夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)

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第五章 闇

別々の部屋

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~灰谷ヤミの死刑まで残り14日~

今日から僕達は、別々の個室で生活することになった。昨日のカミサマ面談で話した僕の要望が聞き入れられ、火置ひおきさんの部屋が用意されたのだ。火置さんに割り当てられたのは、フロアの角にある独房の一室だった。

以前まで自分の部屋が欲しいと頻繁にぼやいていた火置さんだったけど、この前の夜のことがあったからか、出ていって大丈夫なのかと何度か僕に尋ねた。

「大丈夫だって、そんなに心配しないで」

「……本当に?……大丈夫なら、いいんだけど……」

「おいおい、子供じゃないんだから……」

「それはわかってるよ!」

そこまで言うならお言葉に甘えて……と、彼女は用意された個室に移動した。

僕はホッとしていた。なぜって、最近ちょっと一緒に寝るのが息苦しくなってきていたからだ。
特にあの夢……火置さんが出てきた夢を見てからは、早く別の部屋に行ってほしいと思っていたから、助かった。



彼女がいなくなってガランとした自分の独房を見渡す。窓の下に置かれたベッドが目に入る。最初は僕のものだったのに、気づけば半月も火置さんが使っていたな。

収容されたばかりの時は狭いなあと思っていたはずだったのに、火置さんが出ていってしまった後のこの部屋はやたらと広く感じた。


「……暇だな……」

一人の時間はとても長い。次の自由時間が待ち遠しい。

出て行けと言ったのは僕なのに、まだ君が出ていってから30分くらいしか経ってないのに、すでに僕は少し後悔している。

どれだけ意志薄弱なんだろう……なんだか自分に笑ってしまう。


6時間くらいに感じるほど長い長い2時間を過ごし、昼後の自由時間がやってきた。

自由時間開始のブザーとほぼ同時に廊下に出たら、火置さんに会った。別室に移ったこと以外は何も変わらないのに、彼女との間に『お隣さん』くらいの距離感ができた気がした。
僕達は一言挨拶を交わし、僕はトレーニングルームへ、火置さんは図書室へ向かう。

別室に移動してしまった火置さんと会えるのは自由時間だけになってしまったから、昼の自由時間にも話したいなとは考えた。

でも、毎昼欠かさなかったランニングの習慣を崩したら、色々なものがボロボロとだめになっていきそうで、そこだけはどうしても譲らないようにと決めていた。『意志薄弱な』僕にしては頑張っていると思う。


そして夜の自由時間が来た。今度こそ火置さんと話せるかな。僕は図書室に行くことにする。図書室ではすでに、火置さんが机で本を読んでいた。僕は彼女に話しかける。

「今日は何を読んでるの?」

「宇宙の図鑑。ほら見て、キレイだよね」

「……きれいだから見るんだ。何かを知りたいからじゃなくて?」

「私にとって宇宙の図鑑は画集と同じなの。宇宙の仕組みを物理的に量子力学的に考察するためじゃなくて、太陽系の星々をみて綺麗だなーって感動する。そのために読むの」

「確かに美しいよね、宇宙って」

「……………………ねえ、ヤミ」

「ん?」

「この前の夜、何だったの?大丈夫?最近ちょっと元気ないから、心配よ。そりゃ、刻一刻と死刑が近づいてるわけだから普通は元気もなくなるでしょうけど……でもあなたの場合、死刑が近づいてるから元気がなくなるってわけじゃなさそうだから」


…………。そろそろ彼女には話しておこうか。僕の最後の、思い出話。僕が大学生になったあとの……殺人事件を起こしたところまでの話を。

「火置さん」

「……なに?」

「僕の、最後の身の上話を聞いてくれる?」

彼女は黙って僕を見た。そして言った。

「聞かせてほしい」
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