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第五章「告白と告白と、告白」
45.一条家、公開練習に臨む!!
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開盛大学にある大きな競技館。
様々なスポーツができる巨大な建物であり、その一角の広いスペースを占めるのが柔道専用練習場。休日の朝、そのスペースに多くの人が集まって来ている。
「ご、剛力さん!! あれってまさか取材陣とか!?」
開盛大学の部員が集まって来ていた人の中に雑誌記者のような一行を見つけて興奮気味に話す。剛力が答える。
「ああ、そうだ。何せあの一条家がやって来るんだ。ニュースになってもおかしく……」
「剛力さんとの対戦を取材に来たんですよね!!!」
「へ?」
そう言われた剛力が自分が全国大会で決勝リーグへ出た記録がある事を思い出す。
「ま、まあ、そんなところだな。俺のところに来ないのは試合前の集中に邪魔しちゃいけないと察してのことだろう……」
「おおっ……」
部員たちは貫禄ある剛力をただただ驚きの顔で見つめる。しかし剛力の目に、とある女性の姿が映った。
(あ、あれは、佐倉!?)
赤みがかったツインテールの美少女。
剛力は部員たちに軽く手を上げると一直線に佐倉このみの元へと走り寄った。
「佐倉ーーーーっ!!!」
多くの人は集まっていたがまだ静かな朝の館内に太い剛力の声が響く。名前を呼ばれたこのみがちらりとその駆け寄ってきた人物を見つめる。剛力が言う。
「さ、佐倉。今日の試合で俺の雄姿を見てくれ!! あの一条家を投げ飛ばして、俺が、俺がお前に相応しい男だと証明して見せるっ!!!」
剛力は鼻息荒くこのみに話す。
一方のこのみは剛力にはまったく興味はなかったが、彼の言った『一条』という言葉を聞いて一瞬微笑む。剛力が思う。
(うおおおおおおおっ!!! 佐倉が、佐倉が俺に微笑んでくれた!! これは承諾の意味!! 勝つ、勝つ勝つ勝つ勝つ!! 勝つぞおおおお!!!!)
剛力はこれ以上の会話は男には必要ないと察し、このみに手を上げて立ち去る。
(一条君、来るのかな……)
はっきりとタケルに振られたこのみ。
それでも彼の柔道する姿は見たかったし、やはりまだあきらめることなど到底できない。
(やっぱり見たい。柔道する一条君を……)
このみは観客席に黙って腰を下ろした。
「へえ~、結構たくさんの人が来てんじゃん」
同じ頃、別の入り口からやって来た優花の姉、茜は意外と多くの観客がいることに驚いた。ショートカットに大人びたハーフコート。優花と並んで美人姉妹と有名である茜は、どこに行っても注目を浴びる。
周りの男たちの視線を感じながら観客席に腰を下ろすと、ミニスカートから伸びた足を色っぽく組む。
「あ、あれかな?」
そして練習場の脇に現れたタケルの姿を見てニコッと笑った。
「先輩、先輩、一条せんぱーい!!!」
競技館内にやって来たタケルと父重蔵と兄の慎太郎。来たことのあるタケル以外、思ったよりも大きな建物に驚く。そんな彼らに可愛らしい女の子の声が掛かった。
「げっ、雫ちゃん!?」
聡明館大学の柔道部マネージャーの青葉雫。
青いショートカットに大きな青のリボンがトレードマークの元気な女の子。全く関係のないはずの一条家の公開練習に、突然現れた彼女を見てタケルが尋ねる。
「な、なんでここに??」
驚くタケルに雫が笑顔で答える。
「なんでって、私柔道部のマネージャーですよ!!」
「い、いや、そりゃそうなんだけど……」
この公開練習は大学とは関係ない。雫が来る必要はないし、それ以前にどうやってこのことを知ったのか? タケルはすぐに隣にいる兄の慎太郎を見て納得した。
(ああ、そう言えば兄貴が一条家のSNSで色々公開してたな……)
タケルたちがここに来ることなど誰でも知り得ることなのである。父重蔵がタケルの元にやって来て尋ねる。
「タケル、このお嬢さんは一体どちらさんなんだ?」
初めて見る実物のタケルの実父。SNSの写真でしか見たことのなかった雫が緊張しつつ、リボンをぴんと伸ばして挨拶する。
「は、初めまして。お父様!! 私、聡明館大学柔道部のマネージャーで……」
なるほど、と頷いて聞く重蔵。だが次の言葉を聞いて驚愕する。
「彼女の、青葉雫です!!!」
「は?」
重蔵が口を開けて驚く。それ以上に大きな口を開けて驚くタケル。重蔵が怒りの形相でタケルに言う。
「お前、優花ちゃんとお付き合いしてるんじゃなかったのか!?」
タケルが青い顔をして答える。
「いや、違うんだ、親父。雫ちゃんはそういのじゃなくて……」
「私、『二番目の彼女』なんです!!!」
その言葉が鋭い矢じりのようになって重蔵の心に突き刺さった。
バーーーーーーン!!!
「ぎゃあ、痛ってえええ!!!!!」
強烈な重蔵の張り手がタケルの頬を打ち抜く。あまりの威力にタケルは横に吹き飛びながら倒れる。驚く周りの人たち。雫も青い顔をして言う。
「ち、違うんです。お父様!! 私は二番目でもいいんです。虎視眈々と一番を狙っていますが」
「な、なんと言う……」
重蔵は雫のあまりにも健気な言葉に両目からボロボロと涙を流し始める。そして床に倒れているタケルの襟首を持って低い声で言う。
「優花ちゃんという可愛い子がいながら、こんな女の子にまで手を出すとは……、それでも一条家の柔道家か!!!」
バーーーーーーン!!!
「ぎゃあっ!!」
今度は反対の頬を殴られるタケル。再び床に倒れたタケルに、雫とはまた違った別の女性が駆け付ける。
「一条君、一条君、大丈夫!?」
赤みがかったツインテールの女の子。
佐倉このみは入館して来た一条家に気付きすぐにタケルを見つる。そしていきなり現れた恋敵の雫、更に意味も分からず殴られる姿を見ていても立ってもいられなくなった。
このみが倒れるタケルの前に座り、両手を開いて言う。
「や、止めてください!!! どうしてこんなに酷いことするんですか!!」
重蔵はまたしても現れた見知らぬ女性に少し混乱しながら言う。
「誰なんだ、あんたは?」
このみは一瞬ためらう。
振られたばかりの自分。しかしタケルを心から愛する自分にこの状況は耐えきれない。このみが言う。
「一条君の、彼女です!!!」
ギリギリのところで保っていた重蔵の何かがその言葉で音を立てて切れた。
「ダケルゥゥゥゥ!!!!!」
「ち、違うって、親父っ!!!!」
激怒する重蔵を兄の慎太郎が押さえつける。タケルは這う這うの体で逃げ始める。それを見ていた開盛大学の柔道部員たちが青い顔をして言う。
「お、おい、なんかすごいビシバシ殴られているんだが……」
「い、一条家の練習って凄まじいな……」
柔道強豪校である開盛大学でも、さすがにあれほど厳しい指導はしない。部員たちはこれから対戦する相手がまるで異次元の世界にいる人達のように見えた。
ただこの男はそんな部員達とは全く違うことを思っていた。
(佐倉、俺の佐倉。ああ、お前はやはりあの男のところへ行くだな。俺が前回負けてしまったばかりに……)
剛力は床に情けなく倒れているタケル、そしてそれを守ろうとしているこのみの姿を見て闘志に火をつける。
(なぜ、お前がここに居るのかはもう知らぬ!! だがこれは俺にとって最高の機会。お前に勝って佐倉を奪い返す!! 今日は負けぬぞ、青葉っ!!!!)
剛力はなぜ一条家の公開練習にタケルがいるのか一瞬不思議に思ったが、それ以上にこのみを奪われた強い怨念が彼を支配していた。タケルをこのみの前で叩きのめす、それしか彼の頭にはなかった。
「あら~、なんか面白そうになって来たわね」
そんなタケルたちのドタバタ劇を少し離れた場所から見ていた優花の姉の茜が、くすっと笑いながら見つめる。
優花不在の中、様々な人の思惑が混じった公開練習が今、始まる。
様々なスポーツができる巨大な建物であり、その一角の広いスペースを占めるのが柔道専用練習場。休日の朝、そのスペースに多くの人が集まって来ている。
「ご、剛力さん!! あれってまさか取材陣とか!?」
開盛大学の部員が集まって来ていた人の中に雑誌記者のような一行を見つけて興奮気味に話す。剛力が答える。
「ああ、そうだ。何せあの一条家がやって来るんだ。ニュースになってもおかしく……」
「剛力さんとの対戦を取材に来たんですよね!!!」
「へ?」
そう言われた剛力が自分が全国大会で決勝リーグへ出た記録がある事を思い出す。
「ま、まあ、そんなところだな。俺のところに来ないのは試合前の集中に邪魔しちゃいけないと察してのことだろう……」
「おおっ……」
部員たちは貫禄ある剛力をただただ驚きの顔で見つめる。しかし剛力の目に、とある女性の姿が映った。
(あ、あれは、佐倉!?)
赤みがかったツインテールの美少女。
剛力は部員たちに軽く手を上げると一直線に佐倉このみの元へと走り寄った。
「佐倉ーーーーっ!!!」
多くの人は集まっていたがまだ静かな朝の館内に太い剛力の声が響く。名前を呼ばれたこのみがちらりとその駆け寄ってきた人物を見つめる。剛力が言う。
「さ、佐倉。今日の試合で俺の雄姿を見てくれ!! あの一条家を投げ飛ばして、俺が、俺がお前に相応しい男だと証明して見せるっ!!!」
剛力は鼻息荒くこのみに話す。
一方のこのみは剛力にはまったく興味はなかったが、彼の言った『一条』という言葉を聞いて一瞬微笑む。剛力が思う。
(うおおおおおおおっ!!! 佐倉が、佐倉が俺に微笑んでくれた!! これは承諾の意味!! 勝つ、勝つ勝つ勝つ勝つ!! 勝つぞおおおお!!!!)
剛力はこれ以上の会話は男には必要ないと察し、このみに手を上げて立ち去る。
(一条君、来るのかな……)
はっきりとタケルに振られたこのみ。
それでも彼の柔道する姿は見たかったし、やはりまだあきらめることなど到底できない。
(やっぱり見たい。柔道する一条君を……)
このみは観客席に黙って腰を下ろした。
「へえ~、結構たくさんの人が来てんじゃん」
同じ頃、別の入り口からやって来た優花の姉、茜は意外と多くの観客がいることに驚いた。ショートカットに大人びたハーフコート。優花と並んで美人姉妹と有名である茜は、どこに行っても注目を浴びる。
周りの男たちの視線を感じながら観客席に腰を下ろすと、ミニスカートから伸びた足を色っぽく組む。
「あ、あれかな?」
そして練習場の脇に現れたタケルの姿を見てニコッと笑った。
「先輩、先輩、一条せんぱーい!!!」
競技館内にやって来たタケルと父重蔵と兄の慎太郎。来たことのあるタケル以外、思ったよりも大きな建物に驚く。そんな彼らに可愛らしい女の子の声が掛かった。
「げっ、雫ちゃん!?」
聡明館大学の柔道部マネージャーの青葉雫。
青いショートカットに大きな青のリボンがトレードマークの元気な女の子。全く関係のないはずの一条家の公開練習に、突然現れた彼女を見てタケルが尋ねる。
「な、なんでここに??」
驚くタケルに雫が笑顔で答える。
「なんでって、私柔道部のマネージャーですよ!!」
「い、いや、そりゃそうなんだけど……」
この公開練習は大学とは関係ない。雫が来る必要はないし、それ以前にどうやってこのことを知ったのか? タケルはすぐに隣にいる兄の慎太郎を見て納得した。
(ああ、そう言えば兄貴が一条家のSNSで色々公開してたな……)
タケルたちがここに来ることなど誰でも知り得ることなのである。父重蔵がタケルの元にやって来て尋ねる。
「タケル、このお嬢さんは一体どちらさんなんだ?」
初めて見る実物のタケルの実父。SNSの写真でしか見たことのなかった雫が緊張しつつ、リボンをぴんと伸ばして挨拶する。
「は、初めまして。お父様!! 私、聡明館大学柔道部のマネージャーで……」
なるほど、と頷いて聞く重蔵。だが次の言葉を聞いて驚愕する。
「彼女の、青葉雫です!!!」
「は?」
重蔵が口を開けて驚く。それ以上に大きな口を開けて驚くタケル。重蔵が怒りの形相でタケルに言う。
「お前、優花ちゃんとお付き合いしてるんじゃなかったのか!?」
タケルが青い顔をして答える。
「いや、違うんだ、親父。雫ちゃんはそういのじゃなくて……」
「私、『二番目の彼女』なんです!!!」
その言葉が鋭い矢じりのようになって重蔵の心に突き刺さった。
バーーーーーーン!!!
「ぎゃあ、痛ってえええ!!!!!」
強烈な重蔵の張り手がタケルの頬を打ち抜く。あまりの威力にタケルは横に吹き飛びながら倒れる。驚く周りの人たち。雫も青い顔をして言う。
「ち、違うんです。お父様!! 私は二番目でもいいんです。虎視眈々と一番を狙っていますが」
「な、なんと言う……」
重蔵は雫のあまりにも健気な言葉に両目からボロボロと涙を流し始める。そして床に倒れているタケルの襟首を持って低い声で言う。
「優花ちゃんという可愛い子がいながら、こんな女の子にまで手を出すとは……、それでも一条家の柔道家か!!!」
バーーーーーーン!!!
「ぎゃあっ!!」
今度は反対の頬を殴られるタケル。再び床に倒れたタケルに、雫とはまた違った別の女性が駆け付ける。
「一条君、一条君、大丈夫!?」
赤みがかったツインテールの女の子。
佐倉このみは入館して来た一条家に気付きすぐにタケルを見つる。そしていきなり現れた恋敵の雫、更に意味も分からず殴られる姿を見ていても立ってもいられなくなった。
このみが倒れるタケルの前に座り、両手を開いて言う。
「や、止めてください!!! どうしてこんなに酷いことするんですか!!」
重蔵はまたしても現れた見知らぬ女性に少し混乱しながら言う。
「誰なんだ、あんたは?」
このみは一瞬ためらう。
振られたばかりの自分。しかしタケルを心から愛する自分にこの状況は耐えきれない。このみが言う。
「一条君の、彼女です!!!」
ギリギリのところで保っていた重蔵の何かがその言葉で音を立てて切れた。
「ダケルゥゥゥゥ!!!!!」
「ち、違うって、親父っ!!!!」
激怒する重蔵を兄の慎太郎が押さえつける。タケルは這う這うの体で逃げ始める。それを見ていた開盛大学の柔道部員たちが青い顔をして言う。
「お、おい、なんかすごいビシバシ殴られているんだが……」
「い、一条家の練習って凄まじいな……」
柔道強豪校である開盛大学でも、さすがにあれほど厳しい指導はしない。部員たちはこれから対戦する相手がまるで異次元の世界にいる人達のように見えた。
ただこの男はそんな部員達とは全く違うことを思っていた。
(佐倉、俺の佐倉。ああ、お前はやはりあの男のところへ行くだな。俺が前回負けてしまったばかりに……)
剛力は床に情けなく倒れているタケル、そしてそれを守ろうとしているこのみの姿を見て闘志に火をつける。
(なぜ、お前がここに居るのかはもう知らぬ!! だがこれは俺にとって最高の機会。お前に勝って佐倉を奪い返す!! 今日は負けぬぞ、青葉っ!!!!)
剛力はなぜ一条家の公開練習にタケルがいるのか一瞬不思議に思ったが、それ以上にこのみを奪われた強い怨念が彼を支配していた。タケルをこのみの前で叩きのめす、それしか彼の頭にはなかった。
「あら~、なんか面白そうになって来たわね」
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