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第二章「ふたりの距離」
5.隠しごと?
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(なんで私が一条なんかと……、あー、あんな告白ってマジであり得ないんだけど!! 恥ずかしい!!!)
タケルと別れた優花は自分でも理解できない行動に困惑していた。
外は既に暗いが、今日は文化祭が開かれたのでこの時間でも帰宅する学生で駅周辺ですら人が多い。私服に着替え大きなマフラーをした優花。ミスコンのグランプリだと気付く人はほとんどいなかったが、その美貌までは隠せない。
(一条、でもあいつ昔のままだったな……)
黒目の優花が先程までいたタケルのことを思い出し少しだけ笑う。そんな彼女に二人組の男が近寄って来て声を掛けた。
「あれ~、優花ちゃんじゃん!」
(え?)
優花が声のした方を振り返る。
「先輩……」
それは以前友人に無理やり連れて行かれた飲み会で一緒になったひとつ上の先輩。お酒が飲めない優花に無理やり飲ませようとしたり、隣に来て馴れ馴れしく話し掛けて来た男である。
「優花ちゃーん、見たよ!! ミスコン!!」
テンションの高い男の声が人は多いが静かだった駅構内に響く。
「まさか、グランプリ取っちゃうなんて~、俺達も感激したぜえ~!!」
「せ、先輩、声が大きいです……」
大声で話す先輩ふたりに優花が周りを見ながら言う。
「え~、いいじゃん。俺達の優花ちゃん~、誇りだぜえ~!!」
大きな声に周りにいた学生たちも優花と先輩たちをチラチラと見て行く。優花がマフラーに顔を埋めて言う。
「私、帰りますので……」
周りの視線を感じ早々に立ち去りたかった優花。帰ろうとする彼女の腕を先輩が掴んだ。
(え?)
「優花ちゃ~ん、なんで帰っちゃうの?? これから俺達と飲みに行こうぜ」
腕を掴まれた優花に悪寒が走る。その腕を振り払おうとしながら言う。
「は、放してください!! 私、帰りますので!!」
それを聞いた先輩が掴んだ腕に力を入れる。
「え~、優花ちゃんってさあ、グランプリ取ったからって急に態度冷たくない!?」
グランプリと言う言葉に周りの人達が反応し、数名が足を止めてそのやり取りを見つめ始める。
「変わらないです!! いいから放して!!」
嫌がる優花にもうひとりの男が近づいて言う。
「優花ちゃん、見てよ。俺、最近ボディービル始めてさあ。ほら凄いでしょ。この胸板」
そう言って優花のもう片方の手を掴み、自分の胸に触れさせようとする。
「やめてください!!!」
パン!!
優花はその手を振りほどき、掴まれていた男の手を自分の手で叩いた。
「痛った~い、優花ちゃん」
大袈裟に手を痛がる先輩。
その声に周りで見ていた学生たちがぼそぼそと小さな声で言う。
「なに、あれ? グランプリってまさかミスコンの人??」
「えー、でも、ちょっと可愛いからって、なんかちょー勘違いしてない?」
「失礼します……」
優花は崩れたマフラーを首に巻き直すと、小さな声でそう言って足早にその場を去った。
(どうして、どうして私が。ミスコンなんて全然興味なかったのに……)
優花はひとり電車に揺られながら赤くなった目を隠すように大きなマフラーに顔を埋めた。
「おはよ! タケル君!!」
「あ、おはよ。ゆう……」
翌朝、優花と駅で待ち合わせをしていたタケル。笑顔でやってきた彼女の名前を呼ぼうとして一瞬、躊躇った。
(だ、大丈夫だ。名前で呼んでくれたし、あの笑顔……)
「おはよ、優花」
優花は笑顔のままやってきてそのままタケルの腕にしがみ付く。
「え、ゆ、優花!?」
栗色の髪がふわっと舞う。とてもいい香り、女の子の香り。タケルはドキッとしながら優花を見つめる。
「ごめんね、昨日。何かよく分からなくなっちゃって、私ひとりで帰って……」
心から申し訳なさそうな顔でタケルに謝る水色の目の優花。タケルが思う。
(本当の優花が出た時でも、その記憶はなくなる事はないんだな。優花自身、そのもうひとつの感情に戸惑っているのかな……)
「ううん、いいよ全然。無事に帰れれば」
そう言ってはにかむタケルの顔を見ながら優花は、あの後絡まれたふたりの先輩のことを思い出す。
「さ、学校行こ」
「うん」
ふたりは腕を組んだまま改札へと向かった。
「よお、中島。おはよ、理子ちゃん」
講義が始まる前、大学のカフェでふたりに会ったタケルが挨拶をした。タケルは隣にいる優花の水色の目を確認してから続けてふたりに紹介する。
「優花だ。ええっと、彼女の……」
最後は消え入りそうな小さな声になって紹介するタケル。そんな彼の背中をドンと叩いてから優花が笑顔で言った。
「桐島優花です。タケル君の彼女です。よろしくね!」
ミスコングランプリの笑顔は中島はもちろん、同性の理子の心まで掴んでしまうほど可愛らしい。
「な、中島です。一条君の友達の……」
「加賀美理子でーす。一応、これの彼女です」
すでに『これ』扱いになっている中島にタケルが苦笑する。中島が言う。
「ええっと、優花ちゃんでいいかな? 一応同い年だし……」
非モテキャラの中島。ミスコングランプリの女の子相手に、持っている勇気を全て使って会話する。
「いいですよ、全然」
優花もそれに笑顔で答える。タケルは優花の水色の目が変わらないようドキドキしながら会話を聞く。
「しかし、未だに信じられないよなあ。こんなに美人の同級生が一条君にいて、しかも彼女になっちゃんなんて」
中島が心から羨ましそうな顔で言う。
「いや、それは、その、なんだ……」
まさか『恋のおまじない』で付き合ったとは言えない。
「あー、タケル君。そこはちゃんと肯定するところでしょ??」
そう言って隣に座るタケルの腕をつまんで少し怒って見せる優花。
「もう、ラブラブだし」
それを呆れた顔で見る中島。
「でも本当にグランプリってすごいですね。羨ましいです!」
心からそう思った理子が優花に言う。
「そんなことないよ。本当に偶然だし。それに意外とこれから仕事も大変なんだよ」
「仕事? 何をするんですか?」
興味津々の理子が尋ねる。
「うーん、とりあえず広報に載せる対談記事とか、あと大きなところでは大学のCM撮影とか……」
「え? CM撮るんですか??」
意外な話に驚きを隠せない理子。
「うん、一応テレビCMで流すやつの。何だか恥ずかしいよね……」
「いえいえ、凄いですよ!!」
理子が目を輝かせながら言う。
「へえ~、CM女優があの一条君の彼女か。マジ信じられないなあ」
中島の言葉にタケルが反応する。
「何だよ、その言い方?」
「何だよって、ちょっと前まで僕たち『非モテ同盟』組んでたじゃん」
「ああ、お前が先に裏切ったやつな」
「なっ、何だよ。それ!?」
不満そうな顔をする中島をよそに、今度は優花が興味津々の顔で尋ねる。
「ねえねえ、何その『非モテ同盟』って?」
中島が胸を張って答える。
「ずばり、モテない僕と一条君が組んだ同盟で、お互い醜い傷をなめ合っていたんだ!」
別に自慢する事じゃないだろうと苦笑いするタケル。優花はちょっと不思議そうな顔で言う。
「タケル君がモテない? えー、なんで?」
「何でって、僕も一条君も彼女いない歴イコール人生だから」
当たり前だよって顔で中島が答える。
「うそっ!? タケル君モテるでしょ? だって子供の頃から……」
そこまで言い掛けた優花の膝をタケルがポンポンと叩く。そしてタケルは首を小さく横に振ってから小声で言った。
「それは、もう……、やってないんで……」
そう言うタケルを少し信じられない顔で優花が見つめる。意味が分からない中島と理子。
「えー、何か隠してる!! 教えてくださいよ~!!」
理子がテーブルにあったタケルの手をツンツンと指でつつきながら言う。タケルが困った顔で答える。
「何も隠してないよ、理子ちゃん。あ、そろそろ講義始まるよ。さ、行こっか!」
そう言って席を立つタケル。
優花はまるで逃げようとするそんなタケルを見て思った。
(後でちゃんと聞くからね!!)
水色の目をした優花は先に歩き出したタケルの腕に自分の腕を絡めた。
タケルと別れた優花は自分でも理解できない行動に困惑していた。
外は既に暗いが、今日は文化祭が開かれたのでこの時間でも帰宅する学生で駅周辺ですら人が多い。私服に着替え大きなマフラーをした優花。ミスコンのグランプリだと気付く人はほとんどいなかったが、その美貌までは隠せない。
(一条、でもあいつ昔のままだったな……)
黒目の優花が先程までいたタケルのことを思い出し少しだけ笑う。そんな彼女に二人組の男が近寄って来て声を掛けた。
「あれ~、優花ちゃんじゃん!」
(え?)
優花が声のした方を振り返る。
「先輩……」
それは以前友人に無理やり連れて行かれた飲み会で一緒になったひとつ上の先輩。お酒が飲めない優花に無理やり飲ませようとしたり、隣に来て馴れ馴れしく話し掛けて来た男である。
「優花ちゃーん、見たよ!! ミスコン!!」
テンションの高い男の声が人は多いが静かだった駅構内に響く。
「まさか、グランプリ取っちゃうなんて~、俺達も感激したぜえ~!!」
「せ、先輩、声が大きいです……」
大声で話す先輩ふたりに優花が周りを見ながら言う。
「え~、いいじゃん。俺達の優花ちゃん~、誇りだぜえ~!!」
大きな声に周りにいた学生たちも優花と先輩たちをチラチラと見て行く。優花がマフラーに顔を埋めて言う。
「私、帰りますので……」
周りの視線を感じ早々に立ち去りたかった優花。帰ろうとする彼女の腕を先輩が掴んだ。
(え?)
「優花ちゃ~ん、なんで帰っちゃうの?? これから俺達と飲みに行こうぜ」
腕を掴まれた優花に悪寒が走る。その腕を振り払おうとしながら言う。
「は、放してください!! 私、帰りますので!!」
それを聞いた先輩が掴んだ腕に力を入れる。
「え~、優花ちゃんってさあ、グランプリ取ったからって急に態度冷たくない!?」
グランプリと言う言葉に周りの人達が反応し、数名が足を止めてそのやり取りを見つめ始める。
「変わらないです!! いいから放して!!」
嫌がる優花にもうひとりの男が近づいて言う。
「優花ちゃん、見てよ。俺、最近ボディービル始めてさあ。ほら凄いでしょ。この胸板」
そう言って優花のもう片方の手を掴み、自分の胸に触れさせようとする。
「やめてください!!!」
パン!!
優花はその手を振りほどき、掴まれていた男の手を自分の手で叩いた。
「痛った~い、優花ちゃん」
大袈裟に手を痛がる先輩。
その声に周りで見ていた学生たちがぼそぼそと小さな声で言う。
「なに、あれ? グランプリってまさかミスコンの人??」
「えー、でも、ちょっと可愛いからって、なんかちょー勘違いしてない?」
「失礼します……」
優花は崩れたマフラーを首に巻き直すと、小さな声でそう言って足早にその場を去った。
(どうして、どうして私が。ミスコンなんて全然興味なかったのに……)
優花はひとり電車に揺られながら赤くなった目を隠すように大きなマフラーに顔を埋めた。
「おはよ! タケル君!!」
「あ、おはよ。ゆう……」
翌朝、優花と駅で待ち合わせをしていたタケル。笑顔でやってきた彼女の名前を呼ぼうとして一瞬、躊躇った。
(だ、大丈夫だ。名前で呼んでくれたし、あの笑顔……)
「おはよ、優花」
優花は笑顔のままやってきてそのままタケルの腕にしがみ付く。
「え、ゆ、優花!?」
栗色の髪がふわっと舞う。とてもいい香り、女の子の香り。タケルはドキッとしながら優花を見つめる。
「ごめんね、昨日。何かよく分からなくなっちゃって、私ひとりで帰って……」
心から申し訳なさそうな顔でタケルに謝る水色の目の優花。タケルが思う。
(本当の優花が出た時でも、その記憶はなくなる事はないんだな。優花自身、そのもうひとつの感情に戸惑っているのかな……)
「ううん、いいよ全然。無事に帰れれば」
そう言ってはにかむタケルの顔を見ながら優花は、あの後絡まれたふたりの先輩のことを思い出す。
「さ、学校行こ」
「うん」
ふたりは腕を組んだまま改札へと向かった。
「よお、中島。おはよ、理子ちゃん」
講義が始まる前、大学のカフェでふたりに会ったタケルが挨拶をした。タケルは隣にいる優花の水色の目を確認してから続けてふたりに紹介する。
「優花だ。ええっと、彼女の……」
最後は消え入りそうな小さな声になって紹介するタケル。そんな彼の背中をドンと叩いてから優花が笑顔で言った。
「桐島優花です。タケル君の彼女です。よろしくね!」
ミスコングランプリの笑顔は中島はもちろん、同性の理子の心まで掴んでしまうほど可愛らしい。
「な、中島です。一条君の友達の……」
「加賀美理子でーす。一応、これの彼女です」
すでに『これ』扱いになっている中島にタケルが苦笑する。中島が言う。
「ええっと、優花ちゃんでいいかな? 一応同い年だし……」
非モテキャラの中島。ミスコングランプリの女の子相手に、持っている勇気を全て使って会話する。
「いいですよ、全然」
優花もそれに笑顔で答える。タケルは優花の水色の目が変わらないようドキドキしながら会話を聞く。
「しかし、未だに信じられないよなあ。こんなに美人の同級生が一条君にいて、しかも彼女になっちゃんなんて」
中島が心から羨ましそうな顔で言う。
「いや、それは、その、なんだ……」
まさか『恋のおまじない』で付き合ったとは言えない。
「あー、タケル君。そこはちゃんと肯定するところでしょ??」
そう言って隣に座るタケルの腕をつまんで少し怒って見せる優花。
「もう、ラブラブだし」
それを呆れた顔で見る中島。
「でも本当にグランプリってすごいですね。羨ましいです!」
心からそう思った理子が優花に言う。
「そんなことないよ。本当に偶然だし。それに意外とこれから仕事も大変なんだよ」
「仕事? 何をするんですか?」
興味津々の理子が尋ねる。
「うーん、とりあえず広報に載せる対談記事とか、あと大きなところでは大学のCM撮影とか……」
「え? CM撮るんですか??」
意外な話に驚きを隠せない理子。
「うん、一応テレビCMで流すやつの。何だか恥ずかしいよね……」
「いえいえ、凄いですよ!!」
理子が目を輝かせながら言う。
「へえ~、CM女優があの一条君の彼女か。マジ信じられないなあ」
中島の言葉にタケルが反応する。
「何だよ、その言い方?」
「何だよって、ちょっと前まで僕たち『非モテ同盟』組んでたじゃん」
「ああ、お前が先に裏切ったやつな」
「なっ、何だよ。それ!?」
不満そうな顔をする中島をよそに、今度は優花が興味津々の顔で尋ねる。
「ねえねえ、何その『非モテ同盟』って?」
中島が胸を張って答える。
「ずばり、モテない僕と一条君が組んだ同盟で、お互い醜い傷をなめ合っていたんだ!」
別に自慢する事じゃないだろうと苦笑いするタケル。優花はちょっと不思議そうな顔で言う。
「タケル君がモテない? えー、なんで?」
「何でって、僕も一条君も彼女いない歴イコール人生だから」
当たり前だよって顔で中島が答える。
「うそっ!? タケル君モテるでしょ? だって子供の頃から……」
そこまで言い掛けた優花の膝をタケルがポンポンと叩く。そしてタケルは首を小さく横に振ってから小声で言った。
「それは、もう……、やってないんで……」
そう言うタケルを少し信じられない顔で優花が見つめる。意味が分からない中島と理子。
「えー、何か隠してる!! 教えてくださいよ~!!」
理子がテーブルにあったタケルの手をツンツンと指でつつきながら言う。タケルが困った顔で答える。
「何も隠してないよ、理子ちゃん。あ、そろそろ講義始まるよ。さ、行こっか!」
そう言って席を立つタケル。
優花はまるで逃げようとするそんなタケルを見て思った。
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水色の目をした優花は先に歩き出したタケルの腕に自分の腕を絡めた。
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