観光をしている気分になって楽しい。
 しばらく、息を切らしながら長い階段を登ると、大きな神社が出てきた。
 少し並んでいたから順番を待ち、お財布の中から小銭を取り出し、賽銭箱に入れて、手を合わせる。

 何を願えば良いのか分からなくて、ずっとずっと尚澄と一緒にいられますように、と、柚流の心の中で毎日考えている願いにした。

 柚流が目を開けて一礼をしても、尚澄は、まだ手を合わせている。

 …………何をそんなに思う事が、あるんだろうか。

 次の人に譲ろうか、待とうか、居心地悪そうにチラチラ横を見ていると、そのタイミングで尚澄がこっちを見て、恥ずかしそうに笑った。

 その後は、気ままに過ごす。

 適当に歩いていたら、路地裏に入り込み、案の定、自分たちは見知らぬ所に迷い込み、ぐるぐると細い道を何度も往復し続けるはめになった。

 完全に迷子になっていたら、そこで散歩をしていた野良猫を見つけ、どこに行くのか気になって、探偵みたいに2人で後をつける。
 だけど、その猫は途中で消えてしまって、代わりに出会った地元の人道を聞いて、なんとか脱出することが出来た。

 知っている海が見えると、安堵のため息を2人でついて、きっと、あの猫が教えてくれたんだね、と言い合って笑った。

 小さい島の中を思いつくまま、さんざん観光したあと、海辺で話そうよ、と尚澄に腕をつかまれる。

 柚流は、胸がギュッと、しめつけられるような気持ちになる。
 何で、海に誘ってきたのかを、いよいよ聞けるのかな、と緊張してきた。

 砂が靴の中に入らないように気をつけながら、海辺を歩く。

「少し、疲れたね」

 柚流がつぶやくと、尚澄は近くにあった大きな岩を見つけて、座ろうかと聞いてきた。
 軽くうなずき、尚澄の後について行って、岩に座る。きっと、たくさんの人が座って削れたのだろう。でこぼこしていなくて座りやすい。

 海から風が吹いて、少し寒く感じる。
 すると、察しの良い尚澄は上着をかけてくれた。

「温かい飲み物、欲しいよね」

 そう言って、自動販売機まで走り出す。飲み物まで買ってきてくれるらしい。
 
 待っている間、のんびりと海を見るが、目の前には家族連れや恋人同士が、海辺で水しぶきを足にあびながら笑い合っていて、寒くないのだろうか、と自分の事は棚に上げて心配する。

 海が奏でる、ささやきのような海音と、ささやかな人の声を黙って聞いていると、尚澄が息を切らして帰ってきた。

「ありがとう」
「これで、体が、あたたまると良いけど」

 受け取ったミルクティーは、とても温かい。
 オレンジ色のキャップをひねって、ひとくち飲むと、とても甘い。この甘すぎるくらいが、今は美味しく感じる。

「あの、さ」

 その時、尚澄が全ての音を消すように。
 突然、話し出した。
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