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十四話 喧嘩
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嫌な予感がする──なんて言葉は、日常的には聞かないが、生きていれば何度も耳にする言葉だ。
しかも、その嫌な予感というものは意外と当たったりするものだ。
自分の中で確信はないが、何か嫌な事が起こりそうな気がする、というレベルの曖昧なものだろう。だが、それには原因がある。
第六感が働いているわけでも、予知能力でも、スピリチュアルなものでもなんでもない。人間の持つ、今までの記憶、経験値等から、ある程度予測する事が出来る為、嫌な予感というものは当たるのだ。
例えを上げると、中学時代にあった事だが、俺が道で初めて見る野良猫を見掛けた。その通学路は野良猫のいる道で、それ自体はそんなに気にする事ではない。
その新しい野良猫はまだ一歳にも満たないくらいの子だろうか。人に懐いてきたから、飼われていた猫なのかもしれん。
不安に思ったんだ。ここは一本道なんだが意外と車の通りも多い、長く住み着いてる猫は分かっているから車道にはあまり出てこない。
でもその猫は俺の顔を見て、めっちゃ可愛い笑顔で普通に車道に出て立ち止まった。大丈夫かな、なんて。
その日の夕方、帰りにその道を通ると、そこには内臓をぶちまけて死んでいるさっきの猫がいた。
嫌な予感というのは過去の経験から考えられる予測であり、最悪の事態の想定から得られるものである──というのが俺の見解。
いきなりなんでこんな事を言い出したかって?
嫌な予感が当たったからだ。
女装カフェでの一件があった翌日も俺は怜治の家にお邪魔していた。
二人きりになったらやる事は一つだとでも言わんばかりに俺らはベッドの上でお互い裸になってくんずほぐれつしていたら、急に怜治の部屋のドアが開いた。
「ねぇ、うるっっさい!! そういう事は他でしてよぉっ!!」
喧嘩を売りに来た橋村姉が唐突に現れたのだ。確かに廊下を歩く音が聞こえたかもしれない。でも、入ってくるなんて思わないだろ。
ベッドはドア側を向いており、四つん這いで怜治を犯していた俺は、橋村姉と目が合った。
「あ、姉貴!?」
と、驚きの声を上げた怜治は、上を向いたままビックリして口をパクパクさせている。ドのつくシスコンだし、見られたくなかったんだろうなぁ。
俺は嫌な予感がした。
別にいきなり現れた事は予測も出来ていなかったし、何言われるだろうかくらいの不安でしかない。
怜治曰く俺を見て風花に似ていると思ったらしい事と、昨日俺が風花の姿で橋村姉を煽った事が懸念材料だ。
いずれは男の姿のままで顔を合わせるだろうとは思っていたが、こんなに早いと思っていなかった。
「って、相手男かよ……っつか、アンタ!!」
橋村姉は不機嫌な顔で、男同士な事には何も触れないまま俺を指さした。
昨日もだけど、コイツ何度俺に指突き出せば気が済むんだよ、折るぞ。
「昨日あのカフェにいた女!? あれ、でも男……」
「あの。すみません。見苦しいところをお見せして。俺ら外に出ますから」
「そ、そう? ならいいんだけど」
怜治が姉に罵倒しそうだったから、俺は怜治の口を押さえた。
「怜治も、お姉さんに見られたら恥ずかしいって言ってます。なので……」
「分かったわ。一分で出ていきなさいよ」
そして嵐は去っていった。
怜治は溜息をつきながら服を着た。
「ごめん、姉貴帰ってきてたの気付かなかった」
「いや、俺も気付いてなかったし」
「俺、まだ姉貴に本当の気持ち話してすらいないのに……」
「いい加減、早く言えって。仲悪いからああやって凸ってきたんだろ? 仲良かったら気ぃ遣って入ってこねーよ」
「俺が悪いっていいたいのかよ? つか、お前なんか風花ちゃんに似てなきゃ付き合ってなかったんだからな!」
「……ふーん? つまり、お前は俺を妹の代わりにしてたって事だよな?
あれぇ? どこかの誰かさんが、妹の代わりはしないって言ってたのになぁ」
一瞬廊下を歩く音がした。橋村姉が部屋に入る前に一瞬聞こえてきた音でもある。再び嫌な予感だ。
「うっせぇ! つか、潤はさぁ……」
その言葉と同時にまた橋村姉が入ってきた。
「……潤? って、その男の名前?」
俺と怜治は喧嘩してたのに、シーンと静まった。俺はマズいと思っていた。
橋村姉はスマホを手に、不信感満載の顔で俺を見てきた。
「ねぇ、昨日私が行ったカフェ、女装カフェだって今友達から聞いたんだけど。
確か、昨日私に喧嘩売ってきた女もジュンって呼ばれてた。あなたと同じ顔だった」
「お姉さん、俺は今怜治と喧嘩してるんです。用がないなら出ていってもらえませんか?
あなたに喧嘩を売った女なんて知りませんよ」
「私これから友達と出掛けるから、アンタらは外出なくていいよ」
「そうですか、それなら有難いです」
「本当に? 昨日の夜、フェアリーって名前のカフェにいたの、あなたの姉が妹か、女装したあなたじゃないの?」
「姉はいませんし、妹は去年亡くなりましたから。俺は知りません」
わざとらしくニッコリとした笑顔を見せると、橋村姉はすごすごと家を出ていった。
「あの……さ、潤。ごめん。言い過ぎた」
「ううん。俺もごめん」
お互い顔を見合わせて笑顔で謝りあった。
俺は嘘が得意だ。さっきの言葉は忘れねぇって思っていても口には出さない。
へぇー、俺って、風花の代わりなんだ?
しかも、その嫌な予感というものは意外と当たったりするものだ。
自分の中で確信はないが、何か嫌な事が起こりそうな気がする、というレベルの曖昧なものだろう。だが、それには原因がある。
第六感が働いているわけでも、予知能力でも、スピリチュアルなものでもなんでもない。人間の持つ、今までの記憶、経験値等から、ある程度予測する事が出来る為、嫌な予感というものは当たるのだ。
例えを上げると、中学時代にあった事だが、俺が道で初めて見る野良猫を見掛けた。その通学路は野良猫のいる道で、それ自体はそんなに気にする事ではない。
その新しい野良猫はまだ一歳にも満たないくらいの子だろうか。人に懐いてきたから、飼われていた猫なのかもしれん。
不安に思ったんだ。ここは一本道なんだが意外と車の通りも多い、長く住み着いてる猫は分かっているから車道にはあまり出てこない。
でもその猫は俺の顔を見て、めっちゃ可愛い笑顔で普通に車道に出て立ち止まった。大丈夫かな、なんて。
その日の夕方、帰りにその道を通ると、そこには内臓をぶちまけて死んでいるさっきの猫がいた。
嫌な予感というのは過去の経験から考えられる予測であり、最悪の事態の想定から得られるものである──というのが俺の見解。
いきなりなんでこんな事を言い出したかって?
嫌な予感が当たったからだ。
女装カフェでの一件があった翌日も俺は怜治の家にお邪魔していた。
二人きりになったらやる事は一つだとでも言わんばかりに俺らはベッドの上でお互い裸になってくんずほぐれつしていたら、急に怜治の部屋のドアが開いた。
「ねぇ、うるっっさい!! そういう事は他でしてよぉっ!!」
喧嘩を売りに来た橋村姉が唐突に現れたのだ。確かに廊下を歩く音が聞こえたかもしれない。でも、入ってくるなんて思わないだろ。
ベッドはドア側を向いており、四つん這いで怜治を犯していた俺は、橋村姉と目が合った。
「あ、姉貴!?」
と、驚きの声を上げた怜治は、上を向いたままビックリして口をパクパクさせている。ドのつくシスコンだし、見られたくなかったんだろうなぁ。
俺は嫌な予感がした。
別にいきなり現れた事は予測も出来ていなかったし、何言われるだろうかくらいの不安でしかない。
怜治曰く俺を見て風花に似ていると思ったらしい事と、昨日俺が風花の姿で橋村姉を煽った事が懸念材料だ。
いずれは男の姿のままで顔を合わせるだろうとは思っていたが、こんなに早いと思っていなかった。
「って、相手男かよ……っつか、アンタ!!」
橋村姉は不機嫌な顔で、男同士な事には何も触れないまま俺を指さした。
昨日もだけど、コイツ何度俺に指突き出せば気が済むんだよ、折るぞ。
「昨日あのカフェにいた女!? あれ、でも男……」
「あの。すみません。見苦しいところをお見せして。俺ら外に出ますから」
「そ、そう? ならいいんだけど」
怜治が姉に罵倒しそうだったから、俺は怜治の口を押さえた。
「怜治も、お姉さんに見られたら恥ずかしいって言ってます。なので……」
「分かったわ。一分で出ていきなさいよ」
そして嵐は去っていった。
怜治は溜息をつきながら服を着た。
「ごめん、姉貴帰ってきてたの気付かなかった」
「いや、俺も気付いてなかったし」
「俺、まだ姉貴に本当の気持ち話してすらいないのに……」
「いい加減、早く言えって。仲悪いからああやって凸ってきたんだろ? 仲良かったら気ぃ遣って入ってこねーよ」
「俺が悪いっていいたいのかよ? つか、お前なんか風花ちゃんに似てなきゃ付き合ってなかったんだからな!」
「……ふーん? つまり、お前は俺を妹の代わりにしてたって事だよな?
あれぇ? どこかの誰かさんが、妹の代わりはしないって言ってたのになぁ」
一瞬廊下を歩く音がした。橋村姉が部屋に入る前に一瞬聞こえてきた音でもある。再び嫌な予感だ。
「うっせぇ! つか、潤はさぁ……」
その言葉と同時にまた橋村姉が入ってきた。
「……潤? って、その男の名前?」
俺と怜治は喧嘩してたのに、シーンと静まった。俺はマズいと思っていた。
橋村姉はスマホを手に、不信感満載の顔で俺を見てきた。
「ねぇ、昨日私が行ったカフェ、女装カフェだって今友達から聞いたんだけど。
確か、昨日私に喧嘩売ってきた女もジュンって呼ばれてた。あなたと同じ顔だった」
「お姉さん、俺は今怜治と喧嘩してるんです。用がないなら出ていってもらえませんか?
あなたに喧嘩を売った女なんて知りませんよ」
「私これから友達と出掛けるから、アンタらは外出なくていいよ」
「そうですか、それなら有難いです」
「本当に? 昨日の夜、フェアリーって名前のカフェにいたの、あなたの姉が妹か、女装したあなたじゃないの?」
「姉はいませんし、妹は去年亡くなりましたから。俺は知りません」
わざとらしくニッコリとした笑顔を見せると、橋村姉はすごすごと家を出ていった。
「あの……さ、潤。ごめん。言い過ぎた」
「ううん。俺もごめん」
お互い顔を見合わせて笑顔で謝りあった。
俺は嘘が得意だ。さっきの言葉は忘れねぇって思っていても口には出さない。
へぇー、俺って、風花の代わりなんだ?
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