8 / 13
結婚しようと言ってくれたのに
しおりを挟む──そんな、パヴェルが……
こんな私に、何も持たない私に、結婚しようと言ってくれたパヴェル。
土埃がすごくて様子は分からないが、おそらくぺちゃんこになってしまったであろう、パヴェル。
人間、あまりにもショックな場面を目にすると動けなくなる。
私はパヴェルが立っていた場所を、呆然と見ている事しか出来なかった。
「ハハッ! 悲しむ必要は無いですわよお姉様! すぐにパヴェルがいる場所へ送って差し上げますわ!」
モーラはどこぞの悪役のようなセリフを吐き、飛びかかってきたのだが。
「……あっ」
モーラの背後には、人影があった。
あの、お姿は。
「地獄へ行くのは、あなたとスオルクだけよ」
「‼︎ ……おう、ひさ」
王妃様だった。
逆光になっており、表情ははっきり見えない。でも、あのシルエットはまちがいなく、あの方だ。
「……地獄では、人の物に手を出してはいけませんよ?」
たおやかな声が、崩壊寸前の大広間に響く。
もしもこの世に女神がいるのなら、それは王妃様のようなお姿をしているのかもしれない。そう、見とれていた刹那、ものすごい衝撃が場を包みこんだ。
王妃様が拳を振り上げたのだ。
──くっ、直接殴られているわけじゃないのに……!
嵐よりも強い、衝撃波。その場に立っていることすら難しい。
精一杯その場で踏ん張るが、踏ん張りきれない。
私の足は空を切った。
「きゃあっ!」
「レティシア‼︎」
身体が吹っ飛ぶ。そう焦ったが、しかし私の背中は瓦礫に埋もれることも、壁にぶつかることもなかった。
全身、がっしり抱えられていたからだ。
胴に回された、見覚えのある腕と背中に当たる体温にハッとする。
バッと振り向いた。
「! パヴェル、あなた……!」
「あれしきのことで死ぬわけないだろ! 俺は義姉上の殴打を千回喰らっても死ななかった王の末弟だ! 余裕だ!」
パヴェルはなんと無事だった。
かなり強がっていたが、その元気な声に視界が一気に緩んだ。
「泣くな、レティシア」
「泣いてないわ」
「逃げるぞ、義姉上の本気殴打が来る!」
「えっっ」
私の膝裏をさっと抱え、パヴェルは外へ向かって駆け出した。
「まって、パヴェル! 王妃様が! モーラが!」
「もう復讐とか言ってる場合じゃねえよ! 死ぬぞ! 古い城の倒壊に巻き込まれて死ぬなんて、冗談じゃねえ!」
「パヴェル……!」
背後から、ものすごい轟音が聞こえてくる。
私は瞼をぎゅっと閉じ、パヴェルの騎士服を掴んだ。
──王妃様、ごめんなさい……!
敵前逃亡するなんて、侍女失格だ。
しかも私が相手を呼び出したのに、勝てないから逃げるなんて最悪すぎる。
情けない。
「レティシアはよくやったよ、お前はすげぇよ、レティシア……」
私を抱える、パヴェルの腕の力が強まった。
34
あなたにおすすめの小説
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。
そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。
母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。
アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。
だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
【完結】妹に婚約者まであげちゃったけれど、あげられないものもあるのです
ムキムキゴリラ
恋愛
主人公はアナスタシア。妹のキャシーにほしいとせがまれたら、何でも断らずにあげてきた結果、婚約者まであげちゃった。
「まあ、魔術の研究やりたかったから、別にいいんだけれどね」
それから、早三年。アナスタシアは魔術研究所で持ち前の才能を活かしながら働いていると、なんやかんやである騎士と交流を持つことに……。
誤字脱字等のお知らせをいただけると助かります。
感想もいただけると嬉しいです。
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる