妹に婚約者を寝取られたとグチったら、王弟に求婚され、復讐しようと誘われた件

野地マルテ@2月27日『帝国後宮録』発売

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何もかもを失った私は無敵

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 ──くそぉ……。

 モーラは強い。
 とんでもなく強かった。
 何せ私の渾身の連打が一発も当たらないのだ。

 ──今まで運動オンチのフリをしていたのか……。

 モーラは可愛い子ぶりっ子を極めるため、あえて運動が苦手なフリをしていたらしい。
 どこまでも姑息なヤツ!

「ふふ……無様なお姉様」
「くそっ……まだまだァ‼︎」
「お姉様に私は倒せませんわよ、何もかもを失った今の私は無敵……!」
「はぁ⁉︎」

 ──何もかもを失ったですって?

 それはこっちのセリフだ。
 婚約者も実家も失って、今の私には侍女の仕事しかない。
 パヴェルからプロポーズされたけど、まあ、今のこの私を見られたら、無かったことにされるだろう。
 汚いセリフを吐き、鬼の形相で妹に殴りかかる私をみたら、百年の恋だとしても醒めるはずだ。

 しかし後悔はしていない。
 モーラを倒さねば、私の明日はいつまでもやってこないからだ。
 モーラを倒し、私は私を取り戻す!

「それはこっちのセリフだ、おりゃーー!」
「隙あり‼︎」
「⁉︎」

 回し蹴りを入れようと上体を捻ったが、そこにはモーラの姿はなかった。
 モーラはまた私の背後に回り込んでいた。

「死ね! おねえさま!」

 身体に穴があく。
 そう錯覚するほどのするどい衝撃が背中に走った。

 ズドオオオオオーーーーンンンンン‼︎

 けたたましい爆音。
 空中から背中を殴られた私は、大理石の床に全身を叩きつけられた。

「くっ……!」

 めまいを堪えて起き上がり、まわりを見る。
 まるで隕石が落ちたかのように、床が大きくえぐれていた。
 なんという破壊力、そして速さ。
 モーラは化け物だった。
 私はともかく、このままでは旧王城が崩壊する。

「パヴェル、逃げて! 城が崩れるわ!」
「人の心配をしている場合ではなくってよ! お姉様!」

 瞬時に飛んできたモーラに道着の裾を掴まれ、私の身体はそのまま柱に向かって投げつけられた。
 凄まじい爆音とともに崩れ落ちる柱。

 ──旧王城がこんなにも脆かったなんて……。

 私は昔から身体の頑丈さだけは自信があった。
 さっきから壁やら床やら柱やらに身体を叩きつけられているが、これぐらいならばどうという事もない。
 王妃様の蹴りに比べれば。
 王妃様の蹴りの威力は凄まじく、ちょっと身体に掠っただけで、私は衝撃で気を失っていた。

 ──私にはまだ、鍛錬が足らなかった。

 粉々になった大理石の床を掴む。
 くやしい。
 でも、逃げるわけにはいかない。
 ここで逃亡したら、私はますます惨めな姉になってしまう。

 俯く私に、聞き覚えのある声が届いた。
 振り向くと、そこにはボロボロになった幼馴染、パヴェルの姿があった。
 どうやら飛んできた破片やらなんやらに巻き込まれたらしい。

「レティシア!」
「⁉︎ パヴェル……! あんた、早く逃げなさいよ! ここは倒壊寸前よ!」
「俺の嫁を放っておけるかよ!」
「パヴェル……」
「俺がモーラを引きつける! お前はその隙になんとか一発ぶつけろ!」

 こちらが呼び出した側なのに、決闘に助けを借りて良いものか迷うが、パヴェルはそんな私に叫んだ。

「先に卑怯なマネをしたのはモーラだ! レティシアから親も、実家も、旦那になるはずだった人間も奪った! ……まあ、俺のことは奪えなかったけどな!」

 パヴェルは鼻血を垂れ流しながら、自身に親指を立てる。
 強気な様子に、ちょっと気がやわらいだ。
 その時だった。

「黙れ‼︎‼︎ 童貞野郎‼︎‼︎」

 モーラはその辺にあった人の背丈よりも大きな瓦礫を持ち上げると、なんとパヴェルに向かって投げつけたのだ。

「パヴェル‼︎」

 モーラが瓦礫を投げつけた速度はとんでもなく速く、私はパヴェルを助けることが出来なかった。

 呆然とした。
 パヴェルがいたはずの場所は、一瞬で瓦礫の山と化したのだ。
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