愚かな弟妹達は偉くなっても俺に叱られる。

サイトウ純蒼

文字の大きさ
18 / 76
第三章「正義のエルク」

18.孤高の騎士

しおりを挟む
 ラフェル王国の正騎士団の戦勝パレード。
 魔物討伐を祝して行われたその祝いの場に、似つかわしくない風姿ふうしの男数名が行く手を遮る。全員黒いマスクを被り、手には剣などの武器が握られている。副団長シルバーが馬上から叫ぶ。


「貴様らっ! 我々が正騎士団と知っての蛮行かっ!!!」

 決してあってはならない愚行。正騎士団を汚すような行為。絶対に許すわけにはいかない。槍を手に覆面を被った男が答える。


「ああ、もちろん知ってるよ。なあ、シルバー副団長よ」

 そう言って覆面を外した顔を見て、正騎士団の面々が驚き動揺する。シルバーが言う。

「お、お前は、ヴォーグ歩兵隊長……」

 ヴォーグ歩兵隊長。
 正騎士団の中でも有数の実力者。彼が放つ槍は岩を砕き風を操る。しかしながら、匿名の密告により公金の横領が発覚。法に厳格なエークの独断ですぐさま解雇が言い渡された。ヴォーグが槍をエークに向けて言う。


「ここで俺達と勝負しな、騎士団長さんよ」

 その声と同時に周りにいた男達も覆面を外す。


「なっ!?」

 正騎士団員達に動揺が走る。


「お、お前達は……」

 彼らは全員正騎士団の者であった。そして全員が平民出身。団長エークによって突然解雇が言い渡された者達であった。ヴォーグが言う。

「まあ、俺は悪いことやったんで解雇も当然だがよお、こいつらには何の落ち度もねえ。平民だから? バカ言ってんじゃねえよ。同じ人間だろ。同じラフェルを想う仲間だろ!」

 大声のヴォーグの声は辺り一面によく響く。見守る観衆達も途中から静かになってそれを聞く。ヴォーグが言う。


「あんた、最初から気に入らなかったんだよ。貴族がそんなに偉いのか? 俺も貴族だがこいつらと何ら変わりはねえぞ!!」

 そう言って横に立つ元団員達に手を向ける。静まり返る中、それまで黙っていた騎士団長エークが馬上から言う。


「ヴォーグ、貴殿は貴族でありながらなぜこのような愚行を行うのだ。すぐにそこを退け」

 ヴォーグが槍を手に言い返す。


「だったら実力で通って見ろよ。騎士団長さん!!」

 同時にその槍から放たれる複数の竜巻。周りの観客達は悲鳴を上げて逃げ始める。騎士団員達はすぐに観客の保護に回り防御を固める。


光の魔法障壁ライトシールド!!!」

 エークの後ろにいた重歩兵隊から防御魔法が発動される。同時に竜巻を囲むように発現する光の壁。竜巻を壁が潰しにかかる。


 ゴオオオオオオ!!!!

 観客達は騎士団員達に守られて退避。お祭りムードだった大通りが一転、強者同士が争う場と化した。


「愚か者め。平民と一緒にこの様な愚行を……」

 エークが腰に付けた聖剣を抜く。それを見たシルバーが驚き言う。

「団長、それは幾らなんでも……」


「構わん。愚か者にはの鉄槌を下す!!」

 掲げられた聖剣に力が集まる。


聖剣突きセント・ラッシュ!!!!」


 ゴオオオオオオオ!!!!


「ぐわああああ!!!!」

 騎士団長が馬上から放った銀色に輝く強烈な攻撃は、ヴォーグを含め一緒に居た元団員達を軽々と吹き飛ばした。槍を杖に立ち上がったヴォーグが言う。


「これがあんたの本性かよ。クソがっ!!」

 ヴォーグが槍を手にエークに突撃した。




「派手に負けたな、あのおっさん。って言うか、あれ元騎士団の歩兵隊長じゃねえのか?」

 遠くから見ていたガイルが一度だけ対戦経験のある元歩兵隊長ヴォーグの顔を思い出して言う。レフォードが尋ねる。


「そうなのか? 元歩兵隊長の襲撃。一体何があったんだ」

「どちらでもいいけど、騎士団長さんってなんだか近寄り辛い感じだね」

 ミタリアは遠目ながら冷淡な感じのする騎士団長を見ながら言う。ガイルが言う。


「何があったか知らないけど、規律を破ったのなら長としては厳しくしなきゃならんのだけどな」

「厳しくねぇ~」

 ミタリアが苦笑する。


「ねえ、お兄ちゃん」

「……」

 無言で騎士団を見つめるレフォード。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「あ、いや、何でもない。ちょっと考え事をしていただけだ。さ、これからどうする?」

 ミタリアが答える。


「うーん、お兄ちゃんと買い物とかご飯とか行きたかったけど、あっちの方大混乱になっているから巻き込まれないうちに帰ろっか」

「そうだな。それがいいな」

 レフォードもミタリアの意見に賛成する。


(騎士団長エーク。一度きちんと会ってみたいものだ……)

 レフォードはヴェルリット家へ帰る馬車の中で、小さくなりつつある王都を見つめながらひとり思った。





「ミタリア様、おかえりなさいませ!!」

 王都から戻ったレフォード達をセバスとジェイク、そしてライドが出迎えた。

「ただいま。今戻ったわ!」

 馬車から降りるミタリアの手をセバスが持つ。

「今日は風がやや冷たいですので、ささ、中へどうぞ」

 セバスは降りて来たレフォード達に軽く挨拶をしてから皆を屋敷の中へと連れて行く。



「みんな留守の間、ありがとうね」

 部屋に入ったミタリアが皆に向かって言う。それまで無口だったジェイクが一歩前に出て頭を下げながら言う。


「ミタリア様、ご不在中に東の村にて蛮族襲撃の報を得ましたので、このジェイクが無事に対処して参りました。怪我人、被害共になし。村人も大変喜んでおりました」

 ジェイクからの報告を聞いたミタリアが嬉しそうな顔になり、彼の手を握って言った。


「まあ、それは素晴らしいです! さすがジェイクさん、本当に頼りになります!!」

 辮髪べんぱつで筋肉隆々のジェイク。冷静沈着で感情を露わさない彼の顔が、真っ赤に染まる。


「も、もったいないお言葉。不肖ジェイク、喜びの極みにございます」

 そう答えるジェイクの体までもが赤くなる。それを後ろで見ていたガイルが小声で言う。


「あいつ、俺に挨拶するより先にミタリアかよ。全く分かりやすいな」

 全身を赤くしてミタリアに頭を下げるジェイクを見てガイルが少し笑って言う。


「おい、ジェイク。顔、真っ赤だぞ!!」

 ジェイクがビクンと体を震わせて答える。


「あ、暑いのです。そう、暑くて……」

 誰もが分かる噓。皆が苦笑する中、レフォードが真面目な顔で言う。


「何だ暑いのか。じゃあ、窓でも開けて……」


「レフォ兄~」

 戦闘はめっぽう強いのに、そっち系はからっきしダメ。だがそんなレフォードだからこそある意味、孤児院時代の妹達とも上手くやれて来られたのだとガイルは思う。
 その後ミタリアが皆に王都の出来事を報告、各自自由となった。




(ちょっと外でも歩くか……)

 レフォードはひとり屋敷の外に出て歩き始める。
 涼しい風が木々の間を優しく舞う。暖かな日差し、少し前の奴隷労働時代からは想像もできない生活だ。だが歩きながらレフォードの頭には王都で見た騎士団長のことで一杯になっていた。


(騎士団長エーク・バーニング。……バーニング家、エルク)

 兜を被っていたので顔は見えなかった。
 だがあの見覚えのある風体、仕草、金色の髪。ミタリアやガイルは何も感じなかったようだが、どう考えてもそう推測する方が合点が行く。


 ――エルク、お前が騎士団長なのか?

 レフォードは目を閉じ、昔孤児院での生活を思い出した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...