27 / 67
第三章 探索
ヤミの神様の話~禁忌の4項目~1
しおりを挟む
「ね、ヤミ。今日も神様の話して」
仄かな月明かりしか射さない静かな夜の独房に、控え目に反響する火置さんの声。ベッドに横になった時の彼女の声は、昼とは違って不思議な甘さを含んでいる気がする。
僕が勝手にそう感じているだけなのか、彼女自身があえてそうしているのか、もしくは横になっていて大きな声を出せないことがそうさせるのか……。真相はわからない。
「……もちろん、いいよ」
子供の頃から必死に考えてきた『僕の神様』の話を聞いてくれるというのに、断るなんて選択肢は存在しない。本当は、徹夜で話したいくらいだ。
というか、わざわざ僕の神様の話を聞きたいなんて言うちょっと頭のおかしい特殊な人間は、この地球上で火置さんたった一人だけだと思う。
……両親だって『神様の話はやめなさい』と言っていたし、当然学校のクラスメートも全員この話を嫌がった。
「今日は『天国と地獄』みたいな話が聞きたい。あなたの教義には死後の世界の話はないの?」
「あるよ。でもその話をするには、『禁忌の4項目』について話す必要がある。実はチェックリストの話には続きがあるんだ」
「え、そうなの?99個じゃなかったっけ?えっと……そう『光と闇を分けるチェックリスト』だよね?」
99項目でできている『光と闇を分けるチェックリスト』は、僕が考えた『神様』の教義の主軸となる内容だ。
その人の行動や考え方を評価し、善か悪かを分けるために用いられる。半分以上にチェックがついていれば光側だとみなされ、『善なる人である』という評価になるのだ。
「そう。『光と闇を分けるチェックリスト』はいわば基本の項目。ざっくりと人間性の善悪を区分するもの。一方『禁忌の4項目』は、一つたりとも絶対に該当してはいけない。文字通り『禁忌』の内容なんだ」
<禁忌の4項目>
意図的な殺人(自殺も含む)※
強姦
精神を殺す行為(いじめ、洗脳など)
人間以外の生き物を意味もなく害する行為
「これらに一つでも該当したら……即地獄行きが決定することになる。
つまり僕の教義では『光と闇を分けるチェックリストの99項目を半数以上満たすこと』と『禁忌の4項目に一つも該当しないこと』が天国行きの条件となるんだ」
黙って僕の話を聞いている火置さん。うつ伏せ状態で頬杖をついたまま、微動だにしない。……そういえば彼女、チェックリストの話は嫌いなんだっけ?僕は彼女に問いかける。
「……大丈夫?どうかした?」
「…………ヤミ、やっぱり私は救世主じゃない。地獄行きが確定したわ」
「………………え?」
「『殺人』。したことがある。もちろん快楽殺人ではないけど。したことがある」
少し驚いたけど……でも、不思議と嫌悪感はなかった。
火置さんとの会話の内容や態度……そこから想像できる性格を考えても、彼女が何の意味もなく殺人を犯すとは全く思えない。何か、『やらなくてはいけない』それ相応の理由があったのだろう。
「………それは『時空の歪み』と関係がある話?」
「ま、そうね。前も言った通り、時空の歪みが生じるとこの世に悪いものが生まれやすくなる。悪意の塊のような人間や、凶暴な動物。『悪の権化』みたいな存在。
そういったものを……倒したことはある。倒したっていうと聞こえが良くなるけど……。正確に言うと『殺した』ことがある」
やっぱり。
つまり、世界のために戦った……ということか。…………彼女はどんな感じで悪と戦っていたんだろう。すごく気になる。
「……不可抗力って感じではあるな」
「だけど、そのチェックリストが言うのは『意図的な殺人』でしょ?正義のための殺人を許容するとは言ってない。そもそも私自身は……正義のための殺人なんてないと思っているけど」
「でも、僕の考える『意図的な殺人』には注釈があるよ。『生存するための行為は除外する』。
だから正当防衛とか、生きるために必要な場面は含まないんだ。そういったケースで行われるやむを得ない殺人は、地獄行きに該当しない」
「ずいぶんと都合がよくない?」
「そうかな?でも、野生の動物だって同じだろ?自分が生きるためには相手を殺さなくちゃいけない。
食べることもそうだし、襲われたり、巣に近づかれたりした場合もそうだ。『生命が脅かされることに対する防御』その結果の殺人は、悪にはならないよ。それなら地球上の生き物の殆どが悪になってしまう」
なるほど、と彼女が呟く。さっきよりもスッキリした顔をしているから、彼女的にも受け入れられる理論だったんだろうか。
「野生動物を基準にする考えは、嫌いじゃないかも。私は自然主義者だし」
「……それはよかった」
僕は火置さんと意見が違っても全然構わない。構わないどころか、なんで反対なのか話し合うのだって楽しい。
それでも、彼女が賛成してくれるとやっぱり嬉しい気分になった。
仄かな月明かりしか射さない静かな夜の独房に、控え目に反響する火置さんの声。ベッドに横になった時の彼女の声は、昼とは違って不思議な甘さを含んでいる気がする。
僕が勝手にそう感じているだけなのか、彼女自身があえてそうしているのか、もしくは横になっていて大きな声を出せないことがそうさせるのか……。真相はわからない。
「……もちろん、いいよ」
子供の頃から必死に考えてきた『僕の神様』の話を聞いてくれるというのに、断るなんて選択肢は存在しない。本当は、徹夜で話したいくらいだ。
というか、わざわざ僕の神様の話を聞きたいなんて言うちょっと頭のおかしい特殊な人間は、この地球上で火置さんたった一人だけだと思う。
……両親だって『神様の話はやめなさい』と言っていたし、当然学校のクラスメートも全員この話を嫌がった。
「今日は『天国と地獄』みたいな話が聞きたい。あなたの教義には死後の世界の話はないの?」
「あるよ。でもその話をするには、『禁忌の4項目』について話す必要がある。実はチェックリストの話には続きがあるんだ」
「え、そうなの?99個じゃなかったっけ?えっと……そう『光と闇を分けるチェックリスト』だよね?」
99項目でできている『光と闇を分けるチェックリスト』は、僕が考えた『神様』の教義の主軸となる内容だ。
その人の行動や考え方を評価し、善か悪かを分けるために用いられる。半分以上にチェックがついていれば光側だとみなされ、『善なる人である』という評価になるのだ。
「そう。『光と闇を分けるチェックリスト』はいわば基本の項目。ざっくりと人間性の善悪を区分するもの。一方『禁忌の4項目』は、一つたりとも絶対に該当してはいけない。文字通り『禁忌』の内容なんだ」
<禁忌の4項目>
意図的な殺人(自殺も含む)※
強姦
精神を殺す行為(いじめ、洗脳など)
人間以外の生き物を意味もなく害する行為
「これらに一つでも該当したら……即地獄行きが決定することになる。
つまり僕の教義では『光と闇を分けるチェックリストの99項目を半数以上満たすこと』と『禁忌の4項目に一つも該当しないこと』が天国行きの条件となるんだ」
黙って僕の話を聞いている火置さん。うつ伏せ状態で頬杖をついたまま、微動だにしない。……そういえば彼女、チェックリストの話は嫌いなんだっけ?僕は彼女に問いかける。
「……大丈夫?どうかした?」
「…………ヤミ、やっぱり私は救世主じゃない。地獄行きが確定したわ」
「………………え?」
「『殺人』。したことがある。もちろん快楽殺人ではないけど。したことがある」
少し驚いたけど……でも、不思議と嫌悪感はなかった。
火置さんとの会話の内容や態度……そこから想像できる性格を考えても、彼女が何の意味もなく殺人を犯すとは全く思えない。何か、『やらなくてはいけない』それ相応の理由があったのだろう。
「………それは『時空の歪み』と関係がある話?」
「ま、そうね。前も言った通り、時空の歪みが生じるとこの世に悪いものが生まれやすくなる。悪意の塊のような人間や、凶暴な動物。『悪の権化』みたいな存在。
そういったものを……倒したことはある。倒したっていうと聞こえが良くなるけど……。正確に言うと『殺した』ことがある」
やっぱり。
つまり、世界のために戦った……ということか。…………彼女はどんな感じで悪と戦っていたんだろう。すごく気になる。
「……不可抗力って感じではあるな」
「だけど、そのチェックリストが言うのは『意図的な殺人』でしょ?正義のための殺人を許容するとは言ってない。そもそも私自身は……正義のための殺人なんてないと思っているけど」
「でも、僕の考える『意図的な殺人』には注釈があるよ。『生存するための行為は除外する』。
だから正当防衛とか、生きるために必要な場面は含まないんだ。そういったケースで行われるやむを得ない殺人は、地獄行きに該当しない」
「ずいぶんと都合がよくない?」
「そうかな?でも、野生の動物だって同じだろ?自分が生きるためには相手を殺さなくちゃいけない。
食べることもそうだし、襲われたり、巣に近づかれたりした場合もそうだ。『生命が脅かされることに対する防御』その結果の殺人は、悪にはならないよ。それなら地球上の生き物の殆どが悪になってしまう」
なるほど、と彼女が呟く。さっきよりもスッキリした顔をしているから、彼女的にも受け入れられる理論だったんだろうか。
「野生動物を基準にする考えは、嫌いじゃないかも。私は自然主義者だし」
「……それはよかった」
僕は火置さんと意見が違っても全然構わない。構わないどころか、なんで反対なのか話し合うのだって楽しい。
それでも、彼女が賛成してくれるとやっぱり嬉しい気分になった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―
コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー!
愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は?
――――――――
※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる