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50 味方が変態と変人しかいないというのはどうなんでしょう?
しおりを挟む時は瞬く間に過ぎ去り、季節は移ろい巡っていきます。今日から一一月。吹きつける乾いた風は次第に冷たいものになっていき、世界は少しずつ冬の装いに変わっていくようでした。
「あ~あ。参っちゃいますねえ」
疲れ切った足取りで校門を出ながら、わたしは湿ったため息と共に言葉を漏らしました。
太陽はすでに西の山の向こうにと隠れ、その姿を見ることは出来ません。西の空はまだうっすらと赤みがかったオレンジ色の光を放っていますが。東の空はすでに墨をこぼしたように仄暗く、星もちらちらと煌いています。
自慢ではありませんが現在から小中学校時代まで遡っても、わたしがこんな時間まで学校に残っていたことなどは滅多にありません。
そんなわたしが何故、今日に限って夕方まで学校にいたのかですって?
それは今日の午後に行なわれたロングホームルームの時間に、今月末に実施される文化祭の実行委員クラス代表の選任が行われたのですが。なんとわたしがその代表に選ばれてしまったため、ついさっきまで他のクラス代表らと一緒に会議に出席していたからです。
ちなみにわたしが代表に選ばれたのは、別にわたしがその役目にふさわしいと思われていたからとか人望があったからとかいうわけではなく、単にあみだくじの結果です。
普段のくじ運は悪いくせに、こういう時に限って当たりくじを引いてしまうことが多いんですよねぇ、わたしって。
「あー、代表なんて面倒くさいです。誰かが実行委員のクラス代表をやらなくてはいけないのなら、ルルがなればよかったですのに。そうすれば忙しくて駿介とデートする時間もなくなるでしょうから、ざまあ見ろでしたのにねえ」
道端に落ちていた小石を軽く蹴り飛ばしつつ、わたしは憎々しい思いでぶつぶつと呟きました。
今日わたしが実行委員会の会議であくびをこらえている間にも、ルルは駿介と二人で嬉し恥ずかしイチャラブデートを楽しんでいたのでしょう。
先月我が家で起きたプチ焼き肉パーティーの時以来、二人は新夜鍋に遊びに行くことはほとんどなく。互いの家に遊びに行くことでデートの代わりにしているようです。
外ヅラがいいルルは、うちに来た時は両親や祖父母に対して如才なく対応し、さりげなくヨイショをしたりご機嫌を取ったりしているため、我が宮部家の大人たちはルルに対してすこぶる好意的で。ほとんど駿介の公認彼女のような扱いです。
一方の駿介も、ルルの家では彼女のご家族にかなり気に入られているようですね。
まあ、駿介のような可愛らしい子を嫌うなんてことは人類には到底不可能ですので、駿介がルルのご両親に気に入られること自体は不思議でもなんでもありません。
ですが自分たちの高校生の娘が小学生の男の子を彼氏だと言って家に連れてきていることには、なんの疑問も抱いていないのでしょうか?
うちのクラスの女子たちも、何人かはすでにルルが駿介とつきあっていることを知っているようですが。彼女らにしても、小学生を彼氏にするなんて不潔だとか不道徳だとか言って怒るどころか、面白半分ながらも応援しているような節さえありますし。
どうして誰も彼も、ルルと駿介が彼氏彼女の関係になることをこうもあっさり認め、歓迎さえしてしまうのでしょう? なんかもう高校生が小学生とおつきあいするなんておかしいと思っているのは、日本中でわたし一人しかいないんじゃないかというような気になってきましたよ!
強いてわたしに同意してくれそうな人を探すなら、兄さんと渋谷さんくらいでしょうか。
かたやホモでブラコンでショタコンという、ヘレン・ケラーもびっくりの三重苦を背負っている変態の兄さん。こなた人間をお尻の形でしか識別出来ない残念変人の渋谷さん。味方が変態と変人しかいないというのはどうなんでしょう? わたし自身はきわめてまともで普通の人間ですのにねぇ。
と、そんな実にも花にもならないことを考えながら歩いているうちに、いつの間にかわたしは家のすぐ近くまで帰ってきていました。
自宅直前にある心臓破りの坂を上がり切ったころには、いつもへとへとになってしまうわたしでしたが。今日は珍しく不思議なほど疲れを感じていません。実行委員会の会議で精神的に疲れきっていたため、肉体的な疲れを感じる感覚が麻痺してしまっているのでしょうかね?
そんなことを思いながら、わたしがドアノブを回そうと手を伸ばした次の瞬間。扉が内側から音を立てて勢いよく開かれたので、わたしは思わず数歩後ずさって、そのままあやうく尻餅をついてしまいそうになったのでした。
扉を開けて出てきたのはルルです。
どうやら今日のデートは我が家の順番だったようですね。もう結構寒いというのに、薄手のピンクのキャミソール風ワンピースの上にウインドブレーカーを羽織っただけというなかなか涼しそうな格好です。足は何故か裸足で、ベージュ色のハイヒールを左手で持っています。
それだけでもなにかただごとではない感じですが。さらに奇怪なことに、ルルはまぶたを腫らし、目を真っ赤にして涙を浮かべていたのです。さすがのわたしもこれには驚いて、ぽかんと口を開けたままその場にぼんやりと立ち尽くしていることしか出来ません。
もちろん驚いたのはわたしだけではなく……と言うかわたし以上にルルのほうがびっくりしたようで。ルルはまるで雷にでも打たれたかのようにびくりと身体を打ち震わせたかと思うと、呆然とした表情を浮かべながらその場にじっとたたずみ続けていたのでした。
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