夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)

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第四章 夢

もう一人の死刑囚

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~灰谷ヤミの死刑まで残り17日~

今朝、ヤミはいつも以上にぼんやりしているように見えた。あと半月くらいで、彼の死刑が執行される。死を恐れていない彼にも、色々と思うところがあるのだろうか。


…………私自身は……彼の死についてあまり考えたくない。


普通に仲良くなってしまって、後悔してる。死刑の日は結構つらいだろうな。割と……長いこと引きずってしまいそうだ。

私は、彼との会話が楽しい。こういう場所で出会っていなければ、彼とは普通に友達になれただろう。

確かにちょっぴり頭はオカシメだけど、彼の知性や知識は尊敬すべきものだし、静かな雰囲気は一緒にいて落ち着く。


…………もう、彼のことを考えるのはよそう。私にはどうしようもないし。


珍しくあまり喋らないヤミを独房に残し(最近ヤミは、特に用もないのによく私に話しかけてきていた)、私は自由時間開始のブザーと共に部屋の外に出る。

いつもは刑務所フロアの調査から始める私だけど、その日はラウンジに足が向いた。自分でもなぜだかよくわからない。でも、今日はまずお茶でも飲もうかなっていう気分になった。



……何気なく入ったラウンジで、私は衝撃的な出来事に遭遇する。

なんと、他の囚人に出会ったのだ。


この刑務所で、ヤミ以外の囚人を見たのは初めてだった。

あまりにも静かだし動かないから、部屋に入って3秒位は誰かがいたことに気づかなかった。気づいた後も、幻かなと思った。

彼は、ラウンジに入って右奥のひとりがけソファに、うなだれた様子で下を向いて座っていた。下を向いているので顔はよく見えないが、真っ黒の髪をぺったりとなでつけていて華奢な印象の男だった。

彼は膝の上に手を乗せた状態で、じっと自分の足元の床を見ているようだ。もしくは、床を見ているようで、何も見ていないのかもしれない。

男は微動だにせず座っているかに思えたが、よくよく見ると膝の上に置いた手が時折、ピクピクと痙攣するように動いている。

血管が浮き出てボコボコと節くれている割には繊細な印象の長い指をしていて、いかにも『神経質そう』な手だった。

その手はところどころ痛々しく腫れ、赤や青の痣でできたまだら模様で覆われていた。鮮やかな色のかさぶたもそこかしこにあり、それらは昨日今日の新しい傷跡だと思われた。


私は、慎重に彼に近づく。力の強そうな体つきには見えなかったが、人は見かけによらないなんてこともある。

あと二歩進めば触れられる距離まで近づいたというのに、彼は反応ひとつよこさなかった。

近づいたことで、彼の表情を確認することができる。青白い顔をして、薄い眉に先の尖った顎。手と同様、神経質な印象だ。縁の無いメガネをかけており、焦点の定まらない瞳によってほぼ廃人のようにも感じられた。

「…………こんにちは」

私は彼に声をかける。ピクリともしない。……目を開けたまま寝ているんだろうか。

「あなた、聞いてる?聞こえてる?」

…………反応は、ない。

「聞こえてたら、イエス・ノーだけでもいいから答えてくれると嬉しい。あなたは、ここの囚人なの?」

………………

またしても反応はない。彼の隣のソファに腰掛けて、のんびりと返事を待つことにする。


……まさか、他の囚人がいたなんて、驚いた。しっかり独房を見て回っていたつもりだったのに、今までどうして見つからなかったんだろう。

でも、昨日魔法が一瞬使えた一件のおかげで、私もなんとなくここの構造を把握できつつある。一瞬だけ魔法が使えた理由。そして、この刑務所に異様な雰囲気を感じる理由。

きっとここは、時空の…………





「死刑になる」


風の音と勘違いしてしまうほどの、かすかな声だった。でも、確かにそう言っていた。『死刑になる』って言ったよね?……つまり、やっぱり彼はここの囚人だということだ。やった、会話ができた。
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