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第六章「悪魔のルコ」
49.魔族出撃!!
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「そんな、お母さんが……、殺されて……」
気持ちの整理はまだつかないが、いつか会いたいと思っていた母親。その母は人間になぶり殺されていた。父親が魔族だったことも初めて知った。
(だからこの角が……)
ルコが頭に突然生えた角を触る。魔族の子ではないかとは心のどこかで思っていた。それでもその事実を知りぼろぼろと涙が流れる。震える体。厩舎の藁の上でひとり絶望と怒りに涙を流す。
(許さない、許さない……)
自分を苛めた人間。
母を殺した人間。
自分を殺そうとする人間。
全ての人間が憎かった。消えればいいと思った。この世から抹消したいと思った。
厩舎へやって来た別の使用人がルコを見つけて言う。
「わー、ルコだ!! 悪魔のルコだ!! 死んじゃえ、死んじゃえよ~!!!」
切れた。
ルコの中で何かが切れた。
「うるさいの。お前らが消えるの」
ドオオオオオオオオオオン!!!!!
「ぎゃあああああ!!!!」
突然の爆発。不気味な音を立ててルコがいた厩舎の屋根が吹き飛ぶ。
舞い上がる黒煙。空を漂う藁。厩舎にいた馬が悲痛な鳴き声を上げながら逃げて行く。
「痛てええ、痛てえよおお!!!」
命に別状はなかった使用人の男達。だが一体何が起こったのか全く理解できない。
「許さない。許さないの。消えればいいの。人間は消えればいいの」
無表情のまま、ルコから止めどなく発せられる邪のオーラ。それは正に魔族のオーラ。偶然か奇跡か、そのオーラは上級魔族の中でも特に上質なものであった。
「同胞よ。一体どうした?」
そんなルコの前に、全身真っ黒で背に翼のある魔族が舞い降りる。強い邪気。一見して上級魔族だと分かる。ルコが言う。
「人間コロスの。全部滅べばいいの」
(強い恨み。上質な魔力。こいつ、相当な力を持っている……)
一瞬でルコの力を見ぬいた魔族。ルコの前に立ち優しく言う。
「あいつらにやられたんだな。分かった。俺が潰して来てやる」
上級魔族はそう言うと、厩舎の爆発に驚いて出て来たサーガル家の人達の元へと向かう。
そこからルコの記憶はなくなっていた。
初めて魔族として覚醒したルコは、慣れない力の行使に気を失ってしまっていた。ただ後に、サーガル家は先の魔族によって滅ぼされたと聞かされた。
「お前、名前は?」
魔王城に運ばれたルコ。目が覚めた彼女の元を上級魔族が訪れた。漆黒の体。大きな翼。少し前なら恐怖におののいていたはずなのに、不思議とそんな感じはしない。
「ルコ……」
ルコが小さく答える。上級魔族はルコの手を取り言う。
「さあ、魔王様がお待ちだ。挨拶に行くぞ」
「分かったの……」
上級魔族は自分よりも強力な潜在能力を持つ目の前の紫色のボブカットの少女を早く魔王に会わせたかった。確実に戦力となる。幹部クラスの。
「ルコなの。よろしくなの」
最高責任者である魔王カルカルに無表情で挨拶するルコ。魔族として覚醒し心も潰されかけていたルコにとっては、魔王ですら畏怖する対象ではなかった。
魔王の側近達が、無礼な新参者の態度にガタガタと震え始める。しかし魔王の反応は意外なものであった。
「ルコ……、ルコちゃん……」
魔王カルカルは玉座から降りるこの元へ行きその小さな体を抱きしめる。意外過ぎる反応に側近達が唖然とする。
その日以来、魔王は『ロリコン』じゃないのかと言う噂が立つのだが、実は人間の妻を捨てて逃げた当時の弱小魔族がカルカルだったと言うのは後に皆の知ることとなる。
「ルコ様、出撃準備が整いました」
魔族として迎えられたルコは、その父親譲りの才覚であっという間に魔族長へと登り詰めた。実質ナンバー2。魔王以外、彼女に命令できる者はいない。
「分かったの。じゃあ、そろそろ行く。人間を滅ぼすの」
「御意!」
そんなルコの中に燃える人間への復讐心。それは決して消えることはなく、常に漆黒の炎となって彼女の心で燃え続けていた。側近が尋ねる。
「ルコ様、行き先は?」
「一番多く人間が集まってるとこは?」
「ラフェル王国でしょうか」
「そう、じゃあそこ」
「御意」
魔族長ルコ以下、魔王城幹部が揃って出陣。魔王カルカルも陰ながら応援する一大討伐隊。その目的は未だ目覚めぬ騎士団長エルクがいるラフェル王国と決まった。
「エルクお兄ちゃん」
ヴェスタ公国への出発の朝、最後に正騎士団長であり大切な兄弟のエルクを見舞いに来たレフォード達。未だ眠りから目覚めぬ彼を前に、妹のミタリアがその華奢な手を握る。
「もうちょっとだからね、エルクお兄ちゃん」
ラリーコットへ向かう時より随分と症状は良くなってきている。全身にあった黒いアザの数も減り、色も薄くなってきている。以前の力強い騎士団長が少しずつだが戻って来た感がある。
「レスティア、感謝するぞ」
レフォードはエルクの部屋にいた聖女レスティアに声をかける。まだ体が完治しない彼女。それでもここでの半強制的な規則正しい生活のお陰で、肌や髪に艶が出て来ている。レスティアがダルそうな顔で答える。
「はいはい。エルエルの為だからね~、ダルいけど頑張るよ」
そう言いながらエルクが眠るベッドの傍にずっと付き添っている元恋人のマリアーヌを見つめる。マリアーヌはエルクへの贖罪の為にすべてを捨ててその看病、並びにレスティアの管理を行っていた。レフォードが言う。
「マリアーヌにも感謝したい。レスティアの回復なしにはエルクは助からないからな」
「ありがとうございます、お義兄様。私はエーク様の為に全力で頑張ります」
それを聞き心底嫌そうな顔をするレスティア。食事規制に日々の運動。完全に生活を管理されているレスティアにとって、このマリアーヌと言う女性は受け例難い存在であった。レスティアがレフォードの姿を見て言う。
「しかしまあ、随分と立派な格好だね~、あのレーレーとは思えないよ~」
ラフェル王国の同盟大使として向かうレフォード。真っ白なラフェルの制服に腰に差された二本の剣。そのうち一本は王族が所有する『王家の剣』、まさに大使にぴったりの姿である。レフォードがやや困った顔をして答える。
「まあ、何というか……、あまり着心地のいい服じゃねえけどな……」
新調された固めの服。皺ひとつない制服にレフォードが苦笑いする。レスティアが言う。
「ほんと、似合ってないわ。剣も二本差しちゃってさ。って言うかレーレーって、剣とか扱えたの??」
幼少期から殴ってばかりいた印象しかないレフォード。思わぬ問い掛けに咄嗟に答える。
「あ、ああ、当然だろ……」
「ふえ~」
レスティアはあまり興味なく答えたが、部屋にいたラフェルの人間達は拳だけでも十分強いレフォードが、さらに剣術の心得まであると知って驚く。
(や、やべえ! 咄嗟にあんなこと言っちまったが……、まあこの状況で『飾り』とも言えんし。やはり早くエルクに起きて貰って剣術習わねえと!!)
「おい、レスティア」
「なに? レーレー」
「早くエルクを起こせ」
「……はあ? なによ、急に??」
脈絡のない問い掛けにさすがのレスティアも困惑する。ミタリアが言う。
「レスティアお姉ちゃん。私達ヴェスタで式典終えて、できるだけ早く戻って来るから」
赤いツインテールの可愛い妹。レスティアがミタリアに尋ねる。
「どうして? 何かあるの? あ、ヴァーヴァーが怖いとか??」
ヴェスタの『業火の魔女』がヴァーナだったと言う話は聞いた。ラフェルの正騎士団をも翻弄する凶悪な妹にレスティアが苦笑する。ミタリアが首を振って答える。
「ううん。違うよ、レスティアお姉ちゃん。ヴァーナちゃんはいい子だよ。あのね、実はここにルコちゃんが……」
ミタリアは小声でレスティアにルコの話をする。それを頷いて聞いたレスティアが言う。
「へえ~、ルコルコがねえ。でもあてもなく探すんでしょ? 超ダルそう~」
「うん。でもそれが今のお兄ちゃんのすべてだから」
そう言ってはにかむミタリア。兄弟達を心から心配する長兄。ミタリア自身もその思いはあるが、何より彼の手伝いがしたかった。レスティアがミタリアの頭を撫でながら言う。
「頑張るんだよ、ミタりん。ルコルコにも会いたいし」
「うん」
ミタリアも笑顔でそれに応える。傍に居たガイルが頭を掻きながら言う。
「おーい、そろそろ行かねえか。エル兄は大丈夫だからさ」
ガイルも早くヴェスタの仕事を終えてラフェルに戻り、妹ルコを探したい。それを感じたレフォードが答える。
「よし、じゃあ行くか」
「うん!」
ミタリアが真っ先にそれに答えた。
「お、見えて来たな!! よしよし!!!」
レフォード達がラフェル王国を出て数日、それに入れ替わるように馬に乗ったふたりの人物がラフェルに近付いていた。ふたりとも暗いフード付きのコートを着ているが、ひとりは中に真っ赤なタイトドレス、もうひとりは巨躯にビキニパンツと遠目からでも良く目立つ。ビキニパンツが言う。
「ねえ、ヴァーナちゃん。本当に良かったのかしら。勝手に来ちゃって」
深紅のドレスを着た女が、フードを脱ぎ赤い髪を靡かせながら答える。
「当たり前だろ。レー兄に会いたいんだよ!! レー兄もそう思ってるはず!!」
レフォードにヴェスタ公国の守りを言いつけられていたヴァーナ。だが会いたさゆえに勝手にやって来てしまっていた。ゲルチがため息をつきながら言う。
「そうかしら? レフォードちゃんはヴェスタで待ってろって言っていたはずじゃ……」
「待てるかー、私はレー兄に会いたい!! 会いたいんだ!! 分かるだろ??」
手綱を引きながらゲルチが答える。
「気持ちは分かるわ。私、男だけど心は乙女だから」
ゲルチもイケメン騎士団長や副団長シルバー、それにレフォードと言った粒ぞろいの面々を思い出し少しだけ興奮する。ヴァーナが言う。
「待ってろー、レー兄!! 今行くからなああああ!!! ヒャッハー!!!」
そう叫ぶとヴァーナが馬を走らせる。ゲルチも苦笑しながらそれに続いた。
「間もなくラフエルに到着です。ルコ様」
時を同じくしてラフェル王国近郊。その上空を移動するルコに側近が言った。
「分かったわ。人間を滅ぼすの」
「はっ」
側近は頭を下げ飛行を続ける。
不在の長兄レフォード、並びにエルクが未だ起きぬラフェル王国。そこに凶悪な妹ふたりが鉢合わせすることとなる。
気持ちの整理はまだつかないが、いつか会いたいと思っていた母親。その母は人間になぶり殺されていた。父親が魔族だったことも初めて知った。
(だからこの角が……)
ルコが頭に突然生えた角を触る。魔族の子ではないかとは心のどこかで思っていた。それでもその事実を知りぼろぼろと涙が流れる。震える体。厩舎の藁の上でひとり絶望と怒りに涙を流す。
(許さない、許さない……)
自分を苛めた人間。
母を殺した人間。
自分を殺そうとする人間。
全ての人間が憎かった。消えればいいと思った。この世から抹消したいと思った。
厩舎へやって来た別の使用人がルコを見つけて言う。
「わー、ルコだ!! 悪魔のルコだ!! 死んじゃえ、死んじゃえよ~!!!」
切れた。
ルコの中で何かが切れた。
「うるさいの。お前らが消えるの」
ドオオオオオオオオオオン!!!!!
「ぎゃあああああ!!!!」
突然の爆発。不気味な音を立ててルコがいた厩舎の屋根が吹き飛ぶ。
舞い上がる黒煙。空を漂う藁。厩舎にいた馬が悲痛な鳴き声を上げながら逃げて行く。
「痛てええ、痛てえよおお!!!」
命に別状はなかった使用人の男達。だが一体何が起こったのか全く理解できない。
「許さない。許さないの。消えればいいの。人間は消えればいいの」
無表情のまま、ルコから止めどなく発せられる邪のオーラ。それは正に魔族のオーラ。偶然か奇跡か、そのオーラは上級魔族の中でも特に上質なものであった。
「同胞よ。一体どうした?」
そんなルコの前に、全身真っ黒で背に翼のある魔族が舞い降りる。強い邪気。一見して上級魔族だと分かる。ルコが言う。
「人間コロスの。全部滅べばいいの」
(強い恨み。上質な魔力。こいつ、相当な力を持っている……)
一瞬でルコの力を見ぬいた魔族。ルコの前に立ち優しく言う。
「あいつらにやられたんだな。分かった。俺が潰して来てやる」
上級魔族はそう言うと、厩舎の爆発に驚いて出て来たサーガル家の人達の元へと向かう。
そこからルコの記憶はなくなっていた。
初めて魔族として覚醒したルコは、慣れない力の行使に気を失ってしまっていた。ただ後に、サーガル家は先の魔族によって滅ぼされたと聞かされた。
「お前、名前は?」
魔王城に運ばれたルコ。目が覚めた彼女の元を上級魔族が訪れた。漆黒の体。大きな翼。少し前なら恐怖におののいていたはずなのに、不思議とそんな感じはしない。
「ルコ……」
ルコが小さく答える。上級魔族はルコの手を取り言う。
「さあ、魔王様がお待ちだ。挨拶に行くぞ」
「分かったの……」
上級魔族は自分よりも強力な潜在能力を持つ目の前の紫色のボブカットの少女を早く魔王に会わせたかった。確実に戦力となる。幹部クラスの。
「ルコなの。よろしくなの」
最高責任者である魔王カルカルに無表情で挨拶するルコ。魔族として覚醒し心も潰されかけていたルコにとっては、魔王ですら畏怖する対象ではなかった。
魔王の側近達が、無礼な新参者の態度にガタガタと震え始める。しかし魔王の反応は意外なものであった。
「ルコ……、ルコちゃん……」
魔王カルカルは玉座から降りるこの元へ行きその小さな体を抱きしめる。意外過ぎる反応に側近達が唖然とする。
その日以来、魔王は『ロリコン』じゃないのかと言う噂が立つのだが、実は人間の妻を捨てて逃げた当時の弱小魔族がカルカルだったと言うのは後に皆の知ることとなる。
「ルコ様、出撃準備が整いました」
魔族として迎えられたルコは、その父親譲りの才覚であっという間に魔族長へと登り詰めた。実質ナンバー2。魔王以外、彼女に命令できる者はいない。
「分かったの。じゃあ、そろそろ行く。人間を滅ぼすの」
「御意!」
そんなルコの中に燃える人間への復讐心。それは決して消えることはなく、常に漆黒の炎となって彼女の心で燃え続けていた。側近が尋ねる。
「ルコ様、行き先は?」
「一番多く人間が集まってるとこは?」
「ラフェル王国でしょうか」
「そう、じゃあそこ」
「御意」
魔族長ルコ以下、魔王城幹部が揃って出陣。魔王カルカルも陰ながら応援する一大討伐隊。その目的は未だ目覚めぬ騎士団長エルクがいるラフェル王国と決まった。
「エルクお兄ちゃん」
ヴェスタ公国への出発の朝、最後に正騎士団長であり大切な兄弟のエルクを見舞いに来たレフォード達。未だ眠りから目覚めぬ彼を前に、妹のミタリアがその華奢な手を握る。
「もうちょっとだからね、エルクお兄ちゃん」
ラリーコットへ向かう時より随分と症状は良くなってきている。全身にあった黒いアザの数も減り、色も薄くなってきている。以前の力強い騎士団長が少しずつだが戻って来た感がある。
「レスティア、感謝するぞ」
レフォードはエルクの部屋にいた聖女レスティアに声をかける。まだ体が完治しない彼女。それでもここでの半強制的な規則正しい生活のお陰で、肌や髪に艶が出て来ている。レスティアがダルそうな顔で答える。
「はいはい。エルエルの為だからね~、ダルいけど頑張るよ」
そう言いながらエルクが眠るベッドの傍にずっと付き添っている元恋人のマリアーヌを見つめる。マリアーヌはエルクへの贖罪の為にすべてを捨ててその看病、並びにレスティアの管理を行っていた。レフォードが言う。
「マリアーヌにも感謝したい。レスティアの回復なしにはエルクは助からないからな」
「ありがとうございます、お義兄様。私はエーク様の為に全力で頑張ります」
それを聞き心底嫌そうな顔をするレスティア。食事規制に日々の運動。完全に生活を管理されているレスティアにとって、このマリアーヌと言う女性は受け例難い存在であった。レスティアがレフォードの姿を見て言う。
「しかしまあ、随分と立派な格好だね~、あのレーレーとは思えないよ~」
ラフェル王国の同盟大使として向かうレフォード。真っ白なラフェルの制服に腰に差された二本の剣。そのうち一本は王族が所有する『王家の剣』、まさに大使にぴったりの姿である。レフォードがやや困った顔をして答える。
「まあ、何というか……、あまり着心地のいい服じゃねえけどな……」
新調された固めの服。皺ひとつない制服にレフォードが苦笑いする。レスティアが言う。
「ほんと、似合ってないわ。剣も二本差しちゃってさ。って言うかレーレーって、剣とか扱えたの??」
幼少期から殴ってばかりいた印象しかないレフォード。思わぬ問い掛けに咄嗟に答える。
「あ、ああ、当然だろ……」
「ふえ~」
レスティアはあまり興味なく答えたが、部屋にいたラフェルの人間達は拳だけでも十分強いレフォードが、さらに剣術の心得まであると知って驚く。
(や、やべえ! 咄嗟にあんなこと言っちまったが……、まあこの状況で『飾り』とも言えんし。やはり早くエルクに起きて貰って剣術習わねえと!!)
「おい、レスティア」
「なに? レーレー」
「早くエルクを起こせ」
「……はあ? なによ、急に??」
脈絡のない問い掛けにさすがのレスティアも困惑する。ミタリアが言う。
「レスティアお姉ちゃん。私達ヴェスタで式典終えて、できるだけ早く戻って来るから」
赤いツインテールの可愛い妹。レスティアがミタリアに尋ねる。
「どうして? 何かあるの? あ、ヴァーヴァーが怖いとか??」
ヴェスタの『業火の魔女』がヴァーナだったと言う話は聞いた。ラフェルの正騎士団をも翻弄する凶悪な妹にレスティアが苦笑する。ミタリアが首を振って答える。
「ううん。違うよ、レスティアお姉ちゃん。ヴァーナちゃんはいい子だよ。あのね、実はここにルコちゃんが……」
ミタリアは小声でレスティアにルコの話をする。それを頷いて聞いたレスティアが言う。
「へえ~、ルコルコがねえ。でもあてもなく探すんでしょ? 超ダルそう~」
「うん。でもそれが今のお兄ちゃんのすべてだから」
そう言ってはにかむミタリア。兄弟達を心から心配する長兄。ミタリア自身もその思いはあるが、何より彼の手伝いがしたかった。レスティアがミタリアの頭を撫でながら言う。
「頑張るんだよ、ミタりん。ルコルコにも会いたいし」
「うん」
ミタリアも笑顔でそれに応える。傍に居たガイルが頭を掻きながら言う。
「おーい、そろそろ行かねえか。エル兄は大丈夫だからさ」
ガイルも早くヴェスタの仕事を終えてラフェルに戻り、妹ルコを探したい。それを感じたレフォードが答える。
「よし、じゃあ行くか」
「うん!」
ミタリアが真っ先にそれに答えた。
「お、見えて来たな!! よしよし!!!」
レフォード達がラフェル王国を出て数日、それに入れ替わるように馬に乗ったふたりの人物がラフェルに近付いていた。ふたりとも暗いフード付きのコートを着ているが、ひとりは中に真っ赤なタイトドレス、もうひとりは巨躯にビキニパンツと遠目からでも良く目立つ。ビキニパンツが言う。
「ねえ、ヴァーナちゃん。本当に良かったのかしら。勝手に来ちゃって」
深紅のドレスを着た女が、フードを脱ぎ赤い髪を靡かせながら答える。
「当たり前だろ。レー兄に会いたいんだよ!! レー兄もそう思ってるはず!!」
レフォードにヴェスタ公国の守りを言いつけられていたヴァーナ。だが会いたさゆえに勝手にやって来てしまっていた。ゲルチがため息をつきながら言う。
「そうかしら? レフォードちゃんはヴェスタで待ってろって言っていたはずじゃ……」
「待てるかー、私はレー兄に会いたい!! 会いたいんだ!! 分かるだろ??」
手綱を引きながらゲルチが答える。
「気持ちは分かるわ。私、男だけど心は乙女だから」
ゲルチもイケメン騎士団長や副団長シルバー、それにレフォードと言った粒ぞろいの面々を思い出し少しだけ興奮する。ヴァーナが言う。
「待ってろー、レー兄!! 今行くからなああああ!!! ヒャッハー!!!」
そう叫ぶとヴァーナが馬を走らせる。ゲルチも苦笑しながらそれに続いた。
「間もなくラフエルに到着です。ルコ様」
時を同じくしてラフェル王国近郊。その上空を移動するルコに側近が言った。
「分かったわ。人間を滅ぼすの」
「はっ」
側近は頭を下げ飛行を続ける。
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