73 / 76
第七章「皇帝ゼファー」
73.敗北
しおりを挟む
ラフェル正騎士団の象徴である白銀の鎧。太陽の光を受け、眩き輝くその鎧を着たゼファーが一瞬で新皇帝ハルクとの間を詰める。
ガン!!!!
ゼファーが持つ白銀の剣とハルクが持つ大剣が音を立ててぶつかり合う。
(ぐっ!!)
同じ魔導人体化したふたり。桁外れのパワーとスピードで戦うその姿は周りで倒れていた兵士達を圧倒する。
ガン、ガンガンガン!!!!
(強い……)
だがゼファーは感じていた。最初の太刀でそれに気付いてしまった。
――ハルクには勝てない
同じ魔導人体化された体とは言えゼファーは不思議と越えられない壁を感じていた。それは帝国魔導部によって短期間で改良された実験の結果。不良品の烙印を押されたゼファーと違い、ハルクの実験にはその失敗から得た教訓により更なる強化が施されていた。
つまりハルクとて魔導部からすれば結果的には失敗と言えるのだが、その性能面においてゼファーとは格段の差が生じていた。ハルクが笑いながら言う。
「おいおい、この程度かよ。皇帝さんよ」
パワー、スピード共に上回るハルクが余裕を見せる。対するゼファーには当然ながら焦りが生まれる。
(こいつは同じ魔導人体の俺が止めなければならない!!)
ゼファーの中にあった正義。自らの手で帝国を一度は破壊したその責任。それをこの新たな独裁者を倒すことで少しでも償いたかった。
「弱えーんだよ、お前」
ドオオオン!!!!
「ぐはっ!!!!」
一瞬の隙を突いたハルクがゼファーの腹に強烈な蹴りを入れる。吐血しながら後退するゼファー。更にハルクが追い打ちをかける。
ガン、ガガガガガン!!!!!
圧倒的な強さに徐々に防戦一方となるゼファー。豪快に振り下ろされる大剣を防ぎながらゼファーが困惑する。
(この差は、一体なんなんだ!?)
誰にも負けないと思っていた魔導人体の体。同じ条件とは言えここまで圧倒されるとは思ってもいなかった。
「な、何なんだよ……、あいつら……」
その様子を離れた場所で見ていたガイルとジェネスがつぶやく。あわよくば助太刀に行こうかと思っていたがとても自分達が介入できるレベルではない。
(あんなバケモノに、父さんは……)
帝国三将軍を名乗る『剣士ロウガン』。相手がどんなに強力であろうが怯むことなく立ち向かう。子供の頃から憧れていた父はやはり最高の剣士であった。ゼファーが剣に力を込めて叫ぶ。
「くそオオオオ!!!! 絶対に負けないっ!!!!!!」
ガン、ガガガガガン!!!
流れるようなゼファーの剣技。周りにいた兵士達にはその剣筋が見えないほど速くて美しい。だがそんなゼファーの剣をハルクが持つ大剣が圧倒した。
カーーーーーーン!!!!
(!!)
下段から振り上げられた大剣。ゼファーの持っていた白銀の剣を空高く弾き飛ばす。剣を失い唖然としたゼファーに、ハルクは持っていた剣をすぐに構え直し突き立てる。
「ゼファー!!!!!!」
ガイルが叫ぶ。
ハルクの大剣がゼファーの脇腹に音を立てて突き刺さる。
グサッ!!!!
「うぐっ!!!」
突き刺さる大剣。同時にその傍で大声が響いた。
「止めろおおおおお!!!!」
ガン!!! バキン!!!!!!
ゼファーの脇腹に刺さりかけたハルクの大剣が真っ二つに折れる。そこには拳を握って立つ青髪の男がいた。
「レー兄さん……」
脇腹からの出血を手で押さえ地面に膝をついたゼファーが小さくその男の名を口にした。レフォードが再び拳に力を込め漆黒の鎧を着たハルクに叫ぶ。
「くたばれっ、この野郎っ!!!!!」
ドン、ドオオオオオオオオン!!!!
(ぐっ!?)
ハルクは折れた大剣でその攻撃を受け止めたが、その強烈な勢いではるか後方まで吹き飛ばされた。レフォードが膝をつくゼファーの肩に手をやり声を掛ける。
「大丈夫か!! 大丈夫か、ゼファー!!!!」
「ごめんなさい、レー兄さん……」
脇腹から流れ出る鮮血を見てレフォードが怒りの形相となる。
「ガイル!!! ゼファーを頼むっ!!!!」
レフォードは少し離れている場所にいるガイルにゼファーの治療を依頼。
「了解っ!!!」
それに応えてガイルが風魔法で一気に近付きゼファーに肩を貸す。ガイルが言う。
「レー兄、気を付けて」
「大丈夫だ」
ガイルの言葉をハルクを睨みつけながら聞くレフォード。その頭には兄弟に剣を向けた新皇帝への怒りしかなかった。
(誰だ、あいつは……?)
一方のハルクはやや戸惑っていた。
自身の最大の壁となるであろう存在は同じ魔導人体化されたゼファーだと思っていた。実際ゼファーは強く、ハルクも本気で戦ったからこそ圧倒することができた。
(剣が折られている……)
ハルクは手にした半分に折られた剣を見つめる。強力な剣の攻撃ならまだしも、あの青髪の男は素手でこれを破壊した。強化魔法か、はたまた特別な武器を隠し持っていたのか。
相手の攻撃が分からない状況にハルクが困惑する。
「来いよ、皇帝。俺がぶん殴ってやる」
レフォードがハルクと対峙し、拳を見せながらそう告げる。
腰には三本の剣。それを使うことなく素手で戦おうとするとは。
「くくくっ……、舐められたもんだぜ……」
ハルクが苦笑する。最強の敵ゼファーを圧倒した自分にはもう恐れるものなどない。その自分に対してそれだけ余裕を見せられるとは実に興味深い。
カラン……
ハルクが折れた大剣を地面に投げ捨てる。そしてレフォードと同じく拳を見せながら言った。
「ああ、相手してやるぞ。後悔するなよ!!!!」
そう言って一気にレフォードの間合いまで詰めるハルク。
ガン!!!!!
ぶつかり合う拳と拳。
その音は大地を揺らし空間を割る。
ガン、ガンガンガン!!!!
腹の底まで響くような太い音が辺り一面を包む。
「お兄ちゃん……」
ミタリアが初めて不安そうな顔をする。これまでどんな敵と戦っても一瞬で圧倒してきた義兄が今日は少し違う。
「レー兄、くそっ……」
「頑張るの、レー兄様」
ヴァーナとルコも心配そうに応援する。魔法が効かない相手には全く無力なふたり。今はただの非力な女の子である。レフォードと拳を何度もぶつけ合うハルクが叫ぶ。
「これは凄い!!! こんなに強い奴がいたなんて驚きだっ!!!!」
心からそう思った。魔導人体化された自分とここまで戦える人間がいたことにハルクが驚く。だがレフォードは内心驚いていた。
(こいつ、なんて強いんだ……、硬てぇ……)
どんな鉱石でも打ち砕いて来た自慢の拳。【超重撃】のスキルを持つレフォードの最強の武器なのだが、それがいつものように通じない。戦いの中で初めて戸惑いを見せたレフォードに、その新皇帝の強力な拳が打ち込まれた。
ドオオオオン!!!!
「ぐはっ!!!」
防御した腕の上から殴りつけるハルク。響き渡る異様な音。レフォードが初めて後方へと吹き飛ばされた。
「お兄ちゃん!!!!!」
悲鳴のようなミタリアの声が響く。
「ぐっ……」
レフォードは防御した右すねを触れる。
(折れてやがる……)
骨折。【超耐久】を持つレフォードの防御力すら打ち破るハルクの拳。そして【超回復】のスキルをもってしてもその怪我の治療は追いつかなかった。魔導人体化とはこれほど強いのか。レフォードはその強さに心底驚いた。
「終わりじゃねえぞ、オラぁあああ!!!!!」
休みを与える間もなくハルクが詰め寄り連撃を降らせる。
ドン、ドドドドン、ドン!!!!!
先のゼファーと同じく防戦一方となるレフォード。皆は初めて見る義兄の窮地に我を忘れて動けなくなる。
「レフォ兄、レフォ兄、やめろぉおおおお!!!!!」
そんな中、尖った黒髪の弟ガイルだけが短剣を手にハルクに突進する。
「く、来るな……、ガイル……」
レフォードは折れた両腕をだらりと下げながら近付く弟に言う。ガイルの短剣の雨がハルクに打ち込まれる。
「くっそおおおおおおお!!!!!」
ガンガン、ドオオオオオオン!!!!
「ぐわあああああああ!!!!!」
だが剣の攻撃も効かない魔導人体ハルク。まるで蚊を払うかのように軽くガイルを吹き飛ばす。
「ガイル……」
折れた両腕から鮮血が流れ落ちる。レフォードは極度のダメージによる初めての『動けなくなる感覚』に体の自由を奪われていた。大切な弟が倒れている。義兄として死んでも助けなければならない。
「貴様っ、許さねえぞ……」
動かぬ体に力を入れ、ゆっくりとハルクに近付くレフォード。それを見たハルクが笑いながら言う。
「あははははっ!!! お前も相当強かったが残念だな。相手が悪かった」
ハルクが拳を振り上げレフォードに近付く。
「死んで詫びろ。皇帝に逆らったことを」
ドオオオオオオン!!!!
「ぐわあああああ!!!!」
皆が自分の目を疑った。
あれほど強かった義兄が一方的に殴られ、吹き飛ばされ、うつ伏せに倒れたままピクリとも動かない。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ううっ……」
ミタリアはもうずっと前から地面に座り込み泣いている。とても戦況が見られない。ルコとヴァーナも魔法が効かない異次元の強さを誇る敵に圧倒されている。ハルクが両腕を上げ叫ぶ。
「さあ、これでとどめだあああああ!!! 死ねよ、死ねよおおおおおお!!!!」
絶望。無力感。何もできない皆が眼前の信じられない光景に体を振るわせる。
だが勝利を確信したハルクが倒れているレフォードに向かって歩き出した時、皆の背後から懐かしい声が響いた。
「聖剣突き!!!!!!」
ドオオオオオオオオン!!!!!
「え!?」
光り輝く聖なるラッシュ、横に伸びる輝く竜巻が皇帝ハルクを襲う。
「ぐっ!? ぐわああっ!!!!」
思わず吹き飛ばされるハルク。そして立ち上がって叫ぶ。
「だ、誰だ、てめえ!!!!!」
その男は美しい金色の髪を靡かせながら聖剣を構えて答える。
「ラフェル王国、聖騎士団長エルク・バーニング!!! これ以上の蛮行はこの私が許さないっ!!!!」
「エ、エルク……」
それは呪刃に倒れた弟エルク。血まみれになったレフォードの目に涙が溢れる。
「治ったのか、そうか……、良かった……」
レフォードの肩をその柔らかな手が包む。
「はい、レーレー。治療の時間だよ~」
それはピンクの髪が香しい『聖女』レスティア。攻守最強の弟妹達がこの最悪の状況の中、倒れた義兄の為についに戻って来た。
ガン!!!!
ゼファーが持つ白銀の剣とハルクが持つ大剣が音を立ててぶつかり合う。
(ぐっ!!)
同じ魔導人体化したふたり。桁外れのパワーとスピードで戦うその姿は周りで倒れていた兵士達を圧倒する。
ガン、ガンガンガン!!!!
(強い……)
だがゼファーは感じていた。最初の太刀でそれに気付いてしまった。
――ハルクには勝てない
同じ魔導人体化された体とは言えゼファーは不思議と越えられない壁を感じていた。それは帝国魔導部によって短期間で改良された実験の結果。不良品の烙印を押されたゼファーと違い、ハルクの実験にはその失敗から得た教訓により更なる強化が施されていた。
つまりハルクとて魔導部からすれば結果的には失敗と言えるのだが、その性能面においてゼファーとは格段の差が生じていた。ハルクが笑いながら言う。
「おいおい、この程度かよ。皇帝さんよ」
パワー、スピード共に上回るハルクが余裕を見せる。対するゼファーには当然ながら焦りが生まれる。
(こいつは同じ魔導人体の俺が止めなければならない!!)
ゼファーの中にあった正義。自らの手で帝国を一度は破壊したその責任。それをこの新たな独裁者を倒すことで少しでも償いたかった。
「弱えーんだよ、お前」
ドオオオン!!!!
「ぐはっ!!!!」
一瞬の隙を突いたハルクがゼファーの腹に強烈な蹴りを入れる。吐血しながら後退するゼファー。更にハルクが追い打ちをかける。
ガン、ガガガガガン!!!!!
圧倒的な強さに徐々に防戦一方となるゼファー。豪快に振り下ろされる大剣を防ぎながらゼファーが困惑する。
(この差は、一体なんなんだ!?)
誰にも負けないと思っていた魔導人体の体。同じ条件とは言えここまで圧倒されるとは思ってもいなかった。
「な、何なんだよ……、あいつら……」
その様子を離れた場所で見ていたガイルとジェネスがつぶやく。あわよくば助太刀に行こうかと思っていたがとても自分達が介入できるレベルではない。
(あんなバケモノに、父さんは……)
帝国三将軍を名乗る『剣士ロウガン』。相手がどんなに強力であろうが怯むことなく立ち向かう。子供の頃から憧れていた父はやはり最高の剣士であった。ゼファーが剣に力を込めて叫ぶ。
「くそオオオオ!!!! 絶対に負けないっ!!!!!!」
ガン、ガガガガガン!!!
流れるようなゼファーの剣技。周りにいた兵士達にはその剣筋が見えないほど速くて美しい。だがそんなゼファーの剣をハルクが持つ大剣が圧倒した。
カーーーーーーン!!!!
(!!)
下段から振り上げられた大剣。ゼファーの持っていた白銀の剣を空高く弾き飛ばす。剣を失い唖然としたゼファーに、ハルクは持っていた剣をすぐに構え直し突き立てる。
「ゼファー!!!!!!」
ガイルが叫ぶ。
ハルクの大剣がゼファーの脇腹に音を立てて突き刺さる。
グサッ!!!!
「うぐっ!!!」
突き刺さる大剣。同時にその傍で大声が響いた。
「止めろおおおおお!!!!」
ガン!!! バキン!!!!!!
ゼファーの脇腹に刺さりかけたハルクの大剣が真っ二つに折れる。そこには拳を握って立つ青髪の男がいた。
「レー兄さん……」
脇腹からの出血を手で押さえ地面に膝をついたゼファーが小さくその男の名を口にした。レフォードが再び拳に力を込め漆黒の鎧を着たハルクに叫ぶ。
「くたばれっ、この野郎っ!!!!!」
ドン、ドオオオオオオオオン!!!!
(ぐっ!?)
ハルクは折れた大剣でその攻撃を受け止めたが、その強烈な勢いではるか後方まで吹き飛ばされた。レフォードが膝をつくゼファーの肩に手をやり声を掛ける。
「大丈夫か!! 大丈夫か、ゼファー!!!!」
「ごめんなさい、レー兄さん……」
脇腹から流れ出る鮮血を見てレフォードが怒りの形相となる。
「ガイル!!! ゼファーを頼むっ!!!!」
レフォードは少し離れている場所にいるガイルにゼファーの治療を依頼。
「了解っ!!!」
それに応えてガイルが風魔法で一気に近付きゼファーに肩を貸す。ガイルが言う。
「レー兄、気を付けて」
「大丈夫だ」
ガイルの言葉をハルクを睨みつけながら聞くレフォード。その頭には兄弟に剣を向けた新皇帝への怒りしかなかった。
(誰だ、あいつは……?)
一方のハルクはやや戸惑っていた。
自身の最大の壁となるであろう存在は同じ魔導人体化されたゼファーだと思っていた。実際ゼファーは強く、ハルクも本気で戦ったからこそ圧倒することができた。
(剣が折られている……)
ハルクは手にした半分に折られた剣を見つめる。強力な剣の攻撃ならまだしも、あの青髪の男は素手でこれを破壊した。強化魔法か、はたまた特別な武器を隠し持っていたのか。
相手の攻撃が分からない状況にハルクが困惑する。
「来いよ、皇帝。俺がぶん殴ってやる」
レフォードがハルクと対峙し、拳を見せながらそう告げる。
腰には三本の剣。それを使うことなく素手で戦おうとするとは。
「くくくっ……、舐められたもんだぜ……」
ハルクが苦笑する。最強の敵ゼファーを圧倒した自分にはもう恐れるものなどない。その自分に対してそれだけ余裕を見せられるとは実に興味深い。
カラン……
ハルクが折れた大剣を地面に投げ捨てる。そしてレフォードと同じく拳を見せながら言った。
「ああ、相手してやるぞ。後悔するなよ!!!!」
そう言って一気にレフォードの間合いまで詰めるハルク。
ガン!!!!!
ぶつかり合う拳と拳。
その音は大地を揺らし空間を割る。
ガン、ガンガンガン!!!!
腹の底まで響くような太い音が辺り一面を包む。
「お兄ちゃん……」
ミタリアが初めて不安そうな顔をする。これまでどんな敵と戦っても一瞬で圧倒してきた義兄が今日は少し違う。
「レー兄、くそっ……」
「頑張るの、レー兄様」
ヴァーナとルコも心配そうに応援する。魔法が効かない相手には全く無力なふたり。今はただの非力な女の子である。レフォードと拳を何度もぶつけ合うハルクが叫ぶ。
「これは凄い!!! こんなに強い奴がいたなんて驚きだっ!!!!」
心からそう思った。魔導人体化された自分とここまで戦える人間がいたことにハルクが驚く。だがレフォードは内心驚いていた。
(こいつ、なんて強いんだ……、硬てぇ……)
どんな鉱石でも打ち砕いて来た自慢の拳。【超重撃】のスキルを持つレフォードの最強の武器なのだが、それがいつものように通じない。戦いの中で初めて戸惑いを見せたレフォードに、その新皇帝の強力な拳が打ち込まれた。
ドオオオオン!!!!
「ぐはっ!!!」
防御した腕の上から殴りつけるハルク。響き渡る異様な音。レフォードが初めて後方へと吹き飛ばされた。
「お兄ちゃん!!!!!」
悲鳴のようなミタリアの声が響く。
「ぐっ……」
レフォードは防御した右すねを触れる。
(折れてやがる……)
骨折。【超耐久】を持つレフォードの防御力すら打ち破るハルクの拳。そして【超回復】のスキルをもってしてもその怪我の治療は追いつかなかった。魔導人体化とはこれほど強いのか。レフォードはその強さに心底驚いた。
「終わりじゃねえぞ、オラぁあああ!!!!!」
休みを与える間もなくハルクが詰め寄り連撃を降らせる。
ドン、ドドドドン、ドン!!!!!
先のゼファーと同じく防戦一方となるレフォード。皆は初めて見る義兄の窮地に我を忘れて動けなくなる。
「レフォ兄、レフォ兄、やめろぉおおおお!!!!!」
そんな中、尖った黒髪の弟ガイルだけが短剣を手にハルクに突進する。
「く、来るな……、ガイル……」
レフォードは折れた両腕をだらりと下げながら近付く弟に言う。ガイルの短剣の雨がハルクに打ち込まれる。
「くっそおおおおおおお!!!!!」
ガンガン、ドオオオオオオン!!!!
「ぐわあああああああ!!!!!」
だが剣の攻撃も効かない魔導人体ハルク。まるで蚊を払うかのように軽くガイルを吹き飛ばす。
「ガイル……」
折れた両腕から鮮血が流れ落ちる。レフォードは極度のダメージによる初めての『動けなくなる感覚』に体の自由を奪われていた。大切な弟が倒れている。義兄として死んでも助けなければならない。
「貴様っ、許さねえぞ……」
動かぬ体に力を入れ、ゆっくりとハルクに近付くレフォード。それを見たハルクが笑いながら言う。
「あははははっ!!! お前も相当強かったが残念だな。相手が悪かった」
ハルクが拳を振り上げレフォードに近付く。
「死んで詫びろ。皇帝に逆らったことを」
ドオオオオオオン!!!!
「ぐわあああああ!!!!」
皆が自分の目を疑った。
あれほど強かった義兄が一方的に殴られ、吹き飛ばされ、うつ伏せに倒れたままピクリとも動かない。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ううっ……」
ミタリアはもうずっと前から地面に座り込み泣いている。とても戦況が見られない。ルコとヴァーナも魔法が効かない異次元の強さを誇る敵に圧倒されている。ハルクが両腕を上げ叫ぶ。
「さあ、これでとどめだあああああ!!! 死ねよ、死ねよおおおおおお!!!!」
絶望。無力感。何もできない皆が眼前の信じられない光景に体を振るわせる。
だが勝利を確信したハルクが倒れているレフォードに向かって歩き出した時、皆の背後から懐かしい声が響いた。
「聖剣突き!!!!!!」
ドオオオオオオオオン!!!!!
「え!?」
光り輝く聖なるラッシュ、横に伸びる輝く竜巻が皇帝ハルクを襲う。
「ぐっ!? ぐわああっ!!!!」
思わず吹き飛ばされるハルク。そして立ち上がって叫ぶ。
「だ、誰だ、てめえ!!!!!」
その男は美しい金色の髪を靡かせながら聖剣を構えて答える。
「ラフェル王国、聖騎士団長エルク・バーニング!!! これ以上の蛮行はこの私が許さないっ!!!!」
「エ、エルク……」
それは呪刃に倒れた弟エルク。血まみれになったレフォードの目に涙が溢れる。
「治ったのか、そうか……、良かった……」
レフォードの肩をその柔らかな手が包む。
「はい、レーレー。治療の時間だよ~」
それはピンクの髪が香しい『聖女』レスティア。攻守最強の弟妹達がこの最悪の状況の中、倒れた義兄の為についに戻って来た。
28
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる