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第二章 神様
闇に沈む記憶
しおりを挟む闇の底
許されざる者の末路
全てを救うは
全知全能の主
光をまといて
我らを抱かん
身を焦がし
心の臓を捧げる
神は全てを許したもう
許したもう
真っ暗な部屋の中で、誰かが耳慣れたメロディーを口ずさんでいる。……そう、僕が考えた歌。神様のための歌。たしか……そうだ、僕が12歳くらいの時に思いついたんだ。
ちゃんと楽譜に起こして、ピアノの先生にも聴いてもらった。素敵な旋律だねって、褒めてくれたんだ。よく覚えている。……でも、どうしてそれが、今聞こえてくるんだ?
この部屋に聞こえる音は、そのかすかな歌声だけ。他には何も聞こえないし、何も見えない。ここはどこ?僕は、どうなっている?あたりの様子を知りたくて、感覚を研ぎ澄ます。
徐々に違和感に気づく。
……血の匂いがする。夏の香りに混じった、不吉な鉄の匂い。息を吸うたびに、ベットリとした金属臭が肺の細胞を塞いでいく。僕は気分が悪くなる。
この部屋はジメジメしていて暑いのに、なぜだか皮膚の表面にずっと鳥肌が立っているんだ。体が言っている。ここはおかしい。ここにいるべきじゃない。何か、よくないことが起こる気がする。
だんだんと暗闇に慣れる視覚。僕は目を凝らす。部屋の真ん中に浮かぶ不明瞭なシルエット。誰かが……椅子に座っている?誰?
体の警告を無視して、僕は恐る恐る人影に近づく。怖いけど、知りたい。何なんだよ、これは。
知らない方が怖い。僕は全てを知っていたい。把握したいんだ。その方が安心する。僕を安心させて。
暗闇の中心に向かって、一歩一歩近づく。近づくにつれて、少しずつ目の前の『人影』の輪郭が鮮明になっていく。輪郭が鮮明になるほどに、認識が曖昧になっていく。だって、目の前のシルエットは、思っていたものと違った。人が座っていると思ったのに、多分あれは人じゃない。
多分っていうのは、形がボコボコしているから。幼稚園児が描いた絵みたいに、輪郭が波打っているから。こんなのは人じゃない。人のはずがない。だって、その頭は何?どうしてじゃがいもみたいになっているの?その首は?どうしてそんな角度に曲がっている?だらりと垂れ下がった腕だって、両方の長さが違うじゃないか?どうして?どうして?どうして?
近づくんじゃなかったかな。でも知りたいんだ。知りたい。僕は知りたい。知らない方が恐ろしい。知らないと不安だ。教えて、教えてくれ。これは何?僕に教えて。教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて教えて。
僕は手を伸ばす。目の前の『何か』に触れた瞬間に、その記憶は途切れる。
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