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※なんとかなるかもしれない

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 広げた脚の間から、啜るような音が響く。アルゼットが視線を落とすと、そこには髪をかきあげながら頭を振るシトリンがいた。
 アルゼットとシトリンは今夜も逢っていた。初めて身体を重ねてからというもの、シトリンがアルゼットの部屋を訪ねる回数は格段に増えていた。そして、いつも彼女はセックスを彼にねだった。
 どんどん行為が大胆になるシトリンに、アルゼットは男としては嬉しく思っても、これで良いのだろうかと思わずにはいられない。アルゼットは保守的な人間なので、夜のことは男がリードすべきだと思っている。が、シトリンがしたいと言っていることに反対ばかりするのもどうかと思い、今では好きにさせていた。

 今もシトリンは熱心にアルゼットに奉仕している。彼の肉棒を咥えこみ、舌をねっとり這わせていた。最初の頃は拙かった手並みも、今ではアルゼットの息を荒げさせるほど上手くなっていた。

「うっっ……あっ」

 アルゼットは天を仰ぐと、腰を震わせた。シトリンの温かな口内に白濁を流し込む。彼はもう耐えることを止めていた。シトリンの口で果てることが出来ないと、彼女が悲しむからだ。びゅっびゅっ、と断続的に射精した後、アルゼットは大きく息を吐き出した。

 まだ息の整わないアルゼットに向かって、シトリンは嬉しそうに口をあけて見せる。彼女の舌の上には、白いものが乗っていた。口を閉じると、シトリンはそれをごくりと飲み干す。とても、嬉しそうに。

「よく呑めるなぁ」
「あなたが出したものだもの。いくらでも呑めるわ」

 アルゼットは自分のものを舐めしゃぶったシトリンの唇に口付ける。彼女の身体を知る前は、口淫をした唇に触れるなんてとんでもないと思っていたが、今では彼女の口から精液臭さを感じる方がむしろ興奮した。
 青臭い匂いのする口に舌を差し入れ、美しく生え揃った歯列に這わせる。シトリンのくぐもった声が聞こえてくると、また自分の雄が硬さを帯びてきた。
 シトリンへ口づけながら、彼女の乳房に触れる。もったりと大きな膨らみを手で包み、やんわり握り込む。すでに胸の尖りは硬く勃っていた。アルゼットは興奮しながら、紅色の尖りを押しつぶすように白い膨らみを揉んだ。

「んっ……うぅっ、……はぁっ、……」

 シトリンと触れ合っていると、その時だけは煩わしいことをすべて忘れられた。彼女のすべてが愛おしい。
 両手指を使って胸の膨らみの先端を弄っていると、シトリンは焦ったような声を出した。

「いや……もう、限界……」

 そう言うと、シトリンは腰を上げ、座ったアルゼットに跨ろうとする。彼のそそり勃った肉棒に手を添えると、濡れそぼる入り口に丸い穂先を当て、少しずつ腰を降ろした。

「うっ、ああっ」

 嬌声をあげたのはアルゼットの方だ。温かくて柔らかなものに自身が包まれ、頭の奥がじんと痺れた。どうしてこの行為がこんなにも気持ちよく感じるのかは分からない。相手が愛しくてたまらないシトリンだからだろうか。
 アルゼットは自分から動きたいと思ったが、シトリンはすでに自分の首に腕を回し、嬌声をあげながら股間を擦り付けている。その腰の動きは端的に言ってエグかった。膣壁は精を絞りとらんばかりに蠢いているのに、腰は円を描くように執拗に回されている。豊満な胸も潰れるほど押し付けられていて、ここは極楽かとアルゼットは錯覚する。

 アルゼットはシトリンの臀部に腕を回し、白い尻たぶを掴んだ。すべらかで柔らかで、最高の感触だった。
 シトリンの身体を全身で愉しみながら、アルゼットは今夜も彼女の中へ熱い精を吐き出した。


 ◆


 精を吐き出すと、一気に思考がクリアなものとなる。
 アルゼットはマリナスのことを思い出したのだ。

 横になりながら、少し掠れた声でアルゼットはシトリンへ話しかける。

「シトリン、君の父親のことだが……。なんとかなるかもしれない」
「本当? 私が言うのもアレだけど……うちの父はなかなかの曲者よ」
「俺の前世の知り合いに会ったんだ」
「アルゼット、前世のことを思い出したの?!」
「いいや。マリナスという男に声を掛けられたんだ。シトリンも知っているか?」
「ええ、今世は役者をやっているとか……。父に誘われて、家族で何回か彼の舞台を観に行ったことがあるわ」

 シトリンの口ぶりだと、彼女とマリナスはさして仲が良いわけではないらしい。アルゼットはホッと胸を撫で下ろす。マリナスはいかにも女性ウケしそうな小柄な男だった。あまりシトリンが他の男と仲良くしている姿は想像したくない。

「マリナスは前世の俺に恩があるらしくて、俺達が結婚できるよう、協力してくれるらしい」
「……そうなの。前世のマリナスは可哀想だったわ。小柄なのに騎士にさせられて、戦場に無理やり駆り出されて。あなたに助けられたこともあったかもしれないわね」
「前世の自分がどんな人間だったのか、自分のことなのによく分からない。マリナスは戦場で俺に助けられたと言っていたが、俺は君には冷たくしていたようだし……」
「あなたは前世も良い人だったわ。根は面倒見の良い優しい人だったと思う」

 そう言うシトリンは寂しそうに微笑む。
 マリナスのことは助けて、シトリンには冷たくしていた前世の自分。アルゼットは己のことながら理解出来ないと思った。
 シトリンはいつも愛らしく、優しい女性だ。一緒にいるだけで心が浮かれる。彼女には極力優しくしたいと思うし、笑顔でいて欲しいと思う。

「前世の俺は、君に素直になれなかったのだな」

 前世の自分は奴隷で、シトリンは貴族の娘だった。もしかしたら、前世の自分はシトリンにコンプレックスのようなものを抱いていたのかもしれない。アルゼットはマリナスと出会ったことでそのような考えに至った。前世で貴族だったというマリナスに、嫉妬のようなものを覚えたのだ。自分は前世のシトリンにも嫉妬していたのではないか。
 それならば、我ながらなんと狭量なことか。

「もう前世のことはいいわ。今のあなたがいれば、私はそれで十分」

 シトリンは柔らかく微笑むと、身を寄せてきた。
 アルゼットはシトリンの言う通りだと思ったが、どうしても前世の自分のことを考えてしまう。前世の自分にとらわれても、どうしようもないと分かっているのに、推し量ることを止められないのだった。
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