好きの証明

眠りん

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中編

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 ヤスシは第一印象は感じの良い男だった。ガッシリとした身体つきだが、怖さを感じさせない柔和な笑みが警戒心を一気に無くさせる。

 瑞都と同じような身長なので、隣に並ぶと大人と子供のようだが、ヤスシは外でも気にせずに手を繋いできた。

「手、繋ぐの嫌だった?」

「いえ!」

 晃は好きな人とはイチャイチャしていたい方だ。外だと恥ずかしさはあるが、地元ではないし、初対面でも恋人扱いしてもらえる事に嬉しいと感じた。

「晃君、凄くタイプだよ。お試しで付き合わない?」

「俺も、ヤスシさんタイプです! 是非!」

 出会って十分。付き合うのが当たり前、という流れで始まった関係に、晃は運命的なものを感じていた。

 付き合った初日は良かった。ヤスシも本名は利根泰とねやすしという会社員だと明かし、晃が好むアパレルショップや、ゲームセンターに付き合った。
 会話も楽しく、晃はすぐに心を開いた。

 ディナーの時も、頼れる大人な泰は、晃に気付かれる事なく会計をし、晃を驚かせた。
 泰への信頼感が高まった後、自然とホテルに直行した。

「晃君、今日一緒にいて凄く楽しかったよ。相性が良いみたいだ」

「俺もそう思ったよ、泰さんとは長く付き合えそうだね」

「そう言ってもらえて嬉しい」

 泰が晃をベッドに寝かせて、シャツの下へと手を入れる。乳首を指でコリコリと弄られながら、何度もキスをした。
 舌を絡ませると、晃の身体は弛緩した。
 気付けばズボンも、下着も脱がされて、優しく大事なものを扱うようにアナルをなぞられる。

「んっ……俺女じゃないし、泰の好きなようにしていいよ? 多少乱暴にしても、慣れてるし」

「そうされたい?」

「そういうわけじゃないけど。泰が疲れないかな? って」

「大丈夫。好きな人の身体だもん、大事にしたいんだ」

 その言葉に晃はジーンと感動した。瑞都から欲しかったものを、一日で全て貰えたのだ。
 一生泰に尽くしたいと思ってしまう程、感動した。

 だが、不思議だった。その感動はまるで、環境最悪な職場からホワイトな職場に転職した時のような嬉しさに似ている。
 好きな人に「好き」と言われた嬉しさではないように感じた。

「俺、泰が好き」

「うん。晃、好きだよ。愛してる」

 泰に身体を貫かれる。何度お互い好きと言い合っても、違和感は拭えなかった。


 それから休日は泰と過ごすようになった。良かったのは最初の三回目のデートまでだ。
 釣った魚に餌はやらないとでもいうかのように、泰の態度は一変した。

「晃、俺財布忘れた。ここ払っといて」

「ええっ! まぁいいけど」

 四回に一回は財布を忘れてくるのだ。そういう時に限って、映画デートを予定していたり、カラオケデートを予定していた。
 仕方なく全額晃が支払うが、一応後日に返金されるのであまり文句は言えなかった。

 だが、返金をしてくれるのは映画代やカラオケ料金のみで、食費やその他の雑費は返さない。
 晃も恋人に奢るくらいは普通か、と強く言えないでいた。

 変わったのは夜も同じだ。最初は大事にされている実感があったが、今では性処理の道具に使われている感が否めない。

 土日は晃の部屋で過ごすようなデートをした時だ。
 夜になり、晃が泰のものを大事に扱うようにフェラをしていると、

「おい晃、下手だな。そこはもっと喉使えよ!」

 と、急に頭を掴んで、オナホでも使うように頭を前後に揺さぶってきた。

(う、脳が揺さぶられる……)

 気持ち悪さもあったが、晃は泰がそれで気持ち良くなってくれるなら、と好きにさせた。
 口の中に暖かいものがじわりと広がる。

 急に出された精液は、飲み込む準備もしていなかったのもあり、どんどん口の中に溜まっていく。

(え、イッたの?)

 さすがに飲み込めず、洗面台に行って吐き出した。気持ち悪さに嗚咽を漏らす。
 だがこれからが本番なのだから、と寝室に戻ると、泰は布団を被って横になっていた。

「ごめん、続きしよ?」

「悪い、今日はもう寝るわ」

「嘘。俺まだなんだけど……」

「ごめんごめん。ちょっと仕事で疲れててさ。フリーターの晃には分からないだろうけど、ストレス半端ないのよ?
 明日は一日イチャイチャしよう、それでいいだろ?」

「あ、ごめん。泰が辛い思いしてるのに、気付けなくて」

「いいよ。晃のそういう優しいところ、大好き。じゃあお休み」

 泰にそう言われてしまうと、許してしまう。好きだと言ってもらえる事が晃を縛り付けていた。

 泰に振り回される生活が二ヶ月続いた。その時の晃は、職場の同僚達に心配されるくらいには、やつれ始めていた。
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