夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)

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第二章 神様

光と闇を分けるチェックリスト2

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「大事なのは、もっと身近に『善と悪』を見て『善』……すなわち『光』の方を目指すことだと思った。
あのリストで光側にいる人を残していけば、きっと世の中はとても平和になって生きやすくなり、安らげる場所になる。もっと素晴らしい場所になる。

神様に愛される人だけが残れば、もっと世界は安全な場所になる」




さっきまで楽しそうに僕の話を聞いていた彼女が、一瞬眉根を寄せて難しい顔をした。……僕、何かまずいこと言ったかな?

「…………あなたってもしかして……」

「……なんだろう」

「宗教的理由で大量殺人を犯したの?チェックリストの非該当者を1万人くらい集めて、一気に殺したとか」

「……そうだって言ったら?」

「なかなかイッちゃってるわねって思う」

それだけ?どこまで本気で言っているのかわからないけど、君ってちょっと怖いものがなさすぎる気がする。

「でも残念ながら…………僕が犯した殺人はそんな劇的なものじゃない。それができていたら、この世はもう少し生きやすい世の中になっていたかもしれないけど。
……僕が殺したのは一人。大学の同級生を一人殺したんだ」


「……一人の殺人でも死刑になるもの?」


「あまり例はないらしいけど……。死刑だと判決が下されてしまったものはもう、しょうがないよ。計画性と残虐性が高く、更生の余地なしと判断したんだって」

「うーん、なるほど」

「僕がしこしこと書き溜めていた神様についての教義も押収されちゃったから、そういったものから僕の人間性に異常があるとみなされたんだろう。
それこそ次は、君がさっき言っていた通りの『宗教的理由の大量殺人』をするかもしれないって」

「まあ、さっきの話を聞く限り『コイツならやりかねない』と考えるのが妥当ね。『チェックリストの該当者だけをこの世に残したい』って言うんだから」



彼女は肩を竦めて冷静な意見を述べた。

たしかにあの教義を知ったら『僕ならやりかねない』と考えるのは自然かもしれない。


「……ただ、僕にはそんなことができる度胸も大胆さもないから。だから最初から自分にはできないと諦めていたんだ」

「逆に言えば『度胸と大胆さ』があればやるんだ……恐ろしいわね」

「恐ろしい?でもチェックリストに当てはまらない人を野放しにしておくほうが恐ろしくない?」

「うーん、でもさ……そのチェックってあなたの主観でしょ?」

「……そうだね」

「たとえば、学校のクラスメートをあなたがチェックしているとする……その相手って家で見せる顔と学校で見せる顔が全然違うかもよ?学校では聖人でも、家では暴君かも。味噌汁を母親に投げつけてるかも」


鋭い反論だ。人は一面だけがその人の全てではない。でももちろん、そのことは僕だって考えた。


だから僕は、他人をチェックするときは一人のチェックに相当な時間をかけたんだ。

一人に対して最低でも100時間は観察すること。3箇所以上の場面でチェックすること。家族・友人・それ以外で付き合いのある人から話を聞くことを自分に課した。


だから、ある程度の客観性は確保されていると思う。その自信がある。


「そこに関しては、問題ないよ。客観性が確保される工夫をしているから」

「探偵を雇ったの?」

「……そこまではできていないけど、近いことはしてる。だから、家でどんな振る舞いをしているかもある程度は分かった状態でチェックしてきたんだ」

「ふーん」

火置ひおきさんの顔を見る。彼女はちょっと不満そうな顔をしていた。チェックリストの話はあまりお気に召さなかったらしい。

「なるほどね。面白い考えだけど、私の思想には合わないわね」

「そうなんだ」

「ま、だからどうってわけじゃないけど。人と人は考えが違って当たり前だもんね。むしろ、こんな考えがあったんだって驚いた。宗教にチェックリストを持ってくるなんて、なかなか斬新ね」

すぐに表情が元に戻る。後腐れのない彼女の性格に救われた。この狭い独房の中で彼女に嫌われてしまったら、僕は流石に居心地の悪さを感じただろう。



……ちなみに、どんな部分が『君の思想に合わない』の?



そう聞こうと思って口を開いた矢先に、突然独房の扉が開いた。

この独房の扉が開いたのは、僕が最初にこの部屋に入った時以来のことだった。
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