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第七章 二人の夏休みへ
天国の海
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寄せては返す、波の音が聞こえる。僕の記憶の一番深いところにある景色。終わらない波の音、潮風の匂い。ただ穏やかな、時の流れ。
僕は波間を泳いでいる。夏の海の中は温かくて気持ちがいい。僕を全部包み込んでくれて、癒やされる。幼い頃、海辺で過ごした夏の日を、ぼんやりと思い出す。
僕がいるのは天国の海。だからこんなに幸せなんだ。やっと僕の全部を受け入れてくれる場所を見つけた。22年もかかったよ。すごく長かった。
僕の人間性は神様を信じることで成り立っていたのに、僕の側にもう神様はいない。……今まさに『禁忌』を犯しているから。でも、そのおかげで本物の天国に行くことができた。
この天国に行く権利を与えてくれたのは――そう、悔しいけど、あのカミサマだ。そう思うと、癪ではあるけど、感謝しなくてはいけないのかもしれない。僕に、天国の永住権を与えてくれたことに。
でもさ、自分の神様を信じていない僕って、本当に僕なのかな?君を犠牲にしてすごく自分勝手なひどいことをして、自分だけは幸せな思いをして生き延びていいのか?
…………いや、いいだろ。そろそろ誰かから赦してもらってもいい気がする。他の誰でもなく、君に赦してもらいたい。……どうかな、赦してくれないかもしれないな。赦してほしいならそもそもこんな風に、寝ている君を勝手に抱いてはいけないのに。
……ああ、駄目だ、考えようとすると頭がズキズキと痛む。これ以上何も考えたくない。海の中で癒やされたい。頭の痛みも、良心の呵責も、いままでの苦しみも、この海に入っている間は感じない。
目の前の海に入れば、心の傷が癒えていく。身体も温まる。もっと浸かっていたい。海から出ると体が冷たいから、もっと温かい、深い場所まで行かなきゃ。
お願い、僕を癒して。考え事をすると頭が割れるように痛むんだ。おかしくなりそうなんだよ。火置さん、僕を助けて……。奥まで受け入れて……。
海に潜る。潜って、潜って……。
チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ……
どうしてこんなに優しくて、柔らかいの?僕のこと、受け入れてくれてるから?……そうだと信じたい。この柔らかさだけが真実なんだ。
僕をもっと受け入れて。お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い…………
チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ……
必死に泳ぐと、泳ぐのに合わせて波の音が聞こえる。この波の音色、なんて心地いいんだろう。ずっと聞いていたい。行かないで、逃げないで、受け入れて……お願いだから……。
とたん、さざなみが起こる。一瞬潮が引いて、海が震えだす。
……怒ってる……?海は優しいけど、恐い。すべてを受け入れて、すべてを飲み込むから。
でも……飲み込まれるなら別にいいや。拒絶されるよりずっといい。飲み込まれてしまえば、何も考えずに済む。考えることを、できなくさせて欲しい。もっとたくさんの水で、僕を押し流してくれ。
体が浮き上がるような多幸感に身を任せる。僕を取り囲む海水が、柔らかく震える。このままこの海に身を委ねたい。ずっとこのままでいさせて。
そのままじっと動かないで、中の動きを感じていた。さっきは規則的に震えていた彼女の中。震えの間隔が徐々に長くなり、やがて海は凪ぐ。
彼女の呼吸と共にかすかな膨張と収縮を繰り返す。ふわふわの羽毛布団みたいで、でもピッタリと包み込んでくれて、とても優しい海。温かい海水が、僕を取り囲む。もしかして、母親のお腹の中にいた赤ん坊って、こんな気分だったのかな。そのまま眠ってしまいたい。
僕は波間を泳いでいる。夏の海の中は温かくて気持ちがいい。僕を全部包み込んでくれて、癒やされる。幼い頃、海辺で過ごした夏の日を、ぼんやりと思い出す。
僕がいるのは天国の海。だからこんなに幸せなんだ。やっと僕の全部を受け入れてくれる場所を見つけた。22年もかかったよ。すごく長かった。
僕の人間性は神様を信じることで成り立っていたのに、僕の側にもう神様はいない。……今まさに『禁忌』を犯しているから。でも、そのおかげで本物の天国に行くことができた。
この天国に行く権利を与えてくれたのは――そう、悔しいけど、あのカミサマだ。そう思うと、癪ではあるけど、感謝しなくてはいけないのかもしれない。僕に、天国の永住権を与えてくれたことに。
でもさ、自分の神様を信じていない僕って、本当に僕なのかな?君を犠牲にしてすごく自分勝手なひどいことをして、自分だけは幸せな思いをして生き延びていいのか?
…………いや、いいだろ。そろそろ誰かから赦してもらってもいい気がする。他の誰でもなく、君に赦してもらいたい。……どうかな、赦してくれないかもしれないな。赦してほしいならそもそもこんな風に、寝ている君を勝手に抱いてはいけないのに。
……ああ、駄目だ、考えようとすると頭がズキズキと痛む。これ以上何も考えたくない。海の中で癒やされたい。頭の痛みも、良心の呵責も、いままでの苦しみも、この海に入っている間は感じない。
目の前の海に入れば、心の傷が癒えていく。身体も温まる。もっと浸かっていたい。海から出ると体が冷たいから、もっと温かい、深い場所まで行かなきゃ。
お願い、僕を癒して。考え事をすると頭が割れるように痛むんだ。おかしくなりそうなんだよ。火置さん、僕を助けて……。奥まで受け入れて……。
海に潜る。潜って、潜って……。
チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ……
どうしてこんなに優しくて、柔らかいの?僕のこと、受け入れてくれてるから?……そうだと信じたい。この柔らかさだけが真実なんだ。
僕をもっと受け入れて。お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い、お願い…………
チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ、チャプ……
必死に泳ぐと、泳ぐのに合わせて波の音が聞こえる。この波の音色、なんて心地いいんだろう。ずっと聞いていたい。行かないで、逃げないで、受け入れて……お願いだから……。
とたん、さざなみが起こる。一瞬潮が引いて、海が震えだす。
……怒ってる……?海は優しいけど、恐い。すべてを受け入れて、すべてを飲み込むから。
でも……飲み込まれるなら別にいいや。拒絶されるよりずっといい。飲み込まれてしまえば、何も考えずに済む。考えることを、できなくさせて欲しい。もっとたくさんの水で、僕を押し流してくれ。
体が浮き上がるような多幸感に身を任せる。僕を取り囲む海水が、柔らかく震える。このままこの海に身を委ねたい。ずっとこのままでいさせて。
そのままじっと動かないで、中の動きを感じていた。さっきは規則的に震えていた彼女の中。震えの間隔が徐々に長くなり、やがて海は凪ぐ。
彼女の呼吸と共にかすかな膨張と収縮を繰り返す。ふわふわの羽毛布団みたいで、でもピッタリと包み込んでくれて、とても優しい海。温かい海水が、僕を取り囲む。もしかして、母親のお腹の中にいた赤ん坊って、こんな気分だったのかな。そのまま眠ってしまいたい。
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