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第四章「山奥温泉編」
25.恋敵は同級生
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「全然変わらないよね~、このみ」
優花とこのみは開盛大学近くにあるお洒落なカフェに入って久しぶりの会話を楽しんでいた。
木をふんだんに使った建物。たくさんの花が飾られた店内はいるだけで心を和ませてくれる。休日で家族連れも多い中、そんな店内にふたりの美女が向かい合って旧交を温める。
「ゆ、優花ちゃんだって、すごく綺麗になって……」
このみは自分の赤みがかったツインテールを指で触りながら答える。優花が運ばれてきたカフェラテを口にしてから言う。
「でも驚いたな。このみがタケル君のことが好きだったなんて」
このみは自分の赤い髪と同じぐらい顔を赤くして答える。
「うん……」
少しの沈黙。優花が尋ねる。
「いつから? やっぱり小学校の頃からなの?」
「うん、そう……、優花ちゃんもそうだったんでしょ?」
このみの質問に水色の目をした優花が答える。
「うーん、そうだよ。今だから言えるけどね」
優花はそうはにかんで答える。
「そうか……」
このみはテーブルに置かれたホットココアのカップを両手で持ちながら答える。
「それで今は一条君と付き合ってるの?」
少し顔を上げてこのみが優花に尋ねる。
「うん。文化祭でね、本当に偶然会って告っちゃった」
「そう……」
このみは一瞬寂しそうな顔をしてから苦笑いする。優花が言う。
「私ね、文化祭のでミスコンでグランプリ取ったんだ」
「うそ? 凄いじゃん……」
小学生の頃から美人で男子に人気のあった優花。成長してなお一層魅力的な女性になっていたのでそれも頷ける。
「それでね、ミスコンの目録で温泉旅行貰っちゃって。タケル君を誘うおうと思っているの」
「そうなの……、一条君は行くって?」
「ううん、まだ話してない。これから聞いてみるつもり」
「いいなあ、羨ましい」
そう言いながらもこのみの頭に『ミスコン目録・温泉旅行』とインプットされる。
「ねえ、話は変わるけど、あの青髪の子が言っていた『時々嫌いになる』って、あれは何なの?」
「えっ……」
それまで笑顔で話していた優花が初めて戸惑いの表情を浮かべる。それは誰にも言えない『もうひとりの自分』。そんなことを言って信じて貰えるとは思えないし、そもそも話すつもりもない。
「気まぐれ、かな……、私自分でもよく分からないけど気分にムラがあるみたいで……」
苦笑して答える優花。このみが思う。
(優花ちゃんはきっと知らない。だから私にもまだチャンスはある……)
優花が言う。
「だからってタケル君、このみに渡すつもりはないよ!! 私は正式な彼女だし、リードしている。何があっても負けないよ!!」
「うん、私も、負けないから……」
そう小さく答えるこのみ。
「じゃあ、正々堂々と勝負ね!!」
そう言って優花が右手をこのみに差し出す。その手を頷いて握るこのみ。そして思う。
(ごめんね、優花ちゃん。正々堂々の勝負はできないの。私、もう絶対負けたくないから……)
優花とこのみはその後も雑談をして夕方まで一緒に過ごした。
その日の夜、自宅に帰った優花は机に置いてある分厚いノートを開いて読み返す。
『できるだけ協力するよ』
それはタケルとの仲を邪魔しないでと書いた言葉に対する返答。実際あれ以来大きな邪魔はされていない。
『柔道』という過去の封印を解いたタケルの元には、小学校時代同様にたくさんの人が集まって来ている。今は彼女として付き合っているけど、いつタケルを奪われるか分からない。
雫にこのみ。ライバルは強力である。優花はノートにひとこと記した。
『あなたも本当はタケル君のことが好きじゃないの?』
自分と同居する自分。
そんな未知の自分に今の自分が感じる素直な気持ちであった。
「それで今日も一条は練習には来ないのか、青葉?」
聡明館大学柔道部、部員相手に乱取りを終えた主将の五里が雫に言った。水色のジャージに着替えた雫。ショートの青髪と、同じ青の大きなリボンが項垂れながら答える。
「はい、先輩は足を痛めたそうでしばらくは来れないそうです。ゴリ先輩……」
五里ははあはあと息をつき水をごくごく飲みながら言う。
「まあ、あいつも偶然と言えあの剛力から一本を取った男だ。偶然に偶然が重なって勝てたようなもんだが、まあ運も実力のうちともいう。入部は認めてやろうかと思う。はあはあ……」
五里は流れ落ちる汗をタオルで拭きながら言う。
(あれが運? 足を痛めていた先輩が圧勝したのに本当に気付かないのかな? 本当に立て直しって大変よね……)
特に柔道には興味のなかった雫。彼女の趣味はこのような弱小集団にやって来て立て直すこと。自分が入ってマネジメントを行い強豪へと変貌させる。それが彼女にとって一番の愉しみであった。
入部当初、図書館やネットで学び様々なトレーニング法を提案したが頭の固い五里に『女は黙ってろ』とすべて拒否。そこで思いついたのが強者のスカウト。ネットを中心に毎日調べ、その中で辿り着いたのが『消えた天才柔道家一条タケル』であった。
(え、一条って、まさかあの一条……?)
ミスコングランプリの公開告白で盛り上がる大学掲示板。その相手が一介の大学生であったが、雫にとってはその名前『一条タケル』に目が釘付けになった。
(これって、あの天才柔道家の『一条タケル』じゃないの……!?)
そこから大学でタケル探しが始まり、日々彼の行動を見張り、やがてその思いは探求の対象から憧れ、そして恋心へと変わっていった。
(一条先輩にはこの弱小柔道部の救世主になって貰うの! 美少女マネージャーの私の彼氏として!!)
雫は寝転がってゼイゼイと息をする五里に言う。
「ゴリ先輩」
「ん、なんだ?」
五里は顔にタオルを乗せて答える。
「冬の合宿ですけど、また私にスケジュール任せて貰えますか?」
柔道部は年に二回泊りがけで合宿を行っている。何の成果も出していない弱小部なのだがそれでも予算がしっかりと付くのは、有名校であり幅広い分野で活躍するOB達の寄付などによるお陰である。五里が答える。
「ああ、好きにしてくれ。はあ、はあ……」
雫は五里のその言葉に元気よく返事をした。
一条家の庭にある道場。
冷たい空気が張り詰める中、中央に正座した父重蔵の声が響く。
「……それでお前は、あのアヒルを着て走って足を痛めたから、しばらく稽古はできないと言うんだな?」
「はい、ごめんなさい……」
その前には痛みの為、足を崩して座るタケル。少し離れた場所には腕を骨折した兄の慎太郎がそれを見つめる。重蔵が言う。
「馬鹿なのか、お前は」
「……」
無言で項垂れるタケル。
「慎太郎と言いお前と言い簡単に怪我などしおって。鍛錬が足らん!!!」
「はい……」
慎太郎も同じく項垂れて返事をする。
「大学で柔道部に入ったと聞いたから、ようやくやる気を出してくれたと思って喜んでいたところに……」
父の長い説教が始まったと思ったタケル。しかし懐に入っていたそれが顔を出したことで状況が変わる。
「みゃ~お」
「ん?」
それは以前優花とタケルが拾って来た子猫のミャオ。道場に来る前に寒さか甘えてか、タケルに寄って来てひょいと懐に入ったままであった。重蔵がミャオを薄目で見ながら続ける。
「だ、だから、お前達は、その、なんだっけ、ああ、気合が足らんと言うか……」
話ながら心は既にミャオに向いてしまった重蔵。さらにミャオの攻撃が続く。
「みゃ~お」
ミャオはタケルからひょいと飛び降りると、いつも可愛がってくれる重蔵への元へとよたよたと歩き出す。
「いや、だから、お前達は……、うっ!!」
そんな重蔵の膝の上にミャオがぴょんと飛び乗る。そしていつもの甘えた仕草で鳴きながら体を擦り付ける。
「ミ、ミャオ~、どうしたんでちゅか~?? 寂しかったのかな~? もう大丈夫でちゅよ~」
一瞬で変貌した重蔵。
それを見たタケルと慎太郎はお互い顔を見て頷くと、静かに音を立てずに道場を去って行った。
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「そう……」
このみは一瞬寂しそうな顔をしてから苦笑いする。優花が言う。
「私ね、文化祭のでミスコンでグランプリ取ったんだ」
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「それでね、ミスコンの目録で温泉旅行貰っちゃって。タケル君を誘うおうと思っているの」
「そうなの……、一条君は行くって?」
「ううん、まだ話してない。これから聞いてみるつもり」
「いいなあ、羨ましい」
そう言いながらもこのみの頭に『ミスコン目録・温泉旅行』とインプットされる。
「ねえ、話は変わるけど、あの青髪の子が言っていた『時々嫌いになる』って、あれは何なの?」
「えっ……」
それまで笑顔で話していた優花が初めて戸惑いの表情を浮かべる。それは誰にも言えない『もうひとりの自分』。そんなことを言って信じて貰えるとは思えないし、そもそも話すつもりもない。
「気まぐれ、かな……、私自分でもよく分からないけど気分にムラがあるみたいで……」
苦笑して答える優花。このみが思う。
(優花ちゃんはきっと知らない。だから私にもまだチャンスはある……)
優花が言う。
「だからってタケル君、このみに渡すつもりはないよ!! 私は正式な彼女だし、リードしている。何があっても負けないよ!!」
「うん、私も、負けないから……」
そう小さく答えるこのみ。
「じゃあ、正々堂々と勝負ね!!」
そう言って優花が右手をこのみに差し出す。その手を頷いて握るこのみ。そして思う。
(ごめんね、優花ちゃん。正々堂々の勝負はできないの。私、もう絶対負けたくないから……)
優花とこのみはその後も雑談をして夕方まで一緒に過ごした。
その日の夜、自宅に帰った優花は机に置いてある分厚いノートを開いて読み返す。
『できるだけ協力するよ』
それはタケルとの仲を邪魔しないでと書いた言葉に対する返答。実際あれ以来大きな邪魔はされていない。
『柔道』という過去の封印を解いたタケルの元には、小学校時代同様にたくさんの人が集まって来ている。今は彼女として付き合っているけど、いつタケルを奪われるか分からない。
雫にこのみ。ライバルは強力である。優花はノートにひとこと記した。
『あなたも本当はタケル君のことが好きじゃないの?』
自分と同居する自分。
そんな未知の自分に今の自分が感じる素直な気持ちであった。
「それで今日も一条は練習には来ないのか、青葉?」
聡明館大学柔道部、部員相手に乱取りを終えた主将の五里が雫に言った。水色のジャージに着替えた雫。ショートの青髪と、同じ青の大きなリボンが項垂れながら答える。
「はい、先輩は足を痛めたそうでしばらくは来れないそうです。ゴリ先輩……」
五里ははあはあと息をつき水をごくごく飲みながら言う。
「まあ、あいつも偶然と言えあの剛力から一本を取った男だ。偶然に偶然が重なって勝てたようなもんだが、まあ運も実力のうちともいう。入部は認めてやろうかと思う。はあはあ……」
五里は流れ落ちる汗をタオルで拭きながら言う。
(あれが運? 足を痛めていた先輩が圧勝したのに本当に気付かないのかな? 本当に立て直しって大変よね……)
特に柔道には興味のなかった雫。彼女の趣味はこのような弱小集団にやって来て立て直すこと。自分が入ってマネジメントを行い強豪へと変貌させる。それが彼女にとって一番の愉しみであった。
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(え、一条って、まさかあの一条……?)
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(これって、あの天才柔道家の『一条タケル』じゃないの……!?)
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「はい、ごめんなさい……」
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「馬鹿なのか、お前は」
「……」
無言で項垂れるタケル。
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「はい……」
慎太郎も同じく項垂れて返事をする。
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「ん?」
それは以前優花とタケルが拾って来た子猫のミャオ。道場に来る前に寒さか甘えてか、タケルに寄って来てひょいと懐に入ったままであった。重蔵がミャオを薄目で見ながら続ける。
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「みゃ~お」
ミャオはタケルからひょいと飛び降りると、いつも可愛がってくれる重蔵への元へとよたよたと歩き出す。
「いや、だから、お前達は……、うっ!!」
そんな重蔵の膝の上にミャオがぴょんと飛び乗る。そしていつもの甘えた仕草で鳴きながら体を擦り付ける。
「ミ、ミャオ~、どうしたんでちゅか~?? 寂しかったのかな~? もう大丈夫でちゅよ~」
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