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第六章 真実
夜
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……そろそろ読んでくれたかな。魔法書に忍ばせた、ヤミへの手紙。
あなたに生きてほしい、カミサマを倒すのに協力してほしいっていう、お願いをしたためた。それから最後に、あなたに会えてよかったっていう感謝の思いを。
…………ヤミはがっかりするだろうか。そこに書かれている言葉は、おそらく彼の望むものではないだろう。
ヤミは『魔法書に僕のことを書いて欲しい』と言っていた。魔法書を彩る物語として――彼の悲劇的な人生や神様の教義とか死生観とかを――書いてもらうことを想像していたかな。……思っていたものと違っていたら、ごめんね。
でも、こうするしかなかった。だって『カミサマを一緒に倒そう』なんて、口頭では伝えられない。カミサマはこの場所の様子を自由に把握できていて、会話は全部筒抜けだ。
カミサマと話して、あいつはこのままにしたら駄目だってわかった。やつはこの世界だけじゃなく、他の世界にまで手を広げようとしている。どこまでエスカレートするかわからない危険性を感じた。
しかも『私がカミサマに協力しないと、灰谷ヤミが苦しむことになる』とまで言った。私はカミサマに協力する気は一切ない。でも、私のせいでヤミが苦しむのは絶対に嫌。
それに、ヤミにはきっと『生きる目的』が必要だ。私と一緒にカミサマを倒して世界を救う……これが彼の生きる意欲に火をつけてくれるといいんだけど。
……明日は私のカミサマ面談だ。とりあえずは、カミサマに『従うフリ』をしよう。
魔法が満足に使えないこの場所で私が一人でカミサマに立ち向かっても、勝てる可能性はとても低い。
でもヤミが死刑の延期を飲んでくれさえすれば、いずれは二対一の状況に追い込める。この刑務所から出られて魔法が使えるようになり……かつ二対一の状況なら、勝てる可能性は十分すぎるくらいある。
全ては明日の面談と、ヤミの答えにかかってる。もう、寝よう。大丈夫、きっとうまくいく。
私はベッドに横になり、目を閉じる。なんとかなるさ。いつだってそうやって、乗り越えてきたんだから。
明日からまた、ヤミと前みたいにお話したいな。私はヤミとお話するのが好き。ヤミと一緒に話してると、生きてる感じがするの。……本当はさっきも、もっと話したかった。今日ので仲直りできたかな……。
目を閉じる。優しい暗闇が迫る。私は不思議と満たされた気持ちで、眠りに落ちていった。
「ひおきゆーうさん」
!!!
夜闇に似つかわしくない底抜けに明るい声が耳の中に飛び込んできて、私は目覚めた。想定してなかった異常事態に、体が警報を鳴らす。一瞬で脳が覚醒するけど、私の反応より早く、口元が無骨な手のひらによってがっしりと塞がれる。私は看守にベッドに押さえつけられている。動けない。
「んっんんっ!!!」
顎の骨がミシミシと嫌な音を立てる。なんて馬鹿力なんだろう。やつは濁った目で「立て」と言った。この状況で立てると思う?まずその手を離してよ。
私はどうにか体を起こす。口は掴まれたままだ。助けを呼ぶことはできない。そもそも、こいつ相手に助けを呼んだところで、二人とも返り討ちにあうのは目に見えている。
「火置ユウさん……残念です。あなた、協力するつもりないですよね?」
……どうして、バレたんだろう。背中に冷や汗が落ちる。……カミサマと話したい。この手をどけて。私はカミサマに目線と動作でアピールする。
「離しなさい。抵抗する気はないみたいですから」
看守は雑に手を離した。少しでもおかしな動きをすれば命はないとでも言わんばかりに、その目はずっと私に向いている。
「……何の、話……?返事を……するのは、明日でしょ……」
「いやいやいやいや、それはこっちのセリフです!協力してもらえそうにないと判断したんで、お迎えに来ましたよ。プランBを実行させていただきます」
「だから、何の話よ……!?ッが、ハッ……ッ!!」
腹部に強烈な鈍痛。私が一歩踏み出したことに瞬時に反応した看守が、私に遠慮のないパンチを食らわせる。みぞおちに食い込むゴツゴツした拳によって臓器が損傷したのだろう。口元に血の味がのぼってくる。
くっ……おぇ……がは……
腹部のダメージで胃液が逆流し、嘔吐する。うまく息ができない。苦しい。
「あーあ……汚いですねえ……意地で引っ込めて欲しいものですよ」
「はぁっ、はぁっはぁ……」
「あのね、あなた絶対に断る気満々だったでしょう?もしくは、協力したフリして裏切る気だったでしょう?バレバレですよ?」
喋りたくても、喋れない。意識が飛びそう。
「なんでバレたかって?それはね、あなたの性格です。私をなんだと思ってます?心理学の鬼ですよ?あなた、性格的に絶対に私に従わないでしょうに……。
申し訳ないですが最初に断られた時点で『あーもうこれ絶対に協力してくれないやつー』って思ってましたから。正直言って、明日の返事とか聞くまでもないと思ってましたから」
最初から……無駄だった……?ヤバい、な……稀に見る大ピンチ……。
「という訳で、こちらに来ていただきます」
うずくまる私の喉元を看守が鷲掴みして、無理やり上へと引っ張り上げる。
カミサマの部屋へと連れて行かれながら、私はヤミが無事でいることと、死刑を断ってくれることを心の底から願っていた。
あなたに生きてほしい、カミサマを倒すのに協力してほしいっていう、お願いをしたためた。それから最後に、あなたに会えてよかったっていう感謝の思いを。
…………ヤミはがっかりするだろうか。そこに書かれている言葉は、おそらく彼の望むものではないだろう。
ヤミは『魔法書に僕のことを書いて欲しい』と言っていた。魔法書を彩る物語として――彼の悲劇的な人生や神様の教義とか死生観とかを――書いてもらうことを想像していたかな。……思っていたものと違っていたら、ごめんね。
でも、こうするしかなかった。だって『カミサマを一緒に倒そう』なんて、口頭では伝えられない。カミサマはこの場所の様子を自由に把握できていて、会話は全部筒抜けだ。
カミサマと話して、あいつはこのままにしたら駄目だってわかった。やつはこの世界だけじゃなく、他の世界にまで手を広げようとしている。どこまでエスカレートするかわからない危険性を感じた。
しかも『私がカミサマに協力しないと、灰谷ヤミが苦しむことになる』とまで言った。私はカミサマに協力する気は一切ない。でも、私のせいでヤミが苦しむのは絶対に嫌。
それに、ヤミにはきっと『生きる目的』が必要だ。私と一緒にカミサマを倒して世界を救う……これが彼の生きる意欲に火をつけてくれるといいんだけど。
……明日は私のカミサマ面談だ。とりあえずは、カミサマに『従うフリ』をしよう。
魔法が満足に使えないこの場所で私が一人でカミサマに立ち向かっても、勝てる可能性はとても低い。
でもヤミが死刑の延期を飲んでくれさえすれば、いずれは二対一の状況に追い込める。この刑務所から出られて魔法が使えるようになり……かつ二対一の状況なら、勝てる可能性は十分すぎるくらいある。
全ては明日の面談と、ヤミの答えにかかってる。もう、寝よう。大丈夫、きっとうまくいく。
私はベッドに横になり、目を閉じる。なんとかなるさ。いつだってそうやって、乗り越えてきたんだから。
明日からまた、ヤミと前みたいにお話したいな。私はヤミとお話するのが好き。ヤミと一緒に話してると、生きてる感じがするの。……本当はさっきも、もっと話したかった。今日ので仲直りできたかな……。
目を閉じる。優しい暗闇が迫る。私は不思議と満たされた気持ちで、眠りに落ちていった。
「ひおきゆーうさん」
!!!
夜闇に似つかわしくない底抜けに明るい声が耳の中に飛び込んできて、私は目覚めた。想定してなかった異常事態に、体が警報を鳴らす。一瞬で脳が覚醒するけど、私の反応より早く、口元が無骨な手のひらによってがっしりと塞がれる。私は看守にベッドに押さえつけられている。動けない。
「んっんんっ!!!」
顎の骨がミシミシと嫌な音を立てる。なんて馬鹿力なんだろう。やつは濁った目で「立て」と言った。この状況で立てると思う?まずその手を離してよ。
私はどうにか体を起こす。口は掴まれたままだ。助けを呼ぶことはできない。そもそも、こいつ相手に助けを呼んだところで、二人とも返り討ちにあうのは目に見えている。
「火置ユウさん……残念です。あなた、協力するつもりないですよね?」
……どうして、バレたんだろう。背中に冷や汗が落ちる。……カミサマと話したい。この手をどけて。私はカミサマに目線と動作でアピールする。
「離しなさい。抵抗する気はないみたいですから」
看守は雑に手を離した。少しでもおかしな動きをすれば命はないとでも言わんばかりに、その目はずっと私に向いている。
「……何の、話……?返事を……するのは、明日でしょ……」
「いやいやいやいや、それはこっちのセリフです!協力してもらえそうにないと判断したんで、お迎えに来ましたよ。プランBを実行させていただきます」
「だから、何の話よ……!?ッが、ハッ……ッ!!」
腹部に強烈な鈍痛。私が一歩踏み出したことに瞬時に反応した看守が、私に遠慮のないパンチを食らわせる。みぞおちに食い込むゴツゴツした拳によって臓器が損傷したのだろう。口元に血の味がのぼってくる。
くっ……おぇ……がは……
腹部のダメージで胃液が逆流し、嘔吐する。うまく息ができない。苦しい。
「あーあ……汚いですねえ……意地で引っ込めて欲しいものですよ」
「はぁっ、はぁっはぁ……」
「あのね、あなた絶対に断る気満々だったでしょう?もしくは、協力したフリして裏切る気だったでしょう?バレバレですよ?」
喋りたくても、喋れない。意識が飛びそう。
「なんでバレたかって?それはね、あなたの性格です。私をなんだと思ってます?心理学の鬼ですよ?あなた、性格的に絶対に私に従わないでしょうに……。
申し訳ないですが最初に断られた時点で『あーもうこれ絶対に協力してくれないやつー』って思ってましたから。正直言って、明日の返事とか聞くまでもないと思ってましたから」
最初から……無駄だった……?ヤバい、な……稀に見る大ピンチ……。
「という訳で、こちらに来ていただきます」
うずくまる私の喉元を看守が鷲掴みして、無理やり上へと引っ張り上げる。
カミサマの部屋へと連れて行かれながら、私はヤミが無事でいることと、死刑を断ってくれることを心の底から願っていた。
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