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第19話 勇者対魔王(Braveman Versus Darklord)
しおりを挟む俺は勇者。世界を守る者だ。
いま俺は魔界の居城で、世界の全てをその手で支配せんと企む邪悪な存在、魔王との生命を賭けた戦いに挑んでいるところである。
魔王は強大だ。俺と共に居城に乗り込んだ正義のこころざし篤き四人の仲間たちは全て魔王とその手下である四天王と呼ばれる幹部どもによって葬られた。だが仲間たちもただで死んだわけではない。最期の瞬間、俺の尊敬すべき仲間たちは自らの生命と引き換えに敵に大ダメージを与え、四天王全員をあの世への道連れとすることに成功していたのだ。
そのため、いまは最後に残った二人……俺と魔王とによる世界の命運を懸けた一騎打ちの最中なのである。
戦況は一進一退。どちらも全身に無数の傷を負い、いつ倒れても不思議はない状態だ。共に体力はとっくに尽き果てており、意地と気力と……そして世界を守らんとする、あるいは支配せんとする信念のみが身体を動かしているという状態なのだろう。
俺と奴。両者の実力は全くの互角であり、はたから見たなら、その勝敗を分けるのは運か偶然の結果でしかないように思えるかもしれない。
だが実際に戦っている俺には分かる。分かってしまう。ほんのわずか……薄紙一枚ほどの差ではあるが、魔王の力が俺の力を上回っているのだと。
このままではいずれ遠からず俺は魔王に敗れるに違いない。そして俺が死ねば、この世界に奴を倒せるだけの力を持つ者は存在しない。世界は闇に落ちてしまうことは確実だった。
とは言え、絶望するのはまだ早い。俺には最後の秘策とでも言うべきものが残されているのだ。勇者の一族に代々伝わる奥義。転生の秘術が。
この秘術は使い手が何者かに殺害された場合にその殺害した相手の魂を消し去り、代わりに自らがその肉体の持ち主へと生まれ変わることが出来るというものだ。
つまり。俺がこの術を使って魔王に殺された場合、それと同時に魔王は魂が消滅し、代わりに俺自身が魔王の肉体の新たな持ち主として転生することになるのである。
もっともその場合、生き残って戦いの勝者となるのは俺……勇者であるが。客観的には魔王のほうが生き残って勝利したということになる。魂は俺だが、肉体は魔王のものなのだから。
そうなったらいかに、俺は実は魔王ではなく勇者なのだと主張しても誰にも信じてもらえないに決まっている。転生の秘術は勇者の一族のみに伝わるもので、その存在を知る者は他にはいないからである。
そもそも。勇者である俺が戦いに負けそうになったから魔王に転生したなどと、そんなみっともないことを声高に喧伝出来るはずもないではないか。
従って、この術を使い魔王に転生した暁には、俺は勇者としての自分を捨てて魔王として生きるしかないのだが。まあ、それもいいだろう。
ぶっちゃけ。仮に勇者として魔王を倒すことが出来たとしても、ちやほやされるのはほんの一時だけ。飽きっぽい大衆はほんの数年もすれば俺の功績など忘れてしまうだろうし。これまでは俺を全面的に頼りにしきっていてあらゆる援助を惜しまなかった国王も、平和になってしまえば勇者など用済みだとばかりに手のひらを返し冷遇してくるかもしれない。
それどころか俺の力と人望を恐れ、反逆を企んだとかなんとか言いがかりをつけて俺を捕らえ、処刑しようとするということだって充分ありうる。
それなら魔王となって世界をこの手で支配してみるのも悪くない。もともと俺は勇者なんかになりたくなかったのだ。勇者の家系に生まれて当然のように勇者となるべく英才教育を受け、周囲の人たちに『お前は勇者になって魔王を倒すのだ』と言い聞かされ続けて育ったから、空気を読んで仕方なくそうしただけで。
よし。決めた。今日限りで勇者は辞めて魔王になろう。あと数合ほど剣で打ち合ったらわざと隙を見せて、魔王に殺されるのだ。その瞬間俺は転生の秘術を使い、魔王に生まれ変わる。そして大勢の人や魔物にかしずかれながら、彼らの王としてその頂上に君臨するという、文字通り第二の人生を生きることにするのだ。
☆ ☆
俺は魔王。世界を支配する者だ。
いま俺は魔界の居城で、世界の全てをその手で救おうなどと思い上がったことを考えている最強の人間、勇者と生命を賭けた戦いに挑んでいるところである。
勇者は手強い。俺と共に居城に控えていた忠誠心篤き配下の四天王たちもすでに全員が息絶えている。彼らは勇者の仲間たちを倒すことには成功した。だが連中が放った最期の力を振り絞った死に際の一撃で四天王たちは大ダメージを受け、俺の大切な部下たちは黄泉への旅路の道連れとされたのだ。
そのため、いまは最後に残った二人……俺と勇者とによる世界の命運を懸けた一騎打ちの最中なのである。
戦況は一進一退。どちらも全身に無数の傷を負い、いつ倒れても不思議はない状態だ。共に体力はとっくに尽き果てており、意地と気力と……そして世界を守らんとする、あるいは支配せんとする信念のみが身体を動かしているという状態なのだろう。
俺と奴。両者の実力は全くの互角であり、はたから見たなら、その勝敗を分けるのは運か偶然の結果でしかないように思えるかもしれない。
だが実際に戦っている俺には分かる。分かってしまう。ほんのわずか……薄紙一枚ほどの差ではあるが、勇者の力が俺の力を上回っているのだと。
このままではいずれ遠からず俺は勇者に敗れるに違いない。そして俺が死ねば、この世界に奴を倒せるだけの力を持つ魔族は存在しない。魔族はいずれ勢いを得た人間どもによって駆逐され、この地上から絶滅してしまうことは確実だった。
とは言え、絶望するのはまだ早い。俺には最後の秘策とでも言うべきものが残されているのだ。魔王の一族に代々伝わる奥義。憑依の秘術が。
この秘術は使い手が何者かに殺害された場合、その殺害した相手の魂を消し去り、代わりに自らがその肉体の持ち主へと生まれ変わることが出来るというものだ。
つまり。俺がこの術を使って勇者に殺された場合、それと同時に勇者は魂が消滅し、俺自身が勇者に憑依することでその肉体の新たな持ち主となるのである。
もっともその場合、生き残って戦いの勝者となるのは俺……魔王であるが。客観的には勇者のほうが生き残って勝利したということになる。魂は俺だが、肉体は勇者のものなのだから。
そうなったらいかに、俺は実は勇者ではなく魔王なのだと主張しても誰にも信じてもらえないに決まっている。憑依の秘術は魔王の一族のみに伝わるもので、その存在を知る者は他にはいないからである。
そもそも。魔王である俺が戦いに負けそうになったから勇者に憑依しその肉体を乗っ取ったなどと、そんなみっともないことを声高に宣言出来るはずもないではないか。
ゆえに、この術を使い勇者に転生した際には、俺は魔王としての自分を捨てて勇者として生きるしかないのだが。まあ、それもいいだろう。
ぶっちゃけ。仮に魔王として勇者を斃すことが出来たとしても、達成感を得られるのはほんの一時。その後で俺を待っているものと言えば、世界の支配者統治者としての義務と責任だけだ。
なにせ破壊の後には再生というのが世の常である。廃墟と化した世界なぞを支配したって意味などないのだから。つまり世界の支配者となった俺は、荒廃した世界を立て直し豊かな世界を作るために色々と地味で面倒臭い作業を大量に黙々とこなしていかなければならないわけだ。
たとえばこれまで人間どもとの戦いで滅ばされた町を再興したり、民を養うために食料の増産計画を立てたり、秩序ある社会を作るために法や税制度などを整えたりといったことだが。はっきり言って俺には、そういったクリエイティブな作業は向いていないと思う。どちらかと言えば俺はなにかを作るよりも、壊すことのほうが好きで得意なのである。だって、魔王だもの。
それくらいなら世界を救った勇者となり、人間どもにちやほやされながら、日がな飲んだり食ったり騒いだりしながら面白おかしく暮らしていくほうがよっぽどいい。もともと俺は魔王なんかになりたくなかったのだ。魔王の一族に生まれて当然のように魔王となるべく英才教育を受け、周囲の魔族たちに『お前は魔王となって世界を支配するのだ』と言い聞かされ続けて育ったから、周囲に忖度して仕方なくそうしただけで。
よし。決めた。今日限りで魔王は辞めて勇者になろう。あと数合ほど剣で打ち合ったらわざと隙を見せて、勇者に殺されるのだ。その瞬間俺は憑依の秘術を使い、勇者に生まれ変わる。そして世界を救った英雄として、毎日を酒と女に囲まれながら楽しく過ごすという、文字通り第二の人生を生きることにするのだ。
☆ ☆
そして俺は最後に残った力を振り絞り、防御のことは全く考えない攻撃のみに特化した渾身の一撃を放つべく構えを取った。当然、こんな力づくで単純な攻撃などが目の前の相手に通用するわけがない。あっさり防がれて、返す刀で俺は殺されることになるだろう。
だがもちろんそれは想定の範囲内。奴に殺された瞬間、俺は秘術を使い奴の肉体を奪い取り、奴そのものとなって生きていくのである。
見ると、奴もまた俺と同じように最後の攻撃を仕掛けようとしているようだった。その一撃は威力こそあるようだが隙だらけで、まるで殺してくださいと言わんばかりの単純かつ直線的な攻撃のように見える。
だが仮にも奴は俺の宿敵。いかに瀕死であるとは言え、そんな甘い攻撃を仕掛けてくるはずがない。おそらく奴はわざと隙だらけの攻撃をしてくることで俺の不用意な反撃を誘い、カウンターで俺を斃すつもりなのだ。
いいだろう。その手に乗ってやろうじゃないか。
俺は内心で含み笑いを浮かべつつ、雄叫びと共に宿敵に向けて剣を振り下ろす……。
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