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団長のご両親へご挨拶
団長の実家へ向かう馬車の中、私は気になっていたことを団長に尋ねた。
かなり聞きづらいことで、私は視線を膝に落とす。
「団長……」
「何だ?」
「この三年間、団長の元に何人か女の人が来てましたよね? その、……ご両親が認めたご令嬢じゃないと結婚に反対されませんか?」
この三年間、団長の元にはご実家が見繕ったというご令嬢が何人か来ていた。速攻でお見合いやお付き合いがダメになったことは知っているが、気がかりなのは、団長のご両親はごりごりのご令嬢じゃないと伯爵家の嫁として認めないのではないか? という点だ。
「サラで問題ない」
私の不安をぶった斬るように、団長は即答した。
「うちの両親もいい歳だからな。さっさと息子夫婦に家督を渡して楽になりたいだけだ。良くも悪くも、誰が嫁に来ようと気にしない。だいたい俺の元に寄越した令嬢を選定したのは両親じゃない。家令だ」
「で、でも」
「それにサラとの結婚を反対するようなら、そんな家はいらない。騎士業をこのまま続けて自分の力でサラを養うだけだ」
「団長が騎士業続けるんなら、私も事務官を続けますよ」
騎士の奥さんはお子さんが大きくなったら働きに出る人も多い。共働きは普通だ。
「まあ、出来ればサラに贅沢をさせてやりたいから、無理やりにでも結婚を認めさせるけどな」
「贅沢なんて興味ないですけどね」
最低限、眠るところと食べるものがあれば私はそれでいい。そんなことを言うと、団長はなんとも言えない顔をした。
「サラは無欲だな。まあ……そんなところも好きだが」
「安上がりでいいでしょう?」
私がふふんと鼻を鳴らして笑うと、団長は苦笑いした。
◆
団長は早馬を実家へ送っていたらしく、ご両親はご在宅だった。団長のお父様は、私の顔を見るとこう言った。
「うちの息子で本当に良いのですか? サラさん。ランヴァールは発言は竹を割ったようにバッサリしているし、いつも淡々としていて面白味にかける男だ。軍の指揮官としては良いかもしれませんが、家庭人としては如何かと……」
「父上」
団長のお父様とは何度か顔を合わせたことがある。団長の父親とは思えないほど、表情豊かで話上手だ。どうして団長はこのお父様に似なかったのだろうか。
しかし、ここでお父様の団長評にうなずくわけにはいかない。私は団長と結婚するつもりなのだから。
私は顎をあげると、不穏なオーラを出している団長の前に立った。
「私は三年間、団ちょ……ランヴァールさんの元で働いてきました。たしかにランヴァールさんは発言ははっきりしていますし、淡々としているところもありますけど、……けど! 私はランヴァールさんの優しいところや良いところをたくさん知っています」
脚や腕に軽い障害を抱える私のことをいつもさりげなくサポートしてくれたり、私が落ち込んでいる時には励ましてくれたりもした。初めてのセックスの時も、私を怖がらせないように負担にならないように気を使ってくれた。
団長には良いところがたくさんある。
毎日美味しいランチを用意してくれたし、週末には家に呼んでお酒やおつまみを振る舞ってくれたのだ。
ふと、私は団長を良いように使っていたのかもしれないと思ったが、今は考えないようにする。
「私はランヴァールさんのことが好きです。私の手足には障害がありますし、血統も良いとは言えません。美人でもないですし、性格だって良いとは言えません。そもそも、私には婚姻歴があって初婚ではありません。ランヴァールさんと釣り合ってないことは分かっています。でも、ランヴァールさんのことが好きなんです……どうか、私のことを認めて頂けないでしょうか?」
団長のことが好きだと団長のご両親に宣言すると、不思議と涙が出てきた。
「良いお嬢さんじゃない、お父さん」
後ろでにこにこしながら控えていた団長のお母様が、私のことを褒めてくれた。
団長がトントンと指先で私の肩を叩く。
「サラ、ここは俺が両親を説得するところだ」
「ハッ、す、すみません! つい」
団長のことを団長のお父様に悪く言われたと思い、つい熱くなってしまった。
団長のご両親のほうへ向き直ると、お二人はなんとも優しい表情で私たちを見つめていた。
「サラさん、ランヴァール、アストロニダをどうかよろしくお願いします」
「えっ、え、結婚をお許し頂けるんですか?」
「ええ、唐変木な息子ですけど、末永くよろしくお願いします」
「唐変木は余計だ」
まさかこんなにあっさり団長のご両親から結婚のお許しが出るとは。団長の家は名門伯爵家なのに。本当に私が嫁で良いのだろうか。
隣に立っている、団長の顔を見上げる。
「なんだ?」
「な、何でもないです……」
団長も優しい目をして私を見つめていた。
頬がじわじわ熱くなる。本当に私は団長のことが好きになってしまったらしい。
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