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34 うわ、軽くあしらわれました! すっげえムカつきます!!

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「……と、そうだった。俺は兄妹厨二ちゅうに合戦なんてくだらねえことをするために、大学の講義こうぎとバイトを仮病を使ってサボってまで実家に帰ってきたんじゃなかったんだ!」

 くさったおまんじゅうでも見るみたいなほの白い目つきを向けてくる渋谷しぶやさんの視線にいまさらながら気付いたのでしょうか。兄さんはさすがにばつの悪そうな表情を浮かべこほんと軽く一つ咳払せきばらいをしてから、取りつくろうかのごとく、そのように言葉をつむいできました。

「兄妹厨二合戦とは、聞き捨てなりませんね」

 そんな兄さんに対し、わたしは少なからずムッとしてするどい目つきでにらみつけます。

「厨二なのは兄さんだけでしょう!? 何故ならわたしが神性しんせい少女の生まれ変わりだというのはれっきとした事実なんですから!」

「はいはい。事実事実。お前は正真しょうしん正銘しょうめいの神性少女だよ」

 うわ、軽くあしらわれました! すっげえムカつきます!!

「そんなことより、駿介しゅんすけたんのことだ! 麻幌まほろ! お前、駿介たんをだまくらかしてうまいこと彼女の座を射止いとめやがったあばずれ女のことを知ってるのか!?」

「知っていますよ。わたしの親友の、高内たかうち流瑠るるという子です」

「なにいっ!? なんでお前の親友が俺の駿介たんを!? 麻幌、まさかお前がそそのかしたんじゃないだろうな!?」

「そんなわけないでしょう。むしろわたしはなんとかして二人を引き離そうと一生懸命けんめいだったんです! それに駿介は兄さんのものではありません。わたしのものです!!」

 力強く断言したわたしの言葉を聞いて、渋谷さんは何故だか口にふくんでいたコーヒーを一部ぶっ! とき出してしまったようですが。まあ、そんなことはどうでもいいです。

「どさくさにまぎれててめえ、なにとんでもねえこと言ってやがるんだ! 駿介たんは俺の弟なんだから、俺のものに決まってるだろうが!!」

「わたしにとっても駿介は弟ですよ! それにそもそも兄さんは男で駿介も男なんですから、兄さんが駿介を自分のものにしたらホモになっちゃうじゃないですか!!」

「あぁ? ホモだって? このジェンダーレスの時代にそういった差別さべつ的な表現はいかがなものかと思いますがねえ。そうは思いませんか、麻幌さん?」

「なにを言っているんですか! ホモが差別ならホモ・サピエンスはどうなるんです? 人類全体が何者かに差別されているとでも言うんですか!?」

「それとこれとは問題がげぇだろうがよ! て、言うかだ。駿介たんの性別は男じゃなくて天使だから、おれのものにしてもホモ……もとい、同性愛にはならねえよ!」

「なんでですか! とにかく男である兄さんは駿介に相応ふさわしくありません! 駿介に最もふさわしいのは女の子であり、駿介と血のつながった実の姉であるわたしなのです!!」

 わたしの宣言に、兄さんは気おされたようにひたいに冷や汗を浮かべ『ぐぐぅ……』とうめき声をあげました。わたしの完璧かんぺき理論りろんに、ぐうの音も出ず言い負かされてしまったようですね。

「待て。性別はともかくとして。血のつながった実の姉である時点で、君はすでに相応しくないだろ」

 ところが兄さんを言い負かしたと思ったら、今度は渋谷さんがハンカチで口元をぬぐいつつ、ひかえめな口ぶりながらたくみに盲点もうてんするどいつっこみを入れてきたのです。そこは考えていなかったので、わたしも思わず言葉にまり、絶句ぜっくしてしまいます。

「ははは! そうだそうともよく言ってくれたひかりちゃん! その通りだ! 実の姉である麻幌は駿介たんに相応しくない! つまり駿介たんを我がものと出来るのはやはり、この俺をいて他にないということは、もはや神ですら否定ひていすることは出来ない真実なのだ!!」

 反対に兄さんは力を取り戻したかのごとく、高らかな笑い声をあげますが。

「いえ。静馬しずまさんだって実の兄なわけですし」

 神ならぬ渋谷さんに、あっさり否定されてしまいました。これにはさすがに兄さんも一瞬いっしゅんきょを突かれたようでしたが、すぐに驚くほどイイ顔になって堂々と言葉を続けます。

「まあ、それはそれ! これはこれだよ! ひかりちゃん」

「うわ、開き直った!?」

「そうですね。この点に関してはわたしも兄さんと同意見です。兄とか姉とか、血がつながっているとかつながっていないとか、そんなことは些細ささいな問題なのではないでしょうか?」

宮部みやべまで! て言うか、些細か? 些細な問題なのかそれって!?」

「ひかりちゃん。家族にとって本当に大切なのは血のつながりなんかじゃない。おたがいをどれだけおもってるかという心のつながりのほうが、何百倍も大切なことなんじゃないかな」

「いや。そんな、俺いいこと言ってるだろうと言わんばかりの決め顔をされても」

「とにかく! 駿介のことはわたしが全てまかされましたから。兄さんは安心して、地獄じごくの底からいつまでもわたしたち二人のことを見守っていてください」

「なにがとにかくだ! なんで当たり前のように地獄に落ちてんだよ俺は!?」

「いえ。兄さんがルルを殺して、ついでにその後みずか生命いのちを絶ってくれれば邪魔じゃま者が一気に二人いなくなってわたし的にラッキーかなって思いまして」

「宮部……。実の兄が自分の親友を殺すという仮定をなんでそんなあっさりと、しかもものすごくうれしそうな顔で語ってるんだ?」

 渋谷さんはしぶい表情を浮かべながらあきれたような口ぶりでそのように言ってきます。



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