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第一章 夕闇の出会い
カミサマのご挨拶
しおりを挟むこんにちは。
…………こんにちは。
……あれ、聞こえていますか?聞こえていないんですか?無視ですか?絶対聞こえてますよね??
あなたの声は……よく聞こえません。あー……電波がうまく届いていないみたいですね……そうですか……。
多分それね『信仰心』の問題です。あなたまだ『カミサマ』のことを信じていないんですね?
……困りましたね。まだそんな人がこの国に残っていたなんて。10年くらいかけて結構頑張ってきたつもりだったんですけど……。最近はSNSとかの露出も増やしていたんですけどね……まだまだでしたか。そうですか。
……まぁいいです、次なる手を考えます。考えるのは好きなんでね。そう、私勤勉なんです。私、カミサマですから。
で、ですね。あなたの声は聞こえませんが、一方的に私の声を聞かせることはできているはずです。そうと仮定して話します。あなたとは『はじめまして』なので、まずは私の目標を教えておきますね。
私のとりあえずの目標は、全国民にテレパシーを届けられるようになることなんです。色々な人とお話したいし、私を愛してるって言ってほしいからです。
そしてそのために必要なのは、何よりもまず『信仰心』!これを強化する以外にない。私への信仰心さえあれば、テレパシーなんてお茶の子さいさいです。……本当ですよ?
だって、信仰心はすべてを凌駕するのですから。信仰心さえあれば、文字通りなんでもできる。
私への信仰心さえあれば、私がブチ犬をトラ猫だといったら漏れなく全員がブチ犬をトラ猫だと言うようになるのです。
さらに言えば、私を信仰する人々にとってはもはやブチ犬がトラ猫にしか見えなくなってくるのです。ニンゲンの認知すら、信仰心の前では無力なのです。
人はね、信じるもののためなら命を投げ出せるし、大量殺人だってできる。宗教は倫理を超えるんです。というか、神が倫理を作るんです。
私は、世界の倫理を創りたい。きっと楽しいと思います。そして、私は人々に愛され、私は人々を愛する。みなさんにとっても悪い話ではないと思いますよ。
…………あ、あなた、信仰心がすべてを凌駕するって信じてないでしょう?嫌ですね……カミサマがそうだと言ったらそうなのだと言うのに……。あなたはもうちょっと、信仰心のレベルを上げてから出直してきてください。
ついでに言うと、宗教学と認知科学と応用心理学を履修してから来てくださいね。そうしたら私が言ったことが全部わかるはずですから。
それにしても、おかしいですね?どうしてこんなことになったのでしょう。『この刑務所』は誰にも見つけられないはずだったんですけど……。あっさりと侵入者が来てしまいましたね……。
……まあ、いいでしょう。ちゃんと調べればわかることでしょうから。それに、大丈夫!多分なんとかなりますから!
どうです?私ってポジティブシンキングで魅力的でしょう?知っていますか?人はね、ネガティブな相手のことは信用できないんですよ。ポジティブじゃないと信仰されないしモテないんです。
理由は簡単です。ポジティブな感情を生み出すホルモンには色々ありますが――オキシトシン、ドーパミン、セロトニン、そして男性ホルモンのテストステロンなんかもそうです――これらは、肉体や精神が健康でないと生み出せないものだからです。
さらに言うと、こういったホルモンの出やすさや分泌量にはものすごく大きな個人差がありますから、元より恵まれている身体であればあるほどポジティブになりやすいということにもなります。
要するにですね、ポジティブであればそれだけで『恵まれた肉体』であることの証明になるし『肉体や精神が健康』であることの証明にもなるわけです。そしてネガティブはその反対です。
ほら、あなたならどっちに付いていきたいですか?健康で強い生まれながらのリーダーか、不健康で弱っちい不安定なリーダーか。絶対に健康な方でしょう?だって弱っちかったらあなたのことを置いて逃げちゃうかもしれませんからね?
人間って、こういうのが本能的にわかるようにできているんですよ。だって間違ったリーダーに付いて行って、死にたくありませんから。
どんな生き物だってそうです。人間も動物ですから、他の生き物と変わらないんです。
…………え、話が長い?そんなことより『この刑務所』が何なのか教えろって…………?
……それは別にあなたが知るべきことではありませんよ?……っていうか電波届いてますね!素晴らしい!喜ばしいことです。
ん?電波はどうでもいい?刑務所について教えろ?いや、気にしなくていいんですってば。気にせず私の言う事を信じていればいいんです。信じればどうとでもなるんです。信じましょう、まずはね。話はそれからです。
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