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第三章 探索
ヤミの神様の話~禁忌の4項目~2
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「……そうそう、あとね、ずっと疑問だったことが一つ解消したの。『自殺』を禁忌にしているから、あなたは自殺しなかったのね。天国に行けなくなっちゃうから」
「そう。死にたがってるくせに自殺をNGのルールにするなんて……自分で決めておいてすごく後悔したけどね。
でも僕は色々な本を読んで各方面の専門家の意見を調べて、自分が理論的に納得できる内容を吟味した上で『禁忌の項目』を決めたんだ。だから、後悔はしていても間違っているとは思わない」
「……あなたってやっぱり……変わってる。面白い人ね」
僕はよく人から『変だ』と言われてきたけれど、その『変』にはいつも侮蔑や多少の悪意が込められていた。
でも彼女の言う『変わってる』は不思議と僕を心地よくさせてくれる。言葉の中に、嫌なエネルギーが含まれていない感じがするんだ。
彼女はきっと、『変わっている』ことを『悪』だと考えていないのだと思う。……彼女自身、なかなかに変わっている人だとは思うし。
虚空を見て少しの時間考え事をしていた火置さんが、また口を開いた。
「…………ね、ヤミの考える天国はどんな所なの?」
「天国は……光に満ちた場所。ただ光だけがあって、神様がいる場所」
「……何か楽しいことは?」
「楽しいこと?」
「どこにもない風景とか、毎日変わる空とか、冒険の日々とか」
「楽しいと言うより、不変なんだ」
「……不変」
「変化がなく安定している。あるとしたら……神の愛だけかな。神様は全てを平等に愛してくれるから」
「ふーん。………………じゃあ、私は天国にいきたくないな」
「……なんで?」
「私は誰かの特別のほうがいい。平等に愛されても全然嬉しくない」
「へえ」
………………誰かの、特別か。
「無限に広がる時空の中でたった一人でいいから、その一人が私だけをどこまでも深く愛して欲しい。その他の人には憎まれたって無視されたって、忘れ去られたって平気。
もし私のことを魂ごと愛してくれるなら、私はその人になら殺されてもいい」
どこだかわからない一点を見つめながら話す火置さんのいつもと違った雰囲気に、僕は何も言えなくなる。
それに、彼女がそんなことを言うなんて意外に思えた。だって、彼女は一人で生きることを『楽しんでいる』ように見えていたから。『特定の誰かから愛されること』にあまり興味がないように思えていたんだ。
「…………なんてね。……その天国は……あなたの理想の世界なのね。苦しみも痛みもなく、神の愛だけがある安定した世界」
いつもと同じ調子に戻った火置さんが話を続ける。
……もう少し、君の話を聞きたかったのに。君はいつも肝心なところで、するりと話題を躱してしまう。まるで撫でられるのが嫌いな猫みたいに。
「そうだね、僕の理想の世界だ。現世の悲劇は、もうこりごりだから。……火置さんは、死後の世界を信じてる?」
「……あなたから散々こんな話を聞いておいてあれだけど……信じていないわ」
「そうなんだ」
「大事なのは、生きることだと思ってるから」
彼女の瞳が、強く輝く。僕は彼女の鋭い視線が結構好きだ。君の強さには、尊敬と崇拝に似た気持ちを起こさせる。
君の瞳の向こうには神様がいて、神様が君を通して僕に語りかけてくれているのかもしれない。
「……そうか」
「だから、正直に言って、あなたにももっと生きてほしいけどね」
「……死刑囚に言う言葉じゃないね。もうどうしようもないしな」
僕は苦笑いしながら答える。
「だよね……ごめん」
火置さんは目を伏せる。その瞳は、少し悲しそうに揺れる。言葉通りに受け取るならば、彼女は……僕に死んでほしくないと思ってるんだ。僕の胸の奥も、なぜだか少しだけチクリと痛む。
死んで神様のところに行きたいという僕の理想と、死んでほしくないという君の願いが生み出す摩擦で、心がひりついているのかもしれない。
「……火置さん、これだけは言いたいんだけど」
「……何?」
「僕、死刑になる前に君に会えて本当によかったと思ってるんだ。君にはとても感謝してるよ。君が来てくれてから、毎日がとても楽しいんだ」
「…………そっか」
「……そろそろ、時空の魔法だっけ?を使えるようになった?時空の魔法が使えるようになったら、君はここから出ていってしまうんだよね?
君はいつまでここにいてくれるんだろう。そのうちいなくなってしまうと思うと、少し寂しい」
「……まだ、魔法が使えないの。だからもう少しあなたにはお世話になると思う。……あとちょっとかもしれないけど、それまでよろしくね」
「よかった。君には申し訳ないけど、もう少しここにいてくれるのは嬉しいな。明日もたくさん話そうよ」
「そうだね、話そう」
「明日も君の話を聞きたい。今日は魔法が使えるようになる前で終わってしまったから、どうやって魔法が使えるようになったのかを聞きたい。
君がどんな人生を歩んできたのか、興味があるんだ。刑務所探索の合間でもいいから、また僕と話をしてほしい」
「……うん、わかった。……ヤミ、私そろそろ眠くなっちゃった。寝るね」
「わかった。長くなってごめんね。おやすみ、火置さん」
「ん……おやすみ……」
「そう。死にたがってるくせに自殺をNGのルールにするなんて……自分で決めておいてすごく後悔したけどね。
でも僕は色々な本を読んで各方面の専門家の意見を調べて、自分が理論的に納得できる内容を吟味した上で『禁忌の項目』を決めたんだ。だから、後悔はしていても間違っているとは思わない」
「……あなたってやっぱり……変わってる。面白い人ね」
僕はよく人から『変だ』と言われてきたけれど、その『変』にはいつも侮蔑や多少の悪意が込められていた。
でも彼女の言う『変わってる』は不思議と僕を心地よくさせてくれる。言葉の中に、嫌なエネルギーが含まれていない感じがするんだ。
彼女はきっと、『変わっている』ことを『悪』だと考えていないのだと思う。……彼女自身、なかなかに変わっている人だとは思うし。
虚空を見て少しの時間考え事をしていた火置さんが、また口を開いた。
「…………ね、ヤミの考える天国はどんな所なの?」
「天国は……光に満ちた場所。ただ光だけがあって、神様がいる場所」
「……何か楽しいことは?」
「楽しいこと?」
「どこにもない風景とか、毎日変わる空とか、冒険の日々とか」
「楽しいと言うより、不変なんだ」
「……不変」
「変化がなく安定している。あるとしたら……神の愛だけかな。神様は全てを平等に愛してくれるから」
「ふーん。………………じゃあ、私は天国にいきたくないな」
「……なんで?」
「私は誰かの特別のほうがいい。平等に愛されても全然嬉しくない」
「へえ」
………………誰かの、特別か。
「無限に広がる時空の中でたった一人でいいから、その一人が私だけをどこまでも深く愛して欲しい。その他の人には憎まれたって無視されたって、忘れ去られたって平気。
もし私のことを魂ごと愛してくれるなら、私はその人になら殺されてもいい」
どこだかわからない一点を見つめながら話す火置さんのいつもと違った雰囲気に、僕は何も言えなくなる。
それに、彼女がそんなことを言うなんて意外に思えた。だって、彼女は一人で生きることを『楽しんでいる』ように見えていたから。『特定の誰かから愛されること』にあまり興味がないように思えていたんだ。
「…………なんてね。……その天国は……あなたの理想の世界なのね。苦しみも痛みもなく、神の愛だけがある安定した世界」
いつもと同じ調子に戻った火置さんが話を続ける。
……もう少し、君の話を聞きたかったのに。君はいつも肝心なところで、するりと話題を躱してしまう。まるで撫でられるのが嫌いな猫みたいに。
「そうだね、僕の理想の世界だ。現世の悲劇は、もうこりごりだから。……火置さんは、死後の世界を信じてる?」
「……あなたから散々こんな話を聞いておいてあれだけど……信じていないわ」
「そうなんだ」
「大事なのは、生きることだと思ってるから」
彼女の瞳が、強く輝く。僕は彼女の鋭い視線が結構好きだ。君の強さには、尊敬と崇拝に似た気持ちを起こさせる。
君の瞳の向こうには神様がいて、神様が君を通して僕に語りかけてくれているのかもしれない。
「……そうか」
「だから、正直に言って、あなたにももっと生きてほしいけどね」
「……死刑囚に言う言葉じゃないね。もうどうしようもないしな」
僕は苦笑いしながら答える。
「だよね……ごめん」
火置さんは目を伏せる。その瞳は、少し悲しそうに揺れる。言葉通りに受け取るならば、彼女は……僕に死んでほしくないと思ってるんだ。僕の胸の奥も、なぜだか少しだけチクリと痛む。
死んで神様のところに行きたいという僕の理想と、死んでほしくないという君の願いが生み出す摩擦で、心がひりついているのかもしれない。
「……火置さん、これだけは言いたいんだけど」
「……何?」
「僕、死刑になる前に君に会えて本当によかったと思ってるんだ。君にはとても感謝してるよ。君が来てくれてから、毎日がとても楽しいんだ」
「…………そっか」
「……そろそろ、時空の魔法だっけ?を使えるようになった?時空の魔法が使えるようになったら、君はここから出ていってしまうんだよね?
君はいつまでここにいてくれるんだろう。そのうちいなくなってしまうと思うと、少し寂しい」
「……まだ、魔法が使えないの。だからもう少しあなたにはお世話になると思う。……あとちょっとかもしれないけど、それまでよろしくね」
「よかった。君には申し訳ないけど、もう少しここにいてくれるのは嬉しいな。明日もたくさん話そうよ」
「そうだね、話そう」
「明日も君の話を聞きたい。今日は魔法が使えるようになる前で終わってしまったから、どうやって魔法が使えるようになったのかを聞きたい。
君がどんな人生を歩んできたのか、興味があるんだ。刑務所探索の合間でもいいから、また僕と話をしてほしい」
「……うん、わかった。……ヤミ、私そろそろ眠くなっちゃった。寝るね」
「わかった。長くなってごめんね。おやすみ、火置さん」
「ん……おやすみ……」
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