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第七章 二人の夏休みへ
祭壇の部屋
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カミサマに案内された部屋に足を踏み入れた僕は、思わず言葉を失った。『あの夢』の内容が、そっくりそのまま再現されていたからだ。
その部屋の中は黄金の光に満ちて、中央には大理石の祭壇があり、祭壇の上には、火置さんが寝ていた。これは、夢か?僕は一瞬ここが現実だかわからなくなる。
「どうです?満足しました?……ってすごい顔してますけど?」
両手を広げて僕の方に振り返ったカミサマが言う。……すごい顔?そんなにすごい顔をしていたかな。
「……まさかあんたって、人の心を読めるとかじゃないよな?」
「…………え、うわーこういう想像してたんですね……。うわー。…………うわー、なんだか案外、あなたも普通の男なんですねぇ……意外でちょっと引きました」
……人の心までは読めないということか。それなら安心した。そんなに隠し事をしない僕でも、心を読まれるのはいい気分じゃない。
「想像はしていないよ。夢に出てきただけだ」
「私からしてみたら同じことですけど。無意識中の想像が夢なんですから」
「…………彼女は、寝ているの?」
祭壇の上で微動だにせず横になる火置さんを見る。彼女は仰向けになってまっすぐに体を伸ばし、瞳を閉じていた。ゆっくりと静かに呼吸しているようで、胸がかすかに上下している。
「ええ、いったん強めの睡眠薬を飲んでいただきました。ちなみに四肢には局所麻酔を打っていますから、目を覚ましたところで抵抗はできないようになっています」
「………………そう……」
「この部屋は今日一日あなた達に貸しますから、どうぞ好きに使ってください。私はお邪魔でしょうから、外すとしますよ。この部屋の様子はどこからでも確認できますから、別にいいんです。抵抗が強くなってきたら、呼んでくれれば麻酔を追加しに行きます。
……ただ、忘れないでくださいね。今日中に彼女に『禁忌の項目』を実践して、自分の神様信仰をきれいさっぱり棄て去ること。これだけは絶対事項です。したふりはわかりますから、変なことは考えないようにね」
「わかってるよ……」
僕は彼女に近づく。彼女の体の上には、薄絹がかけられていた。その下は裸なのだろう、体のおうとつが布越しにわかる。
裸の状態よりも、布越しのほうが体の形がよく分かってしまうのはどうして。僕は胸が苦しくなる。
彼女の顔を覗く。黒くて長いまつげが少しだけ震えている。左頬にふれる。吸い付くように柔らかい。
「…………いつになったらいなくなるんだよ」
僕は彼女を見つめたまま、背後に向かって話しかける。
「どうやって始めるのかなって、ちょっと気になって。いないほうがいいですか?」
「いないに越したことはないだろ」
「あと10分だけ見させてください。あなたのペースでやってていいんで。私にとっては、ちょっとした娯楽です」
「10分じゃ多分、あんたは何も満足できないと思うよ」
「別にいいんです。どんな風なのか気になってるだけなんで」
僕は別に、見られててもできる。背後の存在は忘れることにして、彼女に集中する。布の上から、彼女の体を触っていく。男の自分と違う体の作りに感動する。
僕は自分の衣類を全て脱ぎ、脇に置く。祭壇の上にのぼり、自分の体で包むようにして彼女をただ抱きしめた。
どのくらいじっとしていただろう。30分くらい経ったかもしれない。カミサマが途中でいなくなったことはわかった。
「不思議な趣味ですねぇ」とかいう独り言が聞こえた気がするけど、僕は何も言わずに彼女を抱きしめ続けていた。
目をつぶって、皮膚の内側に染みるような彼女の体温を感じていた僕に一つのひらめきが降りてくる。
こここそが、僕の求めていた天国なのかもしれない。
何があってもここに戻ってくれば安心できるし、満たされる。いくら傷ついても、ここに戻ってくれば傷ついた心を癒やしてもらえる。
やっぱり、この場所は誰にもあけ渡してはいけない。欲しいものは、何が何でも自分で手に入れておかないと。彼女だって『自分でなんとかすることが大事』だと、そう言っていた。
僕は目を開く。長い間瞼を閉じていたから、周囲の明かりがひどく眩しい。まるで目の前にいる彼女自身から光が放たれているように見えてくる。……いや、気の所為ではないかもしれない。だって彼女の肌は内側から発光しているから。僕には見えるんだ。彼女の体の内側にある、強くて優しい光が。
「ごめんなさい」
僕は彼女に赦しを請う。そして、天国の一番深い場所を目指す。
その部屋の中は黄金の光に満ちて、中央には大理石の祭壇があり、祭壇の上には、火置さんが寝ていた。これは、夢か?僕は一瞬ここが現実だかわからなくなる。
「どうです?満足しました?……ってすごい顔してますけど?」
両手を広げて僕の方に振り返ったカミサマが言う。……すごい顔?そんなにすごい顔をしていたかな。
「……まさかあんたって、人の心を読めるとかじゃないよな?」
「…………え、うわーこういう想像してたんですね……。うわー。…………うわー、なんだか案外、あなたも普通の男なんですねぇ……意外でちょっと引きました」
……人の心までは読めないということか。それなら安心した。そんなに隠し事をしない僕でも、心を読まれるのはいい気分じゃない。
「想像はしていないよ。夢に出てきただけだ」
「私からしてみたら同じことですけど。無意識中の想像が夢なんですから」
「…………彼女は、寝ているの?」
祭壇の上で微動だにせず横になる火置さんを見る。彼女は仰向けになってまっすぐに体を伸ばし、瞳を閉じていた。ゆっくりと静かに呼吸しているようで、胸がかすかに上下している。
「ええ、いったん強めの睡眠薬を飲んでいただきました。ちなみに四肢には局所麻酔を打っていますから、目を覚ましたところで抵抗はできないようになっています」
「………………そう……」
「この部屋は今日一日あなた達に貸しますから、どうぞ好きに使ってください。私はお邪魔でしょうから、外すとしますよ。この部屋の様子はどこからでも確認できますから、別にいいんです。抵抗が強くなってきたら、呼んでくれれば麻酔を追加しに行きます。
……ただ、忘れないでくださいね。今日中に彼女に『禁忌の項目』を実践して、自分の神様信仰をきれいさっぱり棄て去ること。これだけは絶対事項です。したふりはわかりますから、変なことは考えないようにね」
「わかってるよ……」
僕は彼女に近づく。彼女の体の上には、薄絹がかけられていた。その下は裸なのだろう、体のおうとつが布越しにわかる。
裸の状態よりも、布越しのほうが体の形がよく分かってしまうのはどうして。僕は胸が苦しくなる。
彼女の顔を覗く。黒くて長いまつげが少しだけ震えている。左頬にふれる。吸い付くように柔らかい。
「…………いつになったらいなくなるんだよ」
僕は彼女を見つめたまま、背後に向かって話しかける。
「どうやって始めるのかなって、ちょっと気になって。いないほうがいいですか?」
「いないに越したことはないだろ」
「あと10分だけ見させてください。あなたのペースでやってていいんで。私にとっては、ちょっとした娯楽です」
「10分じゃ多分、あんたは何も満足できないと思うよ」
「別にいいんです。どんな風なのか気になってるだけなんで」
僕は別に、見られててもできる。背後の存在は忘れることにして、彼女に集中する。布の上から、彼女の体を触っていく。男の自分と違う体の作りに感動する。
僕は自分の衣類を全て脱ぎ、脇に置く。祭壇の上にのぼり、自分の体で包むようにして彼女をただ抱きしめた。
どのくらいじっとしていただろう。30分くらい経ったかもしれない。カミサマが途中でいなくなったことはわかった。
「不思議な趣味ですねぇ」とかいう独り言が聞こえた気がするけど、僕は何も言わずに彼女を抱きしめ続けていた。
目をつぶって、皮膚の内側に染みるような彼女の体温を感じていた僕に一つのひらめきが降りてくる。
こここそが、僕の求めていた天国なのかもしれない。
何があってもここに戻ってくれば安心できるし、満たされる。いくら傷ついても、ここに戻ってくれば傷ついた心を癒やしてもらえる。
やっぱり、この場所は誰にもあけ渡してはいけない。欲しいものは、何が何でも自分で手に入れておかないと。彼女だって『自分でなんとかすることが大事』だと、そう言っていた。
僕は目を開く。長い間瞼を閉じていたから、周囲の明かりがひどく眩しい。まるで目の前にいる彼女自身から光が放たれているように見えてくる。……いや、気の所為ではないかもしれない。だって彼女の肌は内側から発光しているから。僕には見えるんだ。彼女の体の内側にある、強くて優しい光が。
「ごめんなさい」
僕は彼女に赦しを請う。そして、天国の一番深い場所を目指す。
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