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第二章「空腹のガイル」
9.武闘大会、開幕!!
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「ん、んん……」
ミタリアは朝のまぶしい光に気付いて目を覚ました。
(あれ、私……)
ベッドの上。昨夜とった宿のベッドだ。
(私、お兄ちゃんとお酒を飲んで……、ああ!!!)
ベッドに横たわったままミタリアが体中の服を確かめる。
(ない、ない!! 乱れが全くない!!! 私手籠めに……)
「されなかった!!!」
意気揚々と酒場に行きお酒を口にしたまでは覚えている。
だがそこからの記憶が全くない。あれからどうなったのか。レフォードとお酒を飲んだのか。酔ったのは良いとしてちゃんと子作りはできたのか。結論から言えば恐らく失敗に終わったようだ。
(もぉ!! お兄ちゃん!!! どうして、どうしてなの!!!!)
大好きで大好きで大好きな兄レフォード。先代主からの命令で跡継ぎを言われた際も彼女の頭には記憶の中に生きる兄の姿しか浮かばなかった。兄の為ならなんだってする。何をされてもいい。いや、されたい。
(なのに、どーしてよ!! どうして何もしてくれないの!!!)
日々成長する女としての自分に自信も出て来た。領地を歩く際の男性からの視線も変わってきていることも知っている。レフォードだって男。今の自分を見て何とも思わないはずがない。
「あー、なのに何でよ!!!」
思わず口に出た言葉。それを聞いたレフォードが声をかける。
「お、起きたか。ミタリア」
レフォードは先に起きてテーブルに座り新聞を読んでいる。いつも通りの光景にミタリアがむっとして起き上り、ガツガツと近寄りながら言う。
「お兄ちゃんの意気地なし! 最低!! へたれ!!」
「は……? な、なんだいきなり……??」
何も気付かないその態度に更に怒りが増す。
「お兄ちゃんなんて、もう知らない!!」
そう言ってプイと横を向くミタリア。意味が分からないレフォードだが、テーブルに置いてあるカップを手にミタリアに言う。
「ココアでもどうだ? ミタリア」
「うん! 飲むよ!!」
とはいっても『お兄ちゃん大好きパワー』にはやはり抗えないミタリア。優しいレフォードの声を聞くとすべてを忘れて順応になる。
「お兄ちゃん、何読んでいるの?」
すっかり怒りなど忘れてしまったミタリア。兄の淹れてくれたココアを飲みながら尋ねる。
「新聞。最近、魔族の動きも活発になっているのか?」
少し暗い顔になったミタリアが答える。
「うん、ラフェル王国はまだそんなに被害はないんだけど、隣のヴェスタ公国が結構襲撃されているみたいで……」
「ヴェスタはうちとも戦争やってるんだろ? 大変だな」
「そうだね。うちも蛮族とか北のガナリア大帝国とか手一杯だけどね……」
その顔は『妹ミタリア』ではなく『領主ミタリア』の顔つきとなっていた。レフォードがミタリアの赤い髪の頭を撫でながら言う。
「とりあえず蛮族の憂いは俺が拭ってやる。そんな暗い顔するな」
「うん! ありがとね、お兄ちゃん!!
チュッ
「ひゃ!?」
ミタリアはレフォードの隣に行くとその頬に口づけした。椅子から落ちそうになったレフォードが呆然としながら言う。
「な、何やってんだ!! 俺は兄だぞ!!!」
ミタリアがレフォードの首に手を回して言う。
「兄弟でちゅっちゅするなんて普通でしょ~、お兄ちゃん、いつもうまいこと言って逃げるんだから~」
「な、何の話だ……」
「また~、そう言うこと言う~」
寝起きのミタリア。彼女からは強い女の香りが放出される。それは男にとって理性を狂わせる魔性の色香。大半の男ならこれで落ちる。成長した『慈愛のミタリア』は、本人も気付かないほど男にとって魅力的な女性に成長しつつあった。
「さ、さて。メシ食ったら行くぞ」
「うん!」
「ミタリアは見学な」
自分も出場しそうな勢いのミタリアにレフォードが釘を刺す。
「分かってるよ~、領主特権で最前列取ってもらう予定だから」
「なるほど」
目の前にいる妹。彼にとってはまだ幼い存在と思っているが、もう立派な領主。すべてを心配する必要はない。
「じゃあ、行くぞ」
「はーい!!」
金髪のかつらにマスク、フード付きのグレーのコートを着たレフォードが部屋を出る。ミタリアも少しだけ変装してその後に続いた。
街の中心部にある闘技場。巨大な施設で多くの観衆を収容できる。街の規模には似つかわしくないほど立派な建物。その闘技場に今朝から多くの人が集まってきている。
「凄い人だな」
「そうだね」
出場選手としてやって来たレフォードは予想以上の人の多さに驚く。幼少から孤児院、鉱山で働いて来た彼にとってこれほど多くの人がいる場所は記憶にない。レフォードが言う。
「出場選手はあっちのようだ。お前は大丈夫か?」
「うん、運営委員はあっちだからちょっと顔出してくる。VIPは特別よ~」
レフォードはそう言うミタリアの頭を撫でてから出場選手受付へと足を運んだ。
「ねえ、ジェイク。今回も凄い人だね」
『鷹の風』のナンバー2で巨躯の辮髪の男は、そう話す小柄な少年に向かって頷いて答えた。
「ああ、そうだな。ライド。本当にたくさんの人が来ている。この中で我々の仲間となる人材を発掘する」
ライドと呼ばれた小柄な少年が答える。
「でもさあ、僕に敵うやつなんて居るのかな~」
彼はこれまでも様々な武闘大会に参加している『鷹の風』幹部。人材発掘が目的だがそのお目にかなう人物はそうそういない。ジェイクが言う。
「ガイル様のご命令だ。得体の知れぬ男も現れているので戦力強化が急務。しっかり頼むぞ」
「はーい! 頑張るよ」
ライドはそう言って軽く手を上げ出場者受付へと歩き出す。
『鷹の風』は人材発掘の為に自らの幹部を大会に出場させている。実際に戦い、そして観客席からもしっかりと確認。見どころのある人物には経歴を調べてから声を掛ける。
ジェイクはライドを見送ると、自身は人でごった返す観客席へと向かった。
(これが控室か)
レフォードは闘技場横にある広い控室に来ていた。
ここにはこれから武闘会に出場する予定の選手が待機する場所。ホールのように広く、実践前のトレーニングやウォーミングアップなども可能だ。
(さて、どこまでやれるのかな……)
自身が通常の人よりも強いことは理解していた。
ただ絶対的に戦闘経験が少なく、体術も戦術も知らない。ふたつのレアスキル【超耐久】と【超回復】に鉱山で鍛えた拳。これが武器となるのだが、一体本格的な武闘大会でどこまで通じるのかレフォード自身も興味があった。ある意味、自分を知るための大会と言ってもいい。
(強そうな人はいるかな~、ええっと、うん、いないね!!)
『鷹の風』で、三風牙と呼ばれる三人の幹部であるライド。まだ幼い少年の風貌なので対戦相手の実力を知るにはうってつけの人材。ただその風のように素早い動きは、ラフェル王国騎士団をも手玉に取るほどの実力がある。
(でも怪しいのはいるね~!)
ライドはセンスの悪いグレーのフード付きコートを羽織った金髪の男を見つめる。周りをきょろきょろ見ておりまるで田舎から出てきたお上りさんのようである。
【それではみなさん簡単にルールを説明します】
そんな選手控室に大会関係者であろう人間がやって来て大きな声で説明を始めた。
ルールは簡単。制限時間内に相手を降参させるだけ。殺しは厳禁。怪我をする前に降参して欲しいとのお願いが最後にされた。
「では最初の試合、レフォルドさん対、グラムさん。武闘場へどうぞ!!」
レフォードは今大会に偽名を使っている。それがレフォルド。いきなりの対戦に軽く返事をして武闘場へと移動する。それを見ていたライドが笑って言う。
「あー、あの怪しい人、いきなり当たったじゃん!! 楽しみ~!!」
レフォードと並び武闘場へ向かうグラムと呼ばれた男。大きく膨れた腹に丸太のような体躯。別の大会で準優勝したことのある実力の持ち主である。グラムがレフォードに言う。
「ぎゃはははっ、お前みたいな細い奴、一撃だぞ、一撃!! 最初に降参しとけ、クズ野郎!!」
口から唾を飛ばしながら大声で話すグラムにレフォードが距離を取って歩く。
「あ、お兄ちゃんだ!! レフォルド!? ……うん、なるほどね!」
領主特権で最前列の席を取ったミタリア。いきなり現れたレフォードの姿に興奮する。
「頑張れー、頑張れー!!」
大きな歓声にかき消されミタリアの声はレフォードに届かない。武闘場で向き合う両者。観客席からはグラムを知る者から声が飛ぶ。
「行け行け、グラム!! そんなモヤシ野郎、ぶっとばせー!!!」
暗いコートを羽織った見知らぬ男。対照的に巨木のような大きなグラムはいかにも強そうである。グラムが言う。
「あぁ!? お前、辞退しねえんだな?? バカが、怪我するだけだぞ!!」
「……」
無言のレフォード。これから『鷹の風』に潜入することを考えあまり目立った行動はしたくない。
「始めっ!!」
係員の合図でグラムがその太い丸太のような腕をまわしながらレフォードに接近する。
「ぎゃはははっ、くたばれ!! カス野郎が!!!」
ドン!!!
(え?)
グラムの渾身の一撃。
それは確実にレフォードの胸に打ち込まれたのだが、なぜかびくともしない。
(痛てえ、痛てえ!? ど、どうなってやがる……!?)
逆に彼の拳を襲う強い激痛。弱いと思っていた相手対してこの状況。グラムの頭の整理が追い付かない。
「じゃあ、行くぞ」
ドフ!!
「ぎゃっ!!」
レフォードの前で動けなくなっていたグラムの大きな腹に、鉱山で鍛えた重い一撃が打ち込まれる。
ドン!!!
グラムが白目をむいてその場に倒れた。係員が確認して右手を大きく上げて叫ぶ。
「グラム選手気絶!! 勝者、レフォルド選手!!!!」
「うおおおおおお!!!!」
「きゃあああ!!!!」
会場から溢れる歓声に拍手。
何が起こったのか分からない観客達だが、武闘場のコートの男が勝ったことだけはすぐに理解した。
「きゃあああ!! お兄ちゃん、すごーい!!!」
無論最前列のミタリアも興奮状態。改めて自分の兄に惚れ直す。
「ほお、中々じゃないですか」
そのはるか後方で見ていた『鷹の風』のジェイクが頷いて言う。
「あれ、勝っちゃったの? どうやったか知らないがそこそこ強いのかな~??」
武闘場の脇で見ていた同じく『鷹の風』の幹部ライドが腕を組んで言う。
「まあ、それでも僕には敵わないけどね~」
余裕のライド。
「ルコ様のご命令。強い人間、コロス」
別の観客席で不気味な視線を送るひとりの男。波乱の武闘大会が幕を開けた。
ミタリアは朝のまぶしい光に気付いて目を覚ました。
(あれ、私……)
ベッドの上。昨夜とった宿のベッドだ。
(私、お兄ちゃんとお酒を飲んで……、ああ!!!)
ベッドに横たわったままミタリアが体中の服を確かめる。
(ない、ない!! 乱れが全くない!!! 私手籠めに……)
「されなかった!!!」
意気揚々と酒場に行きお酒を口にしたまでは覚えている。
だがそこからの記憶が全くない。あれからどうなったのか。レフォードとお酒を飲んだのか。酔ったのは良いとしてちゃんと子作りはできたのか。結論から言えば恐らく失敗に終わったようだ。
(もぉ!! お兄ちゃん!!! どうして、どうしてなの!!!!)
大好きで大好きで大好きな兄レフォード。先代主からの命令で跡継ぎを言われた際も彼女の頭には記憶の中に生きる兄の姿しか浮かばなかった。兄の為ならなんだってする。何をされてもいい。いや、されたい。
(なのに、どーしてよ!! どうして何もしてくれないの!!!)
日々成長する女としての自分に自信も出て来た。領地を歩く際の男性からの視線も変わってきていることも知っている。レフォードだって男。今の自分を見て何とも思わないはずがない。
「あー、なのに何でよ!!!」
思わず口に出た言葉。それを聞いたレフォードが声をかける。
「お、起きたか。ミタリア」
レフォードは先に起きてテーブルに座り新聞を読んでいる。いつも通りの光景にミタリアがむっとして起き上り、ガツガツと近寄りながら言う。
「お兄ちゃんの意気地なし! 最低!! へたれ!!」
「は……? な、なんだいきなり……??」
何も気付かないその態度に更に怒りが増す。
「お兄ちゃんなんて、もう知らない!!」
そう言ってプイと横を向くミタリア。意味が分からないレフォードだが、テーブルに置いてあるカップを手にミタリアに言う。
「ココアでもどうだ? ミタリア」
「うん! 飲むよ!!」
とはいっても『お兄ちゃん大好きパワー』にはやはり抗えないミタリア。優しいレフォードの声を聞くとすべてを忘れて順応になる。
「お兄ちゃん、何読んでいるの?」
すっかり怒りなど忘れてしまったミタリア。兄の淹れてくれたココアを飲みながら尋ねる。
「新聞。最近、魔族の動きも活発になっているのか?」
少し暗い顔になったミタリアが答える。
「うん、ラフェル王国はまだそんなに被害はないんだけど、隣のヴェスタ公国が結構襲撃されているみたいで……」
「ヴェスタはうちとも戦争やってるんだろ? 大変だな」
「そうだね。うちも蛮族とか北のガナリア大帝国とか手一杯だけどね……」
その顔は『妹ミタリア』ではなく『領主ミタリア』の顔つきとなっていた。レフォードがミタリアの赤い髪の頭を撫でながら言う。
「とりあえず蛮族の憂いは俺が拭ってやる。そんな暗い顔するな」
「うん! ありがとね、お兄ちゃん!!
チュッ
「ひゃ!?」
ミタリアはレフォードの隣に行くとその頬に口づけした。椅子から落ちそうになったレフォードが呆然としながら言う。
「な、何やってんだ!! 俺は兄だぞ!!!」
ミタリアがレフォードの首に手を回して言う。
「兄弟でちゅっちゅするなんて普通でしょ~、お兄ちゃん、いつもうまいこと言って逃げるんだから~」
「な、何の話だ……」
「また~、そう言うこと言う~」
寝起きのミタリア。彼女からは強い女の香りが放出される。それは男にとって理性を狂わせる魔性の色香。大半の男ならこれで落ちる。成長した『慈愛のミタリア』は、本人も気付かないほど男にとって魅力的な女性に成長しつつあった。
「さ、さて。メシ食ったら行くぞ」
「うん!」
「ミタリアは見学な」
自分も出場しそうな勢いのミタリアにレフォードが釘を刺す。
「分かってるよ~、領主特権で最前列取ってもらう予定だから」
「なるほど」
目の前にいる妹。彼にとってはまだ幼い存在と思っているが、もう立派な領主。すべてを心配する必要はない。
「じゃあ、行くぞ」
「はーい!!」
金髪のかつらにマスク、フード付きのグレーのコートを着たレフォードが部屋を出る。ミタリアも少しだけ変装してその後に続いた。
街の中心部にある闘技場。巨大な施設で多くの観衆を収容できる。街の規模には似つかわしくないほど立派な建物。その闘技場に今朝から多くの人が集まってきている。
「凄い人だな」
「そうだね」
出場選手としてやって来たレフォードは予想以上の人の多さに驚く。幼少から孤児院、鉱山で働いて来た彼にとってこれほど多くの人がいる場所は記憶にない。レフォードが言う。
「出場選手はあっちのようだ。お前は大丈夫か?」
「うん、運営委員はあっちだからちょっと顔出してくる。VIPは特別よ~」
レフォードはそう言うミタリアの頭を撫でてから出場選手受付へと足を運んだ。
「ねえ、ジェイク。今回も凄い人だね」
『鷹の風』のナンバー2で巨躯の辮髪の男は、そう話す小柄な少年に向かって頷いて答えた。
「ああ、そうだな。ライド。本当にたくさんの人が来ている。この中で我々の仲間となる人材を発掘する」
ライドと呼ばれた小柄な少年が答える。
「でもさあ、僕に敵うやつなんて居るのかな~」
彼はこれまでも様々な武闘大会に参加している『鷹の風』幹部。人材発掘が目的だがそのお目にかなう人物はそうそういない。ジェイクが言う。
「ガイル様のご命令だ。得体の知れぬ男も現れているので戦力強化が急務。しっかり頼むぞ」
「はーい! 頑張るよ」
ライドはそう言って軽く手を上げ出場者受付へと歩き出す。
『鷹の風』は人材発掘の為に自らの幹部を大会に出場させている。実際に戦い、そして観客席からもしっかりと確認。見どころのある人物には経歴を調べてから声を掛ける。
ジェイクはライドを見送ると、自身は人でごった返す観客席へと向かった。
(これが控室か)
レフォードは闘技場横にある広い控室に来ていた。
ここにはこれから武闘会に出場する予定の選手が待機する場所。ホールのように広く、実践前のトレーニングやウォーミングアップなども可能だ。
(さて、どこまでやれるのかな……)
自身が通常の人よりも強いことは理解していた。
ただ絶対的に戦闘経験が少なく、体術も戦術も知らない。ふたつのレアスキル【超耐久】と【超回復】に鉱山で鍛えた拳。これが武器となるのだが、一体本格的な武闘大会でどこまで通じるのかレフォード自身も興味があった。ある意味、自分を知るための大会と言ってもいい。
(強そうな人はいるかな~、ええっと、うん、いないね!!)
『鷹の風』で、三風牙と呼ばれる三人の幹部であるライド。まだ幼い少年の風貌なので対戦相手の実力を知るにはうってつけの人材。ただその風のように素早い動きは、ラフェル王国騎士団をも手玉に取るほどの実力がある。
(でも怪しいのはいるね~!)
ライドはセンスの悪いグレーのフード付きコートを羽織った金髪の男を見つめる。周りをきょろきょろ見ておりまるで田舎から出てきたお上りさんのようである。
【それではみなさん簡単にルールを説明します】
そんな選手控室に大会関係者であろう人間がやって来て大きな声で説明を始めた。
ルールは簡単。制限時間内に相手を降参させるだけ。殺しは厳禁。怪我をする前に降参して欲しいとのお願いが最後にされた。
「では最初の試合、レフォルドさん対、グラムさん。武闘場へどうぞ!!」
レフォードは今大会に偽名を使っている。それがレフォルド。いきなりの対戦に軽く返事をして武闘場へと移動する。それを見ていたライドが笑って言う。
「あー、あの怪しい人、いきなり当たったじゃん!! 楽しみ~!!」
レフォードと並び武闘場へ向かうグラムと呼ばれた男。大きく膨れた腹に丸太のような体躯。別の大会で準優勝したことのある実力の持ち主である。グラムがレフォードに言う。
「ぎゃはははっ、お前みたいな細い奴、一撃だぞ、一撃!! 最初に降参しとけ、クズ野郎!!」
口から唾を飛ばしながら大声で話すグラムにレフォードが距離を取って歩く。
「あ、お兄ちゃんだ!! レフォルド!? ……うん、なるほどね!」
領主特権で最前列の席を取ったミタリア。いきなり現れたレフォードの姿に興奮する。
「頑張れー、頑張れー!!」
大きな歓声にかき消されミタリアの声はレフォードに届かない。武闘場で向き合う両者。観客席からはグラムを知る者から声が飛ぶ。
「行け行け、グラム!! そんなモヤシ野郎、ぶっとばせー!!!」
暗いコートを羽織った見知らぬ男。対照的に巨木のような大きなグラムはいかにも強そうである。グラムが言う。
「あぁ!? お前、辞退しねえんだな?? バカが、怪我するだけだぞ!!」
「……」
無言のレフォード。これから『鷹の風』に潜入することを考えあまり目立った行動はしたくない。
「始めっ!!」
係員の合図でグラムがその太い丸太のような腕をまわしながらレフォードに接近する。
「ぎゃはははっ、くたばれ!! カス野郎が!!!」
ドン!!!
(え?)
グラムの渾身の一撃。
それは確実にレフォードの胸に打ち込まれたのだが、なぜかびくともしない。
(痛てえ、痛てえ!? ど、どうなってやがる……!?)
逆に彼の拳を襲う強い激痛。弱いと思っていた相手対してこの状況。グラムの頭の整理が追い付かない。
「じゃあ、行くぞ」
ドフ!!
「ぎゃっ!!」
レフォードの前で動けなくなっていたグラムの大きな腹に、鉱山で鍛えた重い一撃が打ち込まれる。
ドン!!!
グラムが白目をむいてその場に倒れた。係員が確認して右手を大きく上げて叫ぶ。
「グラム選手気絶!! 勝者、レフォルド選手!!!!」
「うおおおおおお!!!!」
「きゃあああ!!!!」
会場から溢れる歓声に拍手。
何が起こったのか分からない観客達だが、武闘場のコートの男が勝ったことだけはすぐに理解した。
「きゃあああ!! お兄ちゃん、すごーい!!!」
無論最前列のミタリアも興奮状態。改めて自分の兄に惚れ直す。
「ほお、中々じゃないですか」
そのはるか後方で見ていた『鷹の風』のジェイクが頷いて言う。
「あれ、勝っちゃったの? どうやったか知らないがそこそこ強いのかな~??」
武闘場の脇で見ていた同じく『鷹の風』の幹部ライドが腕を組んで言う。
「まあ、それでも僕には敵わないけどね~」
余裕のライド。
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