小学生の時にかけた恋のおまじないが、さっき発動しました。

サイトウ純蒼

文字の大きさ
25 / 58
第四章「山奥温泉編」

25.恋敵は同級生

しおりを挟む
「全然変わらないよね~、このみ」

 優花とこのみは開盛大学近くにあるお洒落なカフェに入って久しぶりの会話を楽しんでいた。
 木をふんだんに使った建物。たくさんの花が飾られた店内はいるだけで心を和ませてくれる。休日で家族連れも多い中、そんな店内にふたりの美女が向かい合って旧交を温める。


「ゆ、優花ちゃんだって、すごく綺麗になって……」

 このみは自分の赤みがかったツインテールを指で触りながら答える。優花が運ばれてきたカフェラテを口にしてから言う。

「でも驚いたな。このみがタケル君のことが好きだったなんて」

 このみは自分の赤い髪と同じぐらい顔を赤くして答える。

「うん……」


 少しの沈黙。優花が尋ねる。

「いつから? やっぱり小学校の頃からなの?」

「うん、そう……、優花ちゃんもそうだったんでしょ?」

 このみの質問に水色の目をした優花が答える。


「うーん、そうだよ。今だから言えるけどね」

 優花はそうはにかんで答える。

「そうか……」

 このみはテーブルに置かれたホットココアのカップを両手で持ちながら答える。


「それで今は一条君と付き合ってるの?」

 少し顔を上げてこのみが優花に尋ねる。

「うん。文化祭でね、本当に偶然会ってこくっちゃった」


「そう……」

 このみは一瞬寂しそうな顔をしてから苦笑いする。優花が言う。

「私ね、文化祭のでミスコンでグランプリ取ったんだ」

「うそ? 凄いじゃん……」

 小学生の頃から美人で男子に人気のあった優花。成長してなお一層魅力的な女性になっていたのでそれも頷ける。


「それでね、ミスコンの目録で温泉旅行貰っちゃって。タケル君を誘うおうと思っているの」

「そうなの……、一条君は行くって?」

「ううん、まだ話してない。これから聞いてみるつもり」

「いいなあ、羨ましい」

 そう言いながらもこのみの頭に『ミスコン目録・温泉旅行』とインプットされる。


「ねえ、話は変わるけど、あの青髪の子が言っていた『時々嫌いになる』って、あれは何なの?」


「えっ……」

 それまで笑顔で話していた優花が初めて戸惑いの表情を浮かべる。それは誰にも言えない『もうひとりの自分』。そんなことを言って信じて貰えるとは思えないし、そもそも話すつもりもない。


「気まぐれ、かな……、私自分でもよく分からないけど気分にムラがあるみたいで……」

 苦笑して答える優花。このみが思う。


(優花ちゃんは知らない。だから私にもまだチャンスはある……)

 優花が言う。


「だからってタケル君、このみに渡すつもりはないよ!! 私は正式な彼女だし、リードしている。何があっても負けないよ!!」

「うん、私も、負けないから……」

 そう小さく答えるこのみ。


「じゃあ、正々堂々と勝負ね!!」

 そう言って優花が右手をこのみに差し出す。その手を頷いて握るこのみ。そして思う。


(ごめんね、優花ちゃん。正々堂々の勝負はできないの。私、もう絶対負けたくないから……)

 優花とこのみはその後も雑談をして夕方まで一緒に過ごした。





 その日の夜、自宅に帰った優花は机に置いてある分厚いノートを開いて読み返す。

『できるだけ協力するよ』

 それはタケルとの仲を邪魔しないでと書いた言葉に対する返答。実際あれ以来大きな邪魔はされていない。
 『柔道』という過去の封印を解いたタケルの元には、小学校時代同様にたくさんの人が集まって来ている。今は彼女として付き合っているけど、いつタケルを奪われるか分からない。
 雫にこのみ。ライバルは強力である。優花はノートにひとこと記した。


『あなたも本当はタケル君のことが好きじゃないの?』

 自分と同居する自分。
 そんな未知の自分に今の自分が感じる素直な気持ちであった。





「それで今日も一条は練習には来ないのか、青葉?」

 聡明館大学柔道部、部員相手に乱取りを終えた主将の五里ごりが雫に言った。水色のジャージに着替えた雫。ショートの青髪と、同じ青の大きなリボンが項垂れながら答える。


「はい、先輩は足を痛めたそうでしばらくは来れないそうです。ゴリ先輩……」

 五里ははあはあと息をつき水をごくごく飲みながら言う。

「まあ、あいつも偶然と言えあの剛力から一本を取った男だ。偶然に偶然が重なって勝てたようなもんだが、まあ運も実力のうちともいう。入部は認めてやろうかと思う。はあはあ……」

 五里は流れ落ちる汗をタオルで拭きながら言う。


(あれが運? 足を痛めていた先輩が圧勝したのに本当に気付かないのかな? 本当に立て直しって大変よね……)

 特に柔道には興味のなかった雫。彼女の趣味はこのような弱小集団にやって来て立て直すこと。自分が入ってマネジメントを行い強豪へと変貌させる。それが彼女にとって一番の愉しみであった。
 入部当初、図書館やネットで学び様々なトレーニング法を提案したが頭の固い五里に『女は黙ってろ』とすべて拒否。そこで思いついたのが強者のスカウト。ネットを中心に毎日調べ、その中で辿り着いたのが『消えた天才柔道家一条タケル』であった。


(え、一条って、まさかあの一条……?)

 ミスコングランプリの公開告白で盛り上がる大学掲示板。その相手が一介の大学生であったが、雫にとってはその名前『一条タケル』に目が釘付けになった。


(これって、あの天才柔道家の『一条タケル』じゃないの……!?)

 そこから大学でタケル探しが始まり、日々彼の行動を見張り、やがてその思いは探求の対象から憧れ、そして恋心へと変わっていった。


(一条先輩にはこの弱小柔道部の救世主になって貰うの! 美少女マネージャーの私の彼氏として!!)

 雫は寝転がってゼイゼイと息をする五里に言う。


「ゴリ先輩」

「ん、なんだ?」

 五里は顔にタオルを乗せて答える。


「冬の合宿ですけど、また私にスケジュール任せて貰えますか?」

 柔道部は年に二回泊りがけで合宿を行っている。何の成果も出していない弱小部なのだがそれでも予算がしっかりと付くのは、有名校であり幅広い分野で活躍するOB達の寄付などによるお陰である。五里が答える。


「ああ、好きにしてくれ。はあ、はあ……」

 雫は五里のその言葉に元気よく返事をした。





 一条家の庭にある道場。
 冷たい空気が張り詰める中、中央に正座した父重蔵の声が響く。

「……それでお前は、あのアヒルを着て走って足を痛めたから、しばらく稽古はできないと言うんだな?」


「はい、ごめんなさい……」

 その前には痛みの為、足を崩して座るタケル。少し離れた場所には腕を骨折した兄の慎太郎がそれを見つめる。重蔵が言う。


「馬鹿なのか、お前は」

「……」

 無言で項垂れるタケル。

「慎太郎と言いお前と言い簡単に怪我などしおって。鍛錬が足らん!!!」


「はい……」

 慎太郎も同じく項垂れて返事をする。


「大学で柔道部に入ったと聞いたから、ようやくやる気を出してくれたと思って喜んでいたところに……」

 父の長い説教が始まったと思ったタケル。しかし懐に入っていたが顔を出したことで状況が変わる。


「みゃ~お」

「ん?」

 それは以前優花とタケルが拾って来た子猫のミャオ。道場に来る前に寒さか甘えてか、タケルに寄って来てひょいと懐に入ったままであった。重蔵がミャオを薄目で見ながら続ける。


「だ、だから、お前達は、その、なんだっけ、ああ、気合が足らんと言うか……」

 話ながら心は既にミャオに向いてしまった重蔵。さらにミャオの攻撃が続く。


「みゃ~お」

 ミャオはタケルからひょいと飛び降りると、いつも可愛がってくれる重蔵への元へとよたよたと歩き出す。


「いや、だから、お前達は……、うっ!!」

 そんな重蔵の膝の上にミャオがぴょんと飛び乗る。そしていつもの甘えた仕草で鳴きながら体を擦り付ける。


「ミ、ミャオ~、どうしたんでちゅか~?? 寂しかったのかな~? もう大丈夫でちゅよ~」

 一瞬で変貌した重蔵。
 それを見たタケルと慎太郎はお互い顔を見て頷くと、静かに音を立てずに道場を去って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...