夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)

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第四章 夢

私の決意

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今朝会った囚人は、今日の夜に死刑になると言っていた。……きっと死刑執行の前後から、カミサマの監視がいつもより手薄になるだろう。

カミサマの元へ続く『隠された道』を調査するなら、今日ほど絶好なタイミングはない。


ピアニストの囚人が去り際に放った『ゆがんでいる』という言葉で確信できた。この刑務所はやはり、時空のひずみのごくごく近くに造られているはずだ。

だから、『魔法が使えない』し、『たまに視覚や聴覚にゆがみを感じる』。そしてダメ押しの理由、『カミサマはどう考えても、時空のひずみから生まれた邪悪』。

あまりにも条件が揃いすぎている。ここが時空のひずみの近くにあるというのは間違いない。

ヤミが最初のカミサマ面談の後に言っていた言葉。『まっすぐ歩いてカミサマのところまで行った』という話を思い出す。

きっと……中央廊下の突き当りに、隠し通路が出現するんじゃないか……と、予想している。



私は決意する。行くなら、今だ。

これから始まる夜の自由時間、隠された通路に入る。もしかしたら時間内に独房へと戻れないかもしれないけど、隠し通路にさえ入ってしまえば看守にすぐ見つかるという可能性は少ないはずだ。看守から逃げ切れれば、カミサマに会えるかもしれない。

念の為、戦いの準備をしておく。ここでは魔法が使えないから、主戦力となるのはナイフ。そして補助的に使う魔法道具を点検する。


背中にヤミの視線を感じる。……きっと彼は私が何をしようとしているかくらい、すぐにわかってしまうだろう。


……私は『もう一つの決意』を固める。


「死ぬかも知れないけど、一緒に来る?今日、ここのルールを破るの」

「どういうこと?」

「カミサマのところに行く。……今日の夜は管理が手薄のはず」

「……なぜ、そう思う?」

私は今日あったことと、この刑務所についての考察をヤミに話して聞かせた。

『今朝他の囚人と会った』と言ったらヤミは一瞬驚いて心配した風だったけど、それ以降彼は話のところどころで頷きながら静かに私の話を聞いていた。


「でも、さ。一緒に行って、いいの?最近君に避けられていると思ってたよ」

「……よくわかってるじゃない」

確かに私は、最近ヤミを避けがちだったと思う。でも別にそれは、彼が嫌いだからとか、彼の考えが気持ち悪いからとかじゃない。

避けていた理由は、その反対。仲良くなってしまったから。死なれるのがつらいから、あまり関わり合いにならないようにしていた。彼と深い話をすればするほど、心が重くなっていく気がしたから。


……でも、もう遅いよね。仲良くなってしまったものは、仕方ない。もう覚悟を決めて、。これが、私のもう一つの決意。

「私……これからはあなたのことを避けないようにする」

「……なんで?」

「もう引き返せないところまで来ちゃったから。もし今後時空の魔法が使えるようになっても、あなたの死刑まではここを出ていかないことにするわ。
……ここまでディープに関わっちゃったのに途中でバイバイしたら、ずーっと喉に小骨が刺さったみたいな感じでスッキリしなさそうだもん」

「は、はは……」

「…………何よ」

「嬉しいよ。……すごく」

「ん……それはよかった」

ヤミはものすごく素直に『嬉しい』と言う。こんなに正直に気持ちを表現する男の人に初めて出会った。

彼はいい意味で、気を遣う必要のない相手だ。なんでも正直でいてくれるから、言葉の裏を読まなくても済む。そういう彼の態度に、私は結構感謝していたりする。


「ま、どうせ死ぬなら冒険して死ぬ方がいいしね!それに……隠し通路の向こうで何かあった時に、あなたを犠牲にして私は逃げられるし。あなたは死にたいんだから、文句を言われることもない」

「うん、それはとてもいい考えだと思う」

「ちょっと……冗談だからね……?」

「冗談じゃなくていいのに」

「……はあ……ジョークの通じない死刑囚ほど、最強の敵はいないわ……」

こうやって、軽口を叩き合えるのも、あと半月ちょっとか。



電子ブザーの音がなる。いつ死んでもいい私達の、命がけの冒険。その開幕を告げる合図。

「さ、行こう」

ヤミの顔を見る。

「うん、行こう火置ひおきさん」

アンバーの瞳を優しく細めて、彼は笑っている。楽しそうに、幸せそうに。


……うん、よかった。死刑までに一つでも、楽しい思い出が増やせたらいい。その手伝いができたら、十分だ。







チクリ。





あ、胸が痛い。本当にひどい人だな。自分は勝手に友達との生活を楽しんで、その後死ぬことだって楽しみにしていて、『死んでほしくない』と思っている友達を残して死ぬなんて。


…………でも仕方ない、諦めよう。とんでもない男と友達になってしまった、人の見る目がない私が悪いんだ。

諦めて……精一杯、このおかしな友人との残りの時間を、楽しもう。
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