4 / 11
社交パーティー
しおりを挟むついに社交パーティーがやってきた。俺の水球はというと、相変わらず俺の横に浮いている。
いや、もう水球と呼ぶのは違うかもしれない。
そう。俺は消すことを諦めて薄く広げて服の中に隠すことにしたのだ。
もしパーティーの最中に突然弾けたら......とか考えてしまうが、しょうがないと割り切ることにした。
「アラン、そろそろ行く時間よ。」
「はい。母上。」
俺は馬車に乗って会場へ向かった。
「おぇぇぇぇえ」
「アラン大丈夫?」
俺は忘れていた。馬車に乗るのは初めてだということを。俺は忘れていた。会場まで片道4時間かかることを。
「だ、大丈夫です。」
最悪だ。気持ち悪い。
「あと半分よ。頑張って!」
は、あと半分もあるのか。終わった。
ああ神様。俺をもう一度生まれ変わらせてくださるのなら、絶対に酔わない体にしてくださいぃぃぃい。
「おぇぇぇぇ。」
「神に祈るような顔して。大丈夫?」
ああ、気持ち悪くて......死にそう。
「ほら、着いたわよ」
ようやく着いたか。食べたもの全部でちまったぜ。
「うっぷ」
「大丈夫?もうすぐ夕飯食べるんだから早く元気になんなさいよ。」
なんだと。これから夕飯だと。
お腹がすいているどころか食欲皆無だし、吐き気が酷すぎけ絶対食べれないんだけど。
「ほら、会場に行くわよ。」
会場に入るとドレスで着飾った貴婦人たちと、それに連れられた子供たちがいた。
するとお母さんがその中の一際目立つ子を指さして小さな声で
「あの子がポール公爵の娘さんのステラ様よ。」
控えめに言ってとても可愛いな。
「あとで挨拶にいってらっしゃい。名前を言ってお願いしますって言うだけでいいわ。」
「はい。母上。」
そうだ。ここは貴族社会だ。そして俺はその中で立場の弱い男爵家。
こういう挨拶が大事なんだな。
「それではお子様方はこちらへお集まりください。」
司会っぽい人からのアナウンスが入った。
「それじゃ、行ってらっしゃい。」
「はい。」
よし、行くか。これで俺も貴族デビューだ。
俺が呼ばれた所へ行くと、きらびやかな格好をした子供が10人ほど集まっていた。
良かったー。ちゃんとおしゃれしてきて。
あ、そうだ挨拶しなきゃ。
えっと、あの子は......ってみんなあの子の周りに集まってるじゃないか。
でも行くしかないか。
「あのー。」
あ、みんな一瞬こっちみてすぐにステラさんの方に視線を戻した。
肝心のステラさんはというと俺の方を見すらしなかった。
なんだよ!男爵風情に構ってる暇はないとでもいうのか。
でも腹を立てたからと言って、何かが変わる訳でもない。
粘り強く話しかけ続ける。
「あのー。」
あ、ようやくステラさんこっちみてくれた。
あれ、やべぇ。家名わかんねえ。そういえば一度も耳にしたことがない。
どうしよ。お母さんに聞きに行くか。嫌でもそれは恥ずかしすぎる。
「おい、お前。ティヌール男爵家のやつだな。」
あ、俺ティヌールって家名だったのか。誰か知らんけどナイス!
「俺はヘルマン子爵家のクルトだ。男爵家ごときがなにステラ様に話しかけてるんだ!どっか行け。」
うわっ。めんどくさいのに絡まれたな。どうしよ。
「挨拶だけしたいんですけど......」
「話しかけるな。ステラ様に迷惑だ。」
あ、こいつめんどくさいタイプだ。
どうしよう。
まて、まず状況を整理しよう。
まず、俺はステラさんに挨拶がしたい。
あいつは何かしらの理由から俺に挨拶をさせたくない。
なぜさせたくないか。
あ、わかった。あいつステラさんのことが好きなのか。
それで自分以外の男を寄せ付けまいとしてるわけか。
じゃあそんなクルトを追い払うにはどうすればいいのか。
そう、クルトがステラさんに嫌われるようにすればいい。
しゃーねぇ。これは禁じ手だと思ってたが練習の成果だ。
まず服の中にしまってある水球をほんのちょっとちぎる。
そしてそれを床を伝って見られないように移動させ、相手の股間に到達したら...
「うわ!」
こうなるわけだ。
「どうしました?」
近くにいた貴族のひとりが言う。
「なぁ、あいつ漏らしてね?」
周りの視線がクルトの股間に向かう。当然ステラさんも。
「お、覚えてろよ。」
おお、顔が真っ赤にして逃げてった。ちょっと離れたら水を回収してっと。
これで完璧。
これで挨拶ができる。
「お初にお目にかかります。ステラ様。ティヌール男爵家のアランです。お見知り置きを。」
「ポール公爵家のステラです。こちらこそよろしく。」
ふぅ。終わった。
挨拶ってこんな大変だったっけ。
こうして俺の初の社交パーティーは幕を閉じた。
ーーーーーーーーー
帰り道
俺「おぇぇぇぇ」
母「大丈夫?あと3時間よ。頑張って。」
0
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる