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2章 舞踏会

2-4.《恋人》

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 パーティーまでの間を館で過ごす。吸血鬼の身体は、瞬間的な力は人間よりぜんぜん強いんだけど、短距離型というか、人間みたいに1日いろいろなことをするにはすぐに疲れてしまう。他の家族も、基本的に日中は寝ているか、ステファンだったら彫り物したり、アーノルドだったら刺繍したり、アーロンだったら訓練中の若狼を周辺に散歩に連れて行ったり、お父様だったらリビングで各地方でできたワインを並べて飲み比べていたり、そんな感じで過ごしているみたいだ。

 この館には、私たちの他に、≪血の恋人≫と使用人が何人かが住んでいる。アーノルドの≪恋人≫が、コーデリア、ミゲル。それからお父様の≪恋人≫グローリア。

 私たち吸血鬼の世話は≪恋人≫がやってくれて、使用人は≪恋人≫のお世話をしてくれる感じね。そもそも、私たちは、血があれば特に食事もとらないし、汗もかかないから基本的に洋服もそんなに取り換える必要もないしあんまりお世話はいならいのよね。
 
 コーデリアは本来、そんなに使用人的な仕事はしてくれなくてもいいんだけど、メイド服で使用人と一緒にせかせか働いている。ここ数日、アーノルドが私のドレスの準備のためか部屋にいることが多いので、使用人の指揮をとってテキパキ働いている。
 
 ちなみに、もう一人のアーノルドの≪恋人≫のミゲルは男性です。とても綺麗な顔立ちの19歳の男の子。アーノルドは女性と男性両方好んで吸血するタイプなので……。

 ≪恋人≫は1人だと、相手に与える身体的な負荷が大きいので、複数いる方が望ましいは望ましい。そのあたりはゲームだとなかったんだけど、私は「カミラ」としての記憶をたどって、頭を抱えた。昔アーノルドの≪恋人≫が、他の≪恋人≫に嫉妬して、相手をナイフで刺してたことがあったのよ。それ以来彼は、≪恋人≫を女性と男性にしている。性別が違うと、嫉妬心が抑えられるのか、それ以降はそこまで派手な事件はなかった。(でもお互い嫌がらせとか細かいことはあった。)

 『嫉妬心』というのが、≪恋人≫には大敵で、それを抱くと、血の味も悪くなるし、嫉妬心が出てきた時点で≪恋人≫は解雇になる。私たちは精神操作ができるので、相手の私たちに関する記憶をあやふやにした状態で親元に返す。

 ≪恋人≫の任期は場合によるけれど、血を吸血する以上健康的な方が良いので、大抵は10代後半から数年。≪恋人≫たちが、例えば普通に結婚して家庭を持ちたいとか、≪恋人≫でいることが精神的に辛くなったら関係解消になる。その場合、≪恋人≫であった記憶が、彼らの今後にとって邪魔になる場合は、記憶をいじったりもするけれど、下手にやると他に障害が出る恐れがあるので、できる限り円満に別れられるように努める。

 人間の「沙代里」の感覚を取り戻した今考えると、できるだけ人道的な形で血を頂くように努力はしていても、この狭い館で≪恋人≫という存在を考えると、そりゃあドロドロしますよね、という気持ちになる。血を頂いてもいいかを意思確認して、ご家族にも説明できる場合はしてるとはいえ、本人は自分の希望だからいいとしても、家族はどうなんだろうか。自分の娘(たまに息子)がそういう状態になるのって。金銭の保障はするっていってもさ。しかも、≪恋人≫の家族は、説明するならするで≪血族≫にしたうえで説明するから、お断りは難しいし。私たちだって、トラブルになりたくないから、家族が明らかにひどく反対している場合は、≪恋人≫になってもらうのをやめたりするけど。それでもちょっとずつ、不快な気持ちって人間の間に累積していってるんじゃないかしら。

義姉ねえさん?」

 アーロンに呼ばれてはっとした。私は、今、彼と一緒に狼の散歩に出ている。窓から彼が散歩に出ているのが見えたのでついて行ったのだ。
 
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