夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)

文字の大きさ
5 / 67
第一章 夕闇の出会い

火置ユウ2

しおりを挟む
「『時空のひずみ』とやらをそのままにするとどうなるの?」

「その世界のバランスが崩れていく。例えば、目に見えて犯罪や戦争や狂った事件が増えるとか、災害が増えるとか、生態系が異常になるとか。
そして近い内に世界は消滅に向かう。今この瞬間も、いくつかの世界は消滅に向かっている。
だから世界が本当に消えてしまう前に、ひずみを直さなくちゃいけないの」


「……おとぎ話の世界だな」

「そうだね。私も最初はそう思った。でも、本当なの。しかも……自慢するわけじゃないけど、私は自分の意思で時空の通り道を作れる、全時空でもたった一人の魔法使いなの」

「……これまた……すごい話だね」

「ね、すごい話だよね。だって私がいないと世界が終わったりするんだから。…………責任重大よ。重圧に押し潰されそうで、ヤになっちゃう」


…………彼女がいないと世界が終わる?……全時空でたった一人の、選ばれた魔法使い……?


「……ってわけ。どう?おもしろかった?」

「…………まさか君の創作話じゃないよね?」

「失礼ね、嘘偽りない本当の話よ」

「…………宇宙の救世主様じゃないか、君は」

「うーん……救世主……、大きい視点で見たらそうとも言えるけど…。でも、私の認識はちょっと違うかなあ」

彼女は腕を組んで首をかしげる。
世界の消滅を魔法の力で食い止めるなんて……どう考えても救世主だと思うけど、何が違うって言うんだろう。


「例えば『ひずみ』が生じた影響で世界のバランスが崩れ、その世界に強大な『悪』が生まれたとする。その『悪』をやっつけるのは私の仕事ではないのよ。
『救世主』って、その世界から『悪』を討って光をもたらす勇者様みたいな人を言うんじゃない?私はどちらかと言うと、舞台裏で壊れた部分を修繕する『大道具さん』みたいな役割なのよ。舞台役者ではないの」

「えーっと……つまり、君の仕事はあくまでも『ひずみを直す』だけ。ひずみの影響による世界のトラブルにはノータッチ。そういうこと?」

「うん、基本はそういうこと。私がひずみを直した時点で、世界の消滅は回避できるからね。
そもそもその『悪』が本当にひずみの影響なのかも判断は難しいのよ。ひずみがなくたって……戦争や犯罪はなくならないからね」

彼女の瞳の色が、物憂げに陰る。


僕の自己紹介をしていたあたりから思っていたけど、火置さんは物怖じしない言動の割に繊細な雰囲気がある。案外色々なことを考えて感じ取って、傷ついているのかもしれない。……どうだろう、考えすぎかな。


「まあ、報酬目的でトラブル解決のお手伝いをすることはあるけどね。私にも生活があるからさ」

「……君はそうやって生きてるんだ」

「そう。私は、全時空において唯一のひずみ修復の専門家であり、トラブル解決もこなす何でも屋の魔法使いってところかな」

「……は、はは……すごいな……。もっと、君の話を聞きたいよ!」

「え、もういいよ。魔法使いとしての私の仕事について、話すべきことはこれで全部だと思う。……そろそろ疲れたから終わりにしていい?」


彼女は心底疲れた様子で床に座り込んだ。体育座りをした膝の上に頬杖を付いて、その深い色をした瞳で僕を見る。

「…………女の子ってお喋りが好きだと思ってたんだけど、違ったの?」

「……嫌いじゃないけど。でも私は、『自分自身の話』は不得意だし、そもそも何らかのテーマがないとうまく喋れない」

「テーマトークってこと?……井戸端会議みたいなことはしないの?」

「あまり得意じゃない。今日はいい天気ね、みたいな話は。次に何を言ったらいいかわからなくなる」

「……コミュニケーションが下手なんだね」

「うわ、うるさいな!」

少し大袈裟なリアクションを取りながら、彼女は答える。
最初はクールな雰囲気を感じていたんだけど……どうやら一概にそうというわけでもないらしい。

「……でも、あんまりコミュニケーション下手には思えないけどね」

「…………人に寄るのかもしれないわ。よかったよ。会話の波長が合う人で」

「……そうだね、よかった。これからよろしくね」

「うん、よろしくね」


火置さんは床から立ち上がり、僕が腰掛けるベッドへと歩いてきた。そして笑顔で右手を伸ばす。

「握手」

火置さんの右手には、人差し指と薬指にシンプルなデザインの指輪がはめられている。彼女の白い手に、優しい色合いのゴールドが馴染んで鈍く光っていた。

僕は少しだけ迷ってから、自分の右手を彼女に差し出す。
女性に触れるのがとても久しぶりで、ちょっとした気恥ずかしさを感じつつ。でもそれを悟らせないように、静かに。


触れた彼女の手は、とても柔らかくしっとりしていた。


なぜだか僕は、ほんの少しだけ胸の痛みと……息苦しさを覚えたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

青春リフレクション

羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。 命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。 そんなある日、一人の少女に出会う。 彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。 でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!? 胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...