夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)

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第五章 闇

面談前のアイスブレイク

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~灰谷ヤミの死刑まで残り16日~


朝の自由時間の開始と共に廊下に出た僕達を待っていたのは、いつもの看守だった。

「これからカミサマ面談を行う。囚人番号2084はこちらについてきなさい。火置ひおきユウは、独房で待機しているように」

「なんでよ!?自由時間は?」

「今朝の自由時間はなくなった」

「えーっ」と文句を言う火置さんを、看守が睨みつける。火置さんは不服そうな顔をして独房に戻っていった。

……いきなりナイフで看守を攻撃しだしたらどうしようかと思ったけど、そこまで大胆かつ好戦的ではなくてよかった。僕は胸をなでおろす。

「……どうして彼女を外に出してあげないの?面談中はカミサマの目が行き届かないから?」

僕が看守に尋ねると、看守は感情の宿らないガラス玉のような瞳で僕の顔を見た。そして……バチンと周囲の明かりが全て落ちる。

「!」

真っ白から真っ黒へ。あまりの衝撃的な場面の切り替わり具合に、僕は最初自分が死んだのかと思った。看守に楯突いたことで、撃たれるだか殴られるだかして、死んだことに気付けないくらいの一瞬で死んだのかと。


……でも、どうやら違ったらしい。周囲は暗いのに、看守だけはやたらとくっきり見えている。どういった原理だろうか。

「こっちだ。ついてきなさい」

僕は看守にひたすらついていく。『第一回』の面談と同じく、まっすぐな道だった。でも、真っ暗で周囲の様子は何もわからない。
……カミサマへの道がわからないように暗くしたのか……それとも毎回明るさが変わるのか?


やがて看守は、つき当たりの黒い壁を両手で押し開けた。前回はボタン式だったのに今回は手押しで開けるんだ……。


その扉の向こうは相変わらず白かった。そう、カミサマの部屋。正方形の部屋のど真ん中にカミサマが座っている。

「ああ、ごめんなさいね。前回『一週間後に面談する』と言ったのに、一日ずれてしまいました。ちょっと、予定が立て込んでいましてね」

相変わらずのよく通る声で、カミサマが話しかけてくる。僕は部屋の中央に進み、前回と同じく木の椅子に腰掛けた。

「……全く構わない。この時間だって、僕にとっては特に必要ないものだからな」

「本当に可愛くない男ですね……。しかもあなた……バレてないと思ってます?刑務所のルールを破って、勝手なことしたでしょ。なんでもお見通しですからね?」

……やっぱりバレていたか。そうだろうとは思っていたけど、情報が早いな。

本当にこいつは何者なんだ。火置さんは『ひずみから生まれた邪悪だ』と言っていたけど、それってどういうことだ?人間なのかそうじゃないのかを、せめてはっきりしてほしい。人間じゃない何かだとすると、こうして同じ空間で話していることすら気味が悪い。

「……行けたから行っただけだ。特に施錠もされていなかったよ?」

「でも自由時間の終了時刻は守っていなかったですね?破ってはならない刑務所の鉄の掟なんですけど」

「終了時刻に戻っていなかったって、どうしてわかる?僕たちは施錠された自分の独房にちゃんと戻っていただろ?それともあんた自身が、終了時刻きっかりに、独房の中を隅々まで確認したのかい?ちゃんとトイレの中も見た?」

もちろん僕達は終了時刻までには戻れなかった。それでもあえて強気に出る。きっとやつは、わざわざこの部屋まで確認しに来ることはないだろうと踏んで。

「……あなたって本当に『ああ言えばこう言う』タイプですね……女子に嫌われますよ?」

「…………余計なお世話だな。でさ、聞きたいことがあるんだよ」

「なんでしょう?」

「僕は本当に死刑になれるのか?見ちゃったよ?打ち捨てられた刑務所に捕まってる囚人達を……。
あんたに『あそこのメンバーに加われ』って言い出されるんじゃないかって、気が気じゃないんだ。せっかく望んでいた死刑を勝ち取れたのに、いざ死刑直前になって約束を破られたらたまったもんじゃないからな」

「安心してください。あれは……そう、終身刑の人達ですから。あなたがあそこに入ることはありません」

終身刑……。時空の歪んだ空間での終身刑?カビだらけの部屋で、すし詰め集団生活させられる終身刑?

「……本当に?」

「ええ。神に誓って本当です」

「神に誓ってって…………それはあんたに誓ってってこと?全然信用ならないな?」

「……失礼な男ですね、あなたは……。本当ですよ。あなたは死刑です。だって人を殺したんですからね?『正当防衛』以外の殺人は、死刑です。
私がこの国にいる限り、そのルールは変わりませんよ。国民だって怒るでしょ。あんな事件を起こしたあなたを、私が勝手に終身刑に減刑したらね」

「心配だな。信じられる根拠がほしいよ」

「では、その根拠をお教えしましょう。私はあそこには行けないのですよ」

…………は?

いかにも残念そうに首を左右に振りながら、芝居がかった様子でカミサマは両手を上げた。

「……と言うか……恥ずかしながら、行きたくても行けなくなっちゃったんです。自分で作ったのに。やっぱり時空というのは、繊細なものみたいですね。なかなか思い通りにはいかない。

何かの拍子にこの空間から切り離されてしまったんでしょう。それ以来私はあそこに一度も行けていません。もう……5年位は、足を運んでいませんね。一体全体、中はどうなってしまっているのやら……」

……こいつは、ここが時空の穴の中にあるということをわかっているのか。わかってて、ここに刑務所を作っているのか。

……何が目的なんだか知らないけど、あそこに囚われた人にとっては迷惑な話だな。……まあでも、安心したよ。あの空間で永遠の時を生きろとか言われたらどうしようかと思った。

「……なんで時空の穴の中に刑務所を作るんだ?こっそりいけないことをしたいって以外に、理由が考えられないんだけど」

「別にイケナイコトをしたい訳では無いですよ。やるとしても、とても学術的な、進歩的な、挑戦的な取り組みです。ま、あなたには関係のないことです」


……火置さんが言っていた言葉を思い出す。

『何かの実験台にされるとか』。

……その線はありえるかもしれない。カミサマとかいうこの男は何らかの意図があって『自分の刑務所』という隔離空間を作った。そして、そこで何か『自称学術的な取り組み』をしている。こいつが意味のない嘘を言っているんじゃなければ。

「無駄話はここらへんにしませんか?そろそろ始めますね。『第二回カミサマ面談』です」

「まだ始まってなかったんだ。むしろ驚きだよ」

こうして僕とカミサマの、二回目の面談が幕を開けた。
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