愚かな弟妹達は偉くなっても俺に叱られる。

サイトウ純蒼

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第六章「悪魔のルコ」

51.ラフェル王城攻防戦

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 ラフェル王国正騎士団、副団長シルバーの指示は迅速だった。

「ガード、すぐに城全体に魔法障壁を張って守備を固めろ!!」

「おう!!」

 王城指令室に集まった将官達を前にシルバーが次々と指示を出していく。


「ジェイク殿はライドと一緒に王都の人々の護衛を頼み申す」

「了解」

 元蛮族『鷹の風』のメンバーも今や立派な正騎士団。王都防衛の為に全力を尽くす。シルバーが残ったレーアに言う。


「対空攻撃の要はレーア、お前になる。頼むぞ」

「はいはい。頑張るわよ」

 そう落ち着いてみせるレーアだが、内心魔族の大規模襲撃に心は潰されそうになっていた。窓から見える魔族の群れ。ひしひしと感じる強い邪気。ほぼ防戦一方になる戦いで攻撃の要が自分になることに不安でしかなかった。



「ねえ、ちょっといいかしら?」

 一通り皆に指示を出し終えたシルバーに、部屋の隅にいたビキニパンツの男ゲルチが声をかける。

「なんでしょうか?」

 シルバーの頭の中にこの隣国からのふたりの存在が一時消えていた。ゲルチが言う。


「私達もお手伝いしましょうか?」

「お手伝い?」

 一瞬意味が分からないシルバーだったが、すぐにそれが対魔族の加勢に加わると理解する。すぐに答える。


「それはできません。あなた方とはまだ同盟交渉中で……」

「もぉ~、イケメンちゃんはお堅いのね~」

「いや、そう言う意味では……」

 戸惑うシルバーにゲルチが後ろに立つ深紅の髪の少女を指差して言う。


「そんな理屈が通じないのがあの子よ。ヴェスタに帰るのを邪魔すると知って、ほら。体から魔力が溢れ出ているわ」

 そう指差すヴァーナを見ると怒りで体を震わせている。魔法がそれほど得意じゃないシルバーですら感じる強い魔力。だが思う。


(同盟交渉国の将官にうちの防衛をさせて怪我でもしてしまったら……)

 真面目なシルバー。この重要な場面でもそんなことを心配してしまう。ゲルチが言う。


「じゃ、そういうことで、行くわね~」

「あ、ちょっと待って……」

 心配そうな顔をするシルバーにゲルチがウィンクして言う。


「だーいじょうぶ。勝手にここにやって来て、帰れなくなったからその障害を排除するだけ。私達の意思で。じゃあね~!!」

 そう言って怒り渦巻くヴァーナの腕を掴んで退室していくゲルチ。シルバーが言う。


「そうだな。今は黙ってお借りしよう。『業火の魔女』の力を」

 そうつぶやいてから、自身も王城防衛に向かった。





 一方、ラフェル王城上空にやって来たルコを大将とした魔族軍。髪と同じ紫のロリドレスに身を包んだルコに、側近の魔族が声をかける。

「ルコ様、我等の襲撃に王城側も気付いたようです。総攻撃がよろしいと思いますが、如何でしょう?」

 ルコは上空から慌ただしく城内を掛ける兵士達を見ながら答える。


「いいわ。好きにして。だけど殺して。全部コロスの」

「御意」

 側近はそう返事をすると待機している魔族達の元へと向かう。


「総攻撃だ。各々、準備をせい!!」

「了解! やっとあの時の恨みを返せるぜ!!!!」

 そう真っ先に答えたのは、以前出場した武闘会の決勝に現れ、レフォードにぶん殴られた上級魔族。顔の形が変わるほどの重傷を負ったがようやく回復し今回の討伐に参加している。


「あれから俺の怒りが消えることはなかった。あの青髪の男、絶対に殺す!!!」

 そんな魔族の横に同じく怒りを露わにするタキシード姿の魔族。ラリーコット自治区でやはりレフォードに瞬殺されたサキュガルも怒りを抑えながらいう。


「同感ですね。私が敗れたのもきっと何か不正をしたに違いない。隠し持っていた強力な武器とか魔法とか。今日こそこの恨み。晴らさせて頂きますよ」

 そう言って腰に付けた細身のレイピアを抜き不敵な笑みを浮かべる。司令官の魔族叫ぶ。


「行け!!! 突撃っ!!!!」


「「ガョガアアアアア!!!!!」」

 高い知能と知識を備えた魔族と共に、その魔族の指示に従って動く魔物の群れが一斉にラフェル王城へと牙をむく。



「来たぞ!! 城を守れ!!! 結界を張れ!!!!!」

 王城テラス部に陣取った正騎士団の守りの要である重歩兵隊長ガードの指示により、一斉に上空に光の魔法障壁ライトシールドを張る。


 ドン!! ドドドドド、ドオオオン!!!!

 魔物達が一斉に光の魔法障壁ライトシールドにぶつかり不気味な声を上げていく。突然の王都襲撃に街の人達も悲鳴を上げながら逃げ惑う。


「な、なんだよ!? あれ!!!」
「ま、魔物だあああ!!!」

 動揺する街の人達の前に、白銀の鎧を着た元蛮族の面々が立ち言う。


「皆さん、家の中へ!! あいつらは俺達が倒すから!!!」

『鷹の風』ナンバー2のジェイクに幹部ライド。その他蛮族として名を馳せて来た屈強の戦士達が街を守る。



(有難い……)

 その様子を王城から見ていたシルバーが心から思う。
 最初、団長から聞かされた時はすぐに反対した。身分を問わず能力のある者を騎士団に加えることは賛成だったが、討伐対象である蛮族となると話は別だ。下手をすれば騎士団の内部崩壊にもつながる恐るべき案件。だが反対するシルバーにエルクが言った。


「大丈夫。兄さんがそう言っているから」

 何の根拠もない自信。職務に順応なシルバーはその上官の命に黙って従ったが、内心騎士団崩壊を心から憂いた。


(でもやはり、あなたは正しかった)

 エルクの言う通り、彼らは既存の正騎士団員よりずっとよく働いた。そしてずっと強かった。有能な指揮官、カリスマのあるリーダーの下に集まった集団は実に統制が取れ合理的に動く。面子やしきたりばかりを重んじて来た騎士団とは一線を画すものであった。


「だが我等とて負けぬ!! レーア、迎撃を!!!!!」

「了解」

 守備隊の後ろに控えていた正騎士団魔法隊のメンバーが一斉に詠唱を始める。


 ドンドン、バリン!!!!

 各地で割られていく光の魔法障壁ライトシールド。重歩兵隊が張り直すと同時に、その後方から攻撃魔法が放たれる。


光の矢ライトアロー!!」
輝き放つ閃光ライトニングフラッシュ!!!」
光る弾丸ライトショット!!」

 魔物や魔族に効果が高いとされる光魔法。レーアの魔法隊が最も得意とするその魔法で一気に形勢逆転を狙う。


「ギャアアアア!!!!!」

 下級魔物が光魔法を受け次々と灰となって消えていく。それを見たシルバーが皆に叫ぶ。


「行ける、行けるぞ!! どんどん行けええええ!!!!!」

 騎士団長エルクがいなくとも必ず死守する。シルバーの双肩にラフェルの未来が圧し掛かる。



「ルコ様、魔法を消しますか」

 大将である魔族長ルコの傍にやって来た上級魔族のドリューが言った。彼はルコの配下ではなかったが、魔王カルカルが特別に同行させている。そして彼自身も前回の敗北を受け不満だったルコに全面協力すべきだと改心した。

(ヒト族を侮っていた。強き魔族とは言え全力で押さねば負ける)

 今は魔王城ナンバー2とされるこの紫髪の少女の指示に従う。ルコが無表情で言う。


「まだいいの。その場で待機」

「御意」

 ドリューが一歩後退して頭を下げる。彼の持つ特殊スキル『魔力解除マジックキャンセル』は時間こそ短いものの一瞬で形勢逆転を狙える。
 ただ魔法攻撃が主体のルコですら無力化してしまう恐れがあるため安易に使うことはできない。そしてそれは徐々に押し始めた魔族側の攻撃を見て理解する。


「行け行け!!! どんどん押せえええええ!!!!」

 基本能力が高い魔族達。空中を自由に飛び回る機動力の高さに加え、絶対的数で劣る騎士団は徐々に劣勢に陥っていた。


 カンカンカン!!!!!

 城内に侵入しようとする魔族と戦うシルバー。既に司令官が自ら剣を振るわなければならない状況となっていた。


(想像以上の強さ。それに圧倒的な数。くそっ、このままでは……)

 城内には国王とその親族、並びに眠ったままの団長エルクがいる。絶対に負けられない戦い。シルバーが光魔法を放とうとした時、その圧倒的魔力が一帯を覆った。


赤稲妻の衝撃レッド・ヴァーニング!!!」


 それは赤き稲妻。一瞬で空を赤く染め上げ、突然轟音と共に落とされる業火の稲妻。


 ドン、ドドドドオオオオオオン!!!!


「ギュギャアアアア!!!!」

 業火の炎を食らった魔物達が次々と灰になって消えていく。しかも無差別に落とされた前回と違い、今回は確実に魔物だけを狙って落とされている。ヴァーナの隣に立って戦況を見ていたゲルチが驚いて言う。


「あら、ヴァーナちゃん。すっごく器用なことをするわね!!」

 王都防衛の為とはいえ、無差別に放った魔法で民に犠牲が出てはさすがのゲルチ達も弁解のしようがない。ヴァーナが答える。

「当たり前!! ここはレー兄の街。壊したらレー兄に怒られる!!」

 ちょっと考えが違うがまあそれでもいいかとゲルチが苦笑する。


「燃えろ燃えろ、ギャハハハアアアア!!!!」

 真っ赤なタイトドレスを着て、手には赤いショール。可憐に舞うその姿はやはり『業火の魔女』。シルバーはその姿を見て思う。


(恐るべき魔法。あんなのと戦っていたのかと思うとぞっとする……)

 少し前まで敵だった『業火の魔女』。正面からぶつかっていたら騎士団では勝てなかっただろう。改めて彼女と、その彼女らを導いてくれた長兄に感謝する。




「ルコ様。あれです!! あの魔法使いです!!!」

 ラフェル王城から離れた場所で傍観していたルコにドリューが近付いて言う。自分が負けた炎の魔法使い。圧倒的魔力で押し切られた恐るべき相手。なぜヴェスタではなくこのラフェルに居るのか不明だが、忘れようにも忘れられない魔法である。


「強い魔力。凄く強いの」

 ルコもその底知れぬ魔力を感じ取っていた。一瞬で戦況を変えるほどの力。すぐに対処しなければならないはずなのに、なぜか体のどこかでを感じる。ドリューが言う。


「どうしますか、ルコ様?」

 ただこのまま見ている訳には行かない。遠くてどんな魔法使いなのか分からないが、すぐに対抗しなければ多くの魔族が討たれる。ルコが言う。


「みんな、すぐに下がるの」


「はっ!!」

 隣に控えていた別の魔族が頭を下げて答える。それはルコが戦線に加わると言う意味。魔族の顔に緊張が走る。


「後退、後退せよ!!!!!」

 伝わる後退指示。
 一斉にラフェル王城から距離を取り出す魔族達。シルバーがすぐにその異変に気付く。


「何か来るぞ!! みんな、守備を固めろっ!!!!!」

 ラフェル軍にも緊張が走る。


 そしてその魔法が発動された。


漆黒の重圧グラビティブラック


 それは闇魔法の中でもルコ以外誰も扱うことのできないいにしえの魔法であった。
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