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詫びの品
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「わぁっ、かわいい」
キラキラと輝く輪が並んだショーケース。シトリンはその中から、一つの指輪を目に留めると指差した。
それは小さな琥珀色の宝石が三つ中央に並んだだけのシンプルな指輪だった。
店員からその指輪を差し出されると、シトリンは嬉しそうに自分の右薬指に嵌める。天井からぶら下がったペンダントライトの光を受け、複雑にカットされた琥珀色の三つの宝石は上品な輝きを湛えていた。
笑顔が止まらないとばかりに嬉しそうにしているシトリンの隣で、複雑な表情を浮かべているのはアルゼットだ。指輪に付けられた値札を見て、彼はうーんと唸る。
アルゼットからすれば、今買おうとしているアクセサリーは前世での詫びの品だ。彼はそれなりに懐が痛むものを買おうとしていたのだが……。
「リングの部分はプラチナが使われているから、悪いものではないが……。ちょっと安すぎないか? シトリン、もう少し大きな宝石が付いたものか、ダイヤモンドで縁取られたものにしないか?」
アルゼットは、シトリンへの詫びの品をこの店に買いに来ていた。貴族も出入りするような高級宝石店で、若い女性が好みそうな華奢なデザインの指輪でもそれなりの値段がした。
自分が選んだものを悪く言われ、シトリンは頬を膨らませる。
「これ以上大きな宝石がついたものなんて、キズがつきそうで普段使い出来ないわ。この指輪なら、どんな服装とでも合いそうだし……。せっかく贈ってもらうのなら、常に身につけていたいもの」
「そ、そうか。ではこれで……」
シトリンから可愛いことを言われてしまったアルゼットは、でれでれと目尻を下げ、鼻の下を伸ばしながら、店員へ声をかける。指輪のサイズはシトリンには大きめだったので、サイズ直しも同時に頼んだ。
「婚約指輪はもう少し良いものを買おう」
「今日買ってもらったもので十分よ」
「おっ、結婚してくれる気になったのか?」
「出来ればこれからも、あなたと一緒にいたいけど……」
シトリンは眉尻を下げる。彼女の脳裏に浮かぶのは、両親の顔だ。
「ああ、君のご両親は、前世のご両親と同じで……前世の記憶があるんだったか」
「ええ、結婚を反対されてしまうかもしれない……。ごめんなさい。あなたとの結婚を反対する親なんか、うちの親だけでしょうね」
「仕方がない。俺はどうしてもシトリンと結婚したいからな。君の父親に殴られる覚悟はしているさ」
「こう言ってはなんだけど、あなたほどの優良物件はいないでしょうに」
「シトリンは俺を買い被りすぎだと思うぞ? 君こそ、もっと……。いや、シトリンを他のヤツに渡したくない。シトリン、他の男のことは考えないでくれ」
「前世の頃から、私にはあなただけよ」
二人は砂糖を吐きそうなことをお互いに言い合いながら、ショーウィンドウが立ち並ぶ街を歩く。
昼までベッドでイチャイチャしていたのに、それでも足りないのか、繋いでいる手指を絡ませあう。
「夕飯はどうしようか?」
「外で食べない? あなたの部屋へ戻ると帰りたくなくなっちゃうわ」
「嬉しいことを言ってくれる。早く一緒になりたいな」
「結婚しなくても、一緒に暮らせると思うけど……」
「悪いな。護衛官は身辺の清さも求められる仕事なんだ。俺が妙齢のお嬢さんと婚約すら交わさずに一緒に暮らしているなんて上官に知られたら、叱責は免れないな」
「そうなの、大変ね」
アルゼット恋しさに、両親に黙って彼と一緒に暮らすのも良いかもしれないと、そんなふしだらなことを考えてしまった。
シトリンは己を恥じた。アルゼットと今世で再会する前は、未婚の状態で男の人と一緒に暮らすなど、頭にもなかったのに。
今朝方、身体を重ねてから、もっともっとアルゼットと一緒にいたいと思うようになった。
(私、どうなってしまったのかしら)
シトリンはアルゼットと繋いでいる手に力を込めた。自分は彼と出逢って急速に変わりつつある。こんなにも男の人に心と身体を許したのは初めてだ。
アルゼットと想いが通じ合えて嬉しいが、さらに彼にのめりこみつつある自分に恐怖も覚えた。自分の中が彼一色に染まりかけているような、そんな錯覚を覚える。
シトリンは前世と合わせても、本気の恋を知ったのはこれが初めてだった。
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