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第二章 神様
2日目の朝 灰谷ヤミの目覚め
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~灰谷ヤミの死刑まで残り24日~
刑務所の朝は早い。6時には点呼が始まって、7時30分には朝食が運ばれてくる。
消灯時間も21時と早いから、朝は何の苦も無く目覚めることができる。
こんな規則正しい生活を続けていたら、多分長生きができるだろう。死刑囚にこんな健康生活を強いるなんて、皮肉な話だと思う。
……といっても、看守によって点呼が行われていたのはこの棟に移されるまでの話だ。
この『特別棟』に移されてからというもの、なんと看守の『点呼』がなくなった。今では7時30分の朝食が、僕の目覚まし代わりになっている。
朝7時30分になると、独房の扉がゆっくりと三回ノックされた後、扉の下に設置されたスライド式の小窓から朝食のトレーが渡される。
部屋の扉が開けられることはなく、僕は看守と顔を合わせない。食事が終わった後も、トレーを小窓から出しておけば、いつの間にか回収されているのだ。
彼らはこの部屋の中の様子を確認しなくていいんだろうか。だって、僕が味噌汁に顔をつっこんで溺死していたらどうするの?そんなことになってしまったら、看守は責任を問われないんだろうか?おせっかいにも心配してしまう。
そういえば……この棟に移される直前、別の囚人からこんなことを言われたのを思い出す。
「お前が明日行く棟って……あれだろ。『カミサマ』が自ら管理してるっていう特別棟。
あそこに行ったやつは絶対にこっちに戻ってこられない。家族との面会だってできなくなるし、部屋の外に一歩も出してもらえないって噂だ。……あそこに行ったら最後、頭が狂って死ぬまで部屋に閉じ込められるらしいぜ……。
……あ、お前はどっちにしろ死刑だから帰る予定はないんだったか!それじゃあ、あんまり関係のない話だったな!悪い悪い!」
あのときは『ただの噂』だと思って話半分に聞いていたけれど、もしかしたら本当だったのかもしれない。死刑執行までこの部屋から出られないのかな?それはちょっと厳しいかも。……とりあえず、そろそろシャワーを浴びたい。
「おはよう。……よく眠れた?」
朝から考え事の海の中を漂っていた僕の耳に入ってくる、クリアなアルトの声。
そうだ。僕は今、一人じゃないんだった。えっと……そうだ、火置さん。火置ユウとの共同生活が始まったんだった。
火置ユウ。21歳。黒髪の魔法使い。この広い宇宙でたった一人の、時空の魔女。
「……おはよう、火置さん起きてたんだね。一人じゃないってことを、すっかり忘れてた」
「…………なかなか衝撃的な出会いだと思ってたのに、忘れちゃってたの?あなたって結構マイペースなのね……」
彼女は肩を竦めながら話す。昨日もそうだったけど、彼女はちょっとシニカルな物言いをする。……そういう雰囲気は、嫌いじゃない。
「あ、そういえば……さっき扉がノックされてたよ?一瞬ドキッとしたけど、誰も入ってこなかった」ふと思い出したように彼女が言う。
そうか、今の時間は……7時40分。会話に夢中で朝ご飯の存在を忘れていた。そろそろ回収しないと、勝手に下げられてしまうかもしれない。
「多分朝食のトレーが運ばれてきたんだ。僕が扉の前で寝てたから、トレーが入れられなかったんだろうね」
「え、独房の扉は開けないの?生存確認みたいなことは、しないの?」
火置さんは信じられないといった表情だ。
「それが、しないんだよ。この『特別棟』では」
「……そんな杜撰な囚人管理でいいわけ?あなたが隠し持った糸ノコで鉄格子を切って、関節を外して脱獄しようとしてたらどうするんだろう」
「…………さっき僕もちょうど、似たようなことを考えてた」
僕は床の布団を畳んで脇に置く。そして扉の小窓を開けて朝食を部屋の中に引き入れた。当然だけど、朝食は一人分だ。流石に彼女に見せつけながら僕一人がこれを完食するわけにはいかない。
僕は彼女に朝食の半分を勧め、最初は遠慮していた彼女だったが結局全てのメニュー――白米と焼き鮭とほうれん草のお浸しとわかめの味噌汁――を二人で分け合った。満腹には程遠いけれど、誰かとの朝食が久しぶりで僕は存外に満足できた。
……彼女は多分、満足できていないかな。たまにクルクルと、お腹の鳴る音が聞こえてくる。
「……看守を呼んでみようか。ダメ元でおかわりをお願いしてみるよ」
「えっ!お腹の音聞こえちゃった!?」
「うん。かわいそうになってくる」
「……!空腹で憐れまれるってなんかちょっと……」
火置さんは多少ショックを受けたみたいだ。
「……気にしなくていいよ。僕ももう少し食べたい気分だし」彼女にそう言ってから
僕は、独房の扉を大きめにノックして、看守を呼んだ。
「すみません!おかわりもらえますか?」
静寂。
「すみません!!」
もう一度ノックとともに、大声を出す。久しぶりの大声に、声が裏返りそうになる。
「…………ダメみたいね」
諦めようとしたその時、足元の小窓カタッと開いて追加の白米が届けられた。
「………………」
僕達は無言で顔を見合わせる。
刑務所の朝は早い。6時には点呼が始まって、7時30分には朝食が運ばれてくる。
消灯時間も21時と早いから、朝は何の苦も無く目覚めることができる。
こんな規則正しい生活を続けていたら、多分長生きができるだろう。死刑囚にこんな健康生活を強いるなんて、皮肉な話だと思う。
……といっても、看守によって点呼が行われていたのはこの棟に移されるまでの話だ。
この『特別棟』に移されてからというもの、なんと看守の『点呼』がなくなった。今では7時30分の朝食が、僕の目覚まし代わりになっている。
朝7時30分になると、独房の扉がゆっくりと三回ノックされた後、扉の下に設置されたスライド式の小窓から朝食のトレーが渡される。
部屋の扉が開けられることはなく、僕は看守と顔を合わせない。食事が終わった後も、トレーを小窓から出しておけば、いつの間にか回収されているのだ。
彼らはこの部屋の中の様子を確認しなくていいんだろうか。だって、僕が味噌汁に顔をつっこんで溺死していたらどうするの?そんなことになってしまったら、看守は責任を問われないんだろうか?おせっかいにも心配してしまう。
そういえば……この棟に移される直前、別の囚人からこんなことを言われたのを思い出す。
「お前が明日行く棟って……あれだろ。『カミサマ』が自ら管理してるっていう特別棟。
あそこに行ったやつは絶対にこっちに戻ってこられない。家族との面会だってできなくなるし、部屋の外に一歩も出してもらえないって噂だ。……あそこに行ったら最後、頭が狂って死ぬまで部屋に閉じ込められるらしいぜ……。
……あ、お前はどっちにしろ死刑だから帰る予定はないんだったか!それじゃあ、あんまり関係のない話だったな!悪い悪い!」
あのときは『ただの噂』だと思って話半分に聞いていたけれど、もしかしたら本当だったのかもしれない。死刑執行までこの部屋から出られないのかな?それはちょっと厳しいかも。……とりあえず、そろそろシャワーを浴びたい。
「おはよう。……よく眠れた?」
朝から考え事の海の中を漂っていた僕の耳に入ってくる、クリアなアルトの声。
そうだ。僕は今、一人じゃないんだった。えっと……そうだ、火置さん。火置ユウとの共同生活が始まったんだった。
火置ユウ。21歳。黒髪の魔法使い。この広い宇宙でたった一人の、時空の魔女。
「……おはよう、火置さん起きてたんだね。一人じゃないってことを、すっかり忘れてた」
「…………なかなか衝撃的な出会いだと思ってたのに、忘れちゃってたの?あなたって結構マイペースなのね……」
彼女は肩を竦めながら話す。昨日もそうだったけど、彼女はちょっとシニカルな物言いをする。……そういう雰囲気は、嫌いじゃない。
「あ、そういえば……さっき扉がノックされてたよ?一瞬ドキッとしたけど、誰も入ってこなかった」ふと思い出したように彼女が言う。
そうか、今の時間は……7時40分。会話に夢中で朝ご飯の存在を忘れていた。そろそろ回収しないと、勝手に下げられてしまうかもしれない。
「多分朝食のトレーが運ばれてきたんだ。僕が扉の前で寝てたから、トレーが入れられなかったんだろうね」
「え、独房の扉は開けないの?生存確認みたいなことは、しないの?」
火置さんは信じられないといった表情だ。
「それが、しないんだよ。この『特別棟』では」
「……そんな杜撰な囚人管理でいいわけ?あなたが隠し持った糸ノコで鉄格子を切って、関節を外して脱獄しようとしてたらどうするんだろう」
「…………さっき僕もちょうど、似たようなことを考えてた」
僕は床の布団を畳んで脇に置く。そして扉の小窓を開けて朝食を部屋の中に引き入れた。当然だけど、朝食は一人分だ。流石に彼女に見せつけながら僕一人がこれを完食するわけにはいかない。
僕は彼女に朝食の半分を勧め、最初は遠慮していた彼女だったが結局全てのメニュー――白米と焼き鮭とほうれん草のお浸しとわかめの味噌汁――を二人で分け合った。満腹には程遠いけれど、誰かとの朝食が久しぶりで僕は存外に満足できた。
……彼女は多分、満足できていないかな。たまにクルクルと、お腹の鳴る音が聞こえてくる。
「……看守を呼んでみようか。ダメ元でおかわりをお願いしてみるよ」
「えっ!お腹の音聞こえちゃった!?」
「うん。かわいそうになってくる」
「……!空腹で憐れまれるってなんかちょっと……」
火置さんは多少ショックを受けたみたいだ。
「……気にしなくていいよ。僕ももう少し食べたい気分だし」彼女にそう言ってから
僕は、独房の扉を大きめにノックして、看守を呼んだ。
「すみません!おかわりもらえますか?」
静寂。
「すみません!!」
もう一度ノックとともに、大声を出す。久しぶりの大声に、声が裏返りそうになる。
「…………ダメみたいね」
諦めようとしたその時、足元の小窓カタッと開いて追加の白米が届けられた。
「………………」
僕達は無言で顔を見合わせる。
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