夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)

文字の大きさ
26 / 67
第三章 探索

彼女はいかにして魔法使いになったのか その1

しおりを挟む
火置さんは生まれたときから魔法使いだったわけじゃなく、11歳のときに魔法使いに『なった』のだという。

「……どうして11歳だったんだろう。なにかきっかけがあったの?」

「そうね……11歳の時に家族が全員殺されて……時空の渦に飲み込まれて、魔法が使える場所に飛ばされた」

「……家族が、殺された?」

「そう。それまでは、両親と弟の四人で暮らしてた。それが突然一人になったのよ。遠方にいた親戚も同じタイミングで全滅」


火置さんは例の調子で肩を竦めて話す。『あーあ』って声が聞こえてきそうな感じで。


「どうして火置さんの家族は死んじゃったの?殺されたって、どういうこと?」

「私の家族を殺したのは……あれは何なんだろう、この世の良くない要素をかきあつめてまとめて具現化したようなものだった。今思うとあれも、時空のひずみから生まれたものだったんだと思う。

とにかく、私が小学校から帰ったら、リビングルームはひどい状態になってた。大抵のスプラッター映画がお遊びに思えるほどの凄惨な光景だったね、あれは」


「血まみれだったってこと?」


「そうね。足の踏み場もないほどの血と肉。まず扉の近くに倒れていたのが父親。手を伸ばしてたし、逃げる途中でやられたんだと思う。

母と弟は、折り重なって倒れてた。弟が下で、その上に母が覆いかぶさってたの。弟は、私が帰ってきたときにはまだ息があって苦しんで泣いていて……でも……助けてあげられなかった」


さっきまで冷静に話を進めていた彼女の瞳が陰る。弟さんと、仲が良かったんだろうか。


「だからかな、私は弱いものを見ると衝動的に、守らなくちゃ、優しくしてあげなきゃって思う。

その一方で、大人の男の人には厳しくなりがち。父は母に手を上げたり、暴言を吐いたり、一見正しいことを言ってやり込めたり、そういった感じだったから……どうしても印象が悪くて」



「……僕のことも嫌い?」

「え?ははっ!何それ?」

火置さんは本気で笑っている。そんなに笑わなくてもいいのに。

「だって……僕は大人の男だよ。男の人が苦手ってことじゃないの?」

「ヤミは……なんていうか……嫌いじゃないよ。人によってはトラウマ的に苦手意識が出るってだけで、男の人が全員悪だとは思ってない。ちゃんと男の人のことを好きになれるし、友達にもなれる」

「そうなんだ。……話の腰を折ってごめん。続けて?」

「うん。えっと……そう、家族の話ね。私は……憎しみ合っている父と母に、いい印象を持てていなかった。家族の中にいると、心に膿が溜まっていくような気がしていた。

だからか死んでしまった二人を見たときも、妙に冷静だった。一目散に逃げようとして死んだんであろう父には『せめて家族を守ってよ』と思ったし、弟を守れなかった母には『せめて苦しませないであげてほしかった』と思った」



家族が死んだというのに淡々と『事実』と『意見』を話す彼女に………………僕は猛烈な親近感を覚えた。僕も、家族の死を悲しそうに話すことができないから。

『こういう事があった』『そして、こう思った』そういうふうにしか話せない。彼女と一緒だ。

「私があの日に学んだのは、自分でなんとかすることが大事だってこと。守りたいものがあればそれを他人に委ねてはいけないし、自分以外をあてにしてはいけない」


彼女は遠くを見つめている。

彼女の瞳の強さは、冬空に輝く一等星を思わせる。
その光は、冷たく乾いた性質の光だ。天国に満ちているような、黄金の暖かな光ではない。突き刺したり、切り裂いたりできそうな、周囲を寄せ付けない厳しい光。


「君は……両親が死んだことを悲しんでいなそうに見える」

「……やっぱりそう見える?実際に、そうなのよ。……冷たいよね?」

「ううん、僕も両親が死んで悲しいって思えないんだ。同じだよ」

彼女が一瞬驚いた顔をする。それからあははっと笑う。

「なんか……共感してくれて嬉しいかも。家族との絆を大切に思う人はとても多いから、あまりこういう話は他の人にしたことがなくて。……血も涙もない冷血人間だって思われるじゃない?」


……そう言われれば、そうなのかもしれない。

僕は誰かに『家族がいないなんてつらいね』って言われたときはいつも『そうでもないよ』って答えてた。
でもそうすると、大体説教されるか、かわいそうな人って目で見られるか、どちらかだった。とにかく『人としておかしなヤツ』だって思われた。

「でも僕は誰かに聞かれたときは正直に答えてたんだ。『悲しくないよ』って」

「あなたは強い。その上、心臓に毛が生えてる。普通は、世間一般とはあまりにもかけ離れた意見や思想は隠すのよ。そうじゃないとうまく生活できないからね」

「僕は嘘が苦手なんだよ。自分の気持ちを偽れないんだ」

「そうだよね、それは感じてる。だから私はヤミのこと、ものすごく信頼できる。もし私のことを嫌いになったら、はっきりと『嫌いになった』って言ってくれそうだもん」



……………………え、なんだその例え?どうして僕が火置さんを嫌いになるの?

「なんでそんな事言うんだ?どういうこと?その例えがよくわからない」

「……別に深い意味はないって。嫌われるのって態度で伝わるから、それならはっきり言って欲しいよねって、ただそれだけのことよ。……そんなに反応すること?」


……どうしてモヤモヤするんだろう。その言い方に壁を感じるから?

火置さんの態度には、そこかしこに『これ以上はこっちにこないで』という障壁がある。
その壁を感じるたびに、僕は毎回もどかしさを覚える。スッキリしなくて変な感じだ。君に、ちゃんと言いたいことがある。


「……だって僕は、火置さんのこと嫌いにならないよ!」


火置さんは眉根を寄せ、『不信』を絵に描いたような表情で僕を見る。

「……どうして『嫌いにならない』なんて言えるのよ。まだ出会って5日よ?」

「なんとなく、そう思うんだよ」

「…………そういうこと、軽々しく言わない方がいいよ」

「軽々しく言ってるわけじゃないよ。本気だ」

こんなに僕と一緒の時間を過ごしてくれて、たくさん話をしてくれた君のこと、僕は嫌いになりたくてもなれないよ。もし君が犯罪者だって聞かされたって、君のことを嫌いになったりはしない。

さっきみたいな厳しい表情ではなくなったけど、火置さんの顔はまだ曇っている。

「本当に思っていることなんだ、嘘じゃないんだよ……」

「………………。……あなたが本気で言ってるんだろうなっていうのは、伝わってきた……。でも……そうじゃなくて」

彼女の声のトーンが落ちる。少し苦しそうな顔で僕を見る。心なしかその目が潤んでいるような気がする。何を言おうとしているんだろう、何かを言い淀んでいる。

「……そうじゃなくて、何?」

「………………。……ひと月後に死ぬくせに…………全力で『嫌いにならないよ』とか、言ったらだめだよ。なんだか、悲しくなるじゃない」

「……………………ごめん」





この後自由時間終了5分前のブザーがなるまで、僕達は一言も喋らなかった。

やがてラウンジ内にブザーの音が鳴り響く。音が止むと、火置さんは立ち上がりながら僕に「帰ろうか」と言った。

その顔は、涼しげで余裕のある、いつもの彼女の表情に戻っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

青春リフレクション

羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。 命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。 そんなある日、一人の少女に出会う。 彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。 でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!? 胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...