11 / 12
※ 許せない!
しおりを挟む「リリアンヌ様が魔族と入れ替わってる……⁉︎」
いっしょに後始末をしながら、アシュトスはこくりと頷く。兄の服を着る彼は、窮屈そうに首元を気にしている。一見似たような体格に見えても、騎士と魔導師では体つきがぜんぜん違うらしい。
「何それ……! そんなのぜんぜん気がつかなかった」
「エイサは魔族と対峙したことがないんだろ? ……分からなくても仕方がない。それに殿下に化けているやつはダンピールとサキュバスのハーフだ。相当魔族に詳しい人間じゃないとあの独特な匂いの正体には気がつかないはずだ」
体液で汚れたシーツを魔道具の洗濯設備に押し込む。
それにしても初めて聞く話ばかりで頭がまったくついていかない。
中のプロペラが回りはじめ、洗濯設備はごうんごうんと機械音を出し始めた。洗濯室は屋敷の中でももっとも防音がしっかりしている。秘密の話をするのにぴったりだ。
私は令嬢だけど、洗濯の仕方はきっちり教わっていた。……平民になる予定だったから。
「魔族に捕まった本物のリリアンヌ様はどうしているのかな……」
「無事だといいがな」
ふうとアシュトスはため息を漏らす。どうみても浮かない顔だ。不本意ながら私と一線を超えてしまったからか? それとも。
「とりあえず、俺とロイドで何とかする」
「何とかって、……失敗したらどうするの?」
「失敗はしない」
閨でリリアンヌに化けてる魔族の正体を暴き、リリアンヌの姿に戻れないように男根を切り落とす。
そう上手くはいかないんじゃないかと私は不安になった。
それに兄は直前で逃げ出しそうだ。兄は今、身重の義姉のことで頭がいっぱいなのだ。家族思いなところは美点だと思うが、荒ごとに巻き込むには不安がある。
いっそ自分が動いたほうが上手くいくかもしれない。
「私も協力するよ」
「エイサが?」
「私はリリアンヌ様のお気に入りだもの」
私は懐から魔道具の輪っかを取り出した。アシュトスにつけたものとはまた違うタイプのものだ。金色のそれには、トゲの多い種類の蔓薔薇模様が刻まれていた。
「それは?」
「アシュトスにつけたリングの強力版だよ。今のリリアンヌ様は両性具有の魔族なんでしょ? 私がこれをリリアンヌ様の股間に着ける」
アシュトスに着けた銀のリングは大人のおもちゃと言っても準・医療用で、身体に害のないものだが、この金のリングは違う。
装着者のみに全身がびりびりする電撃をおみまいするのだ。正真正銘、スキモノ専用の大人のおもちゃだ。
兄に貰った時はこんなものいつ使うんだろうと思ったが。アシュトスへのお仕置き用だろうが……ピンとこない。こんなの使ったら嫌われると思うんだけど。
ちなみに兄は重度のスキモノだ。確実に父の遺伝だと思う。
「エイサが殿下の閨へ行くと言うのか?」
「うん!」
「お前たちはそういう関係だったのか……?」
「ぜんぜんそんなことないけど、『アシュトスと結婚する前にお情けをください、殿下……!』って、リリアンヌ様が本命ですと言わんばかりの言葉を言えば、抱いてくれそうではあるよ?」
「……そ、想像したくもないな」
口を覆い、顔を赤くしている。意外と百合も寝取られも嫌いじゃなさそうだ。あ、でも、今のリリアンヌは両性具有者なので少し趣は違うかもしれない。
「最後まではしないよ。アシュトスが助けてくれるんでしょう?」
「……そうだな。エイサを巻き込みたくはないが、しかし……これしか方法がないのかもしれないな。あの殿下はさして俺に興味はない」
「興味がない?」
「部屋に呼ばれたが、業物屋で新しい武器をみるような、そんな目だった」
──どんな目だろう?
なかなかピンと来ないが、リリアンヌにとってアシュトスがそんなに思い入れのあるひとではないことは分かった。
そんなひとに大事なアシュトスを盗られたくない。
「武器?道具? ……失礼しちゃう。もうすぐ結婚式だったのに邪魔されて、私はすごく怒ってるの!」
「エイサ……」
「本物のリリアンヌ様も救い出さなきゃだし、偽物はぎったんぎったんにしなきゃ気がすまない!」
──乙女の涙の代償は重いってことを思い知らせてやる!
ここ数日間、私がどれだけ泣き、眠れない夜を過ごしたか。本当に、本当に辛かった。アシュトスのために身を引いたと頭では分かっていても心がまったくついていかなかった。
「ああ! うまくやろう」
「アシュトス!」
アシュトスがいれば私は無敵だ。今まで打ち沈んでいた気分が吹っ飛ぶ。
ダンピールだかサキュバスだか何だか知らないけど、私がぶっ飛ばしてやる!
◆
「すっごい。あっさり上手くいったね……」
即落ち。二コマとはよく言ったものである。
数日後。リリアンヌにお茶に誘われ、その席で私は言ったのだ。『抱いてくれ』的なことを。そしたらリリアンヌは頰を赤らめてコクンと頷いた。元々その気があったのかと言われゾッとしたが、すぐ側で私たちの影に変身していたアシュトスと兄がいたから何とか逃げ出さずにすんだ。
それからは閨へ移動して。
あれやこれや前戯的なことをされた。
リリアンヌはとっても上手だった。サキュバスの手練手管と比べたらいけないと思いつつも、思わず比べてしまった。
──誰とは、何とは、言わないけど。
緩やかに高められる快感に溺れかけたが、ごくりと生唾を飲み込むような音が聞こえて我に返った。
──楽しむなー‼︎
兄はそういうのに造詣が深いことは分かっていたし、アシュトスも正直嫌いじゃないだろうなぁと思っていた。分かっていたけど、人の影に隠れて興奮されるのはとっても不愉快だった。二人とも何を考えているのだろう。呼吸を荒げないで欲しかった。
リリアンヌの股間についていた凶器は、何というか、すごく……立派だった。『粗末なものでごめんなさい』と明後日の方向から謝られたが、こんなもので貫かれたら死ぬと思った。あきらかに膣に納まり切らない大きさだった。ある意味でも男の夢がつまったような女性だったんだなと妙に納得した。
金の輪っかが取り着けられるかすごく心配になったけど、魔道具は基本、フリーサイズだ。亀頭に押し当てたらするすると根元まで入っていった。『エイサはちゃんとしてるのね』とリリアンヌに褒められたけど、嬉しくない。
と、ここまではリリアンヌはリリアンヌの姿をしていた。ふわっふわの真っ白な胸を押し付けられながら、秘部の外側をぶっといアレでごりごり擦られるのは、言葉に言い尽くせないほど気持ちが良かった。不快感よりも、快感のほうが遥かに上回っていたのは、サキュバスの力だろうか?
私にとってリリアンヌは大事な大事な婚約者を奪った憎き女である。それでも触られて快感を覚えたのだ。……魔族、おそるべし。
しかしいざ挿入というところで、リリアンヌに化けていた魔族は正体を現した。
『ひっっっ‼︎』
ダンピールとサキュバスのハーフ。何となく美形の魔族を想像していたんだけど、違った。
その醜悪な容貌に震えが止まらなかった。尖った大きな鼻はゴブリンに似ているが、その顔はドス黒く崩れていた。首や腕は枯木のように皺々で痩せ細っているのに、肩や腕には岩のような固そうな筋肉がついている。小さなツノと細長くて黒い尻尾をもつその魔族は、紫色の煙を口からもうもうと吐き出していた。
私の尻たぶを持ち上げているその手は氷のように冷たいのに、潤んだ秘裂に押し付けられた亀頭の先はひどく熱い。魔族は下から私を貫こうと、ずずっと腰を浮かせてきた。こんなものを挿れられたくない、正気に戻った私は狂ったように叫んだ。
『いっ、いやぁっ、いやああぁ‼︎』
ふくらんだ先がほんの少しだけぐちゅりと埋まったところで、私の足元が崩れた。ちゃきんという、金属同士が擦れるような音もした。
──何っ⁉︎
視界が暗転し、目が回る。魔族の手からごろごろ転げ落ちた私は、くらくらする頭を押さえて、先ほどまでいた枕元を見た。
そこにはナイフがぐさりと突き刺さった男根を抱え、のたうち回る魔族がいた。小刻みに震えているのは、金のリングの力だろうか? よく見ると、青白く細い電流が、魔族の体の至るところでバチバチと放電していた。
『エイサ、平気か⁉︎』
『やっこさん、存外正体を現すのが遅かったなあ』
やれやれと兄のロイドは心なしかすっきりした顔をしている。スキモノの兄はぜったい楽しんでいただろう。妹と王女の百合ものを視姦していたかと思うと殴りたくなる。
魔族にナイフを突き刺したのはアシュトスだった。さすがに冷静で的確な仕事ぶりだった。着ていた外套を脱ぐと、彼はまっ裸になっていた私に着せてくれた。あまり私の身体を見ないようにしていたのが気になる。
『俺は今から団長たちを呼ぶ。お前らはずらかった方がいいぞ? 特にエイサ、そんな格好を他の連中に見られるのはヤバい』
『兄様が手柄を横取りするんですか?』
『エイサ、気持ちは分かるが、俺たちがリリアンヌに化けていた魔族の討伐に関わったと王家の方々に知られるのはまずい。魔導師団が間者の調査をしていた最中に、魔族をたまたま見つけたと、そう思われるのが一番平和的に収まるんだ』
アシュトスの真剣な表情に、私は肯くしかなかった。彼がそう言うのならそうなのだろう。
『お前、昔からアシュトスの言うことしか聞かないよな……』
そう語りながら、兄はやれやれと転移魔法を唱え出した。
32
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました
唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」
不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。
どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。
私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
薫る袖の追憶を捨て、月光の君に溺愛される
あとりえむ
恋愛
名門の姫君・茜は、夫の高彬に蔑まれ、寂れた離れで孤独な死を迎えた……
けれど意識が途切れた瞬間、視界を埋め尽くしたのは命を削って輝く緋色の夕映え。
目が覚めると、そこは高彬との婚約が決まったばかりの十五歳の春に戻っていた。
「二度目の人生では、誰のことも愛さず、ただあの方の幸せだけを願おう」
茜は、かつて自身の孤独を救ってくれた「最推し」の東宮・暁を、未来の知識で密かに支えることを決意する。
執着を捨て、元夫に無関心を貫く茜。
一方、高彬は自分に興味を失った茜の価値に気づき、今更遅い後悔に狂い始めるが……。
「見つけた。お前は俺の、運命の番だ」
正体を隠して東宮を支えていたはずが、冷徹な暁に見出され、逃げ場のないほどの執着と溺愛を注がれることに。
平安の雅な風情の中で描かれる、逆転と救済の物語。
最後は、二人が永遠の契りを交わす和歌で幕を閉じます。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる