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職場恋愛はむずかしい
団長のご実家で結婚の許可を得た私たちは、今度は私の実家へ向かっている。団長のご両親は今夜は泊まっていくよう誘ってくださったけど、私たちは有給休暇の間に両家を回らないといけない。残念ながら悠長にしていられる時間はないのだ。早く詰所へ戻らないと副官のボガトフさんが過労で倒れてしまう。
馬車の中。隣に座る、団長に話しかける。
念のため、ここで引き返すかどうか確認する。私には婚姻歴があり、初婚じゃない。別に親への報告は後からでも問題ないだろう。
「私は再婚ですから、別に事後報告でもいいですよ?」
「そんなわけにはいかない。ブルダニン将軍への挨拶を欠かすなど、黒獅子騎士団の一員として有り得ないだろう」
「もう将軍じゃないですけどね、うちの父は……」
「それでも俺の憧れの人だ。全騎士の目標だ。ブルダニン殿は」
私の父ブルダニンはその昔、騎士をしていた。今も客員として騎士団の剣術指南役をしている。私から見ればただの筋肉ダルマな逆三角形屈強おじさんなのだが、うちの父を見る騎士たちの目はいつもキラキラしてたっけ。
「ああ、そうだ。サラ」
「なんですか?」
「先ほどはありがとう。うちの両親に俺のことが好きだと言ってくれて。俺の名前を言ってくれたのも、嬉しかった」
「ああ~……すみません。なんか団長のお父様から団長のことを悪く言われたような気がして、ちょっと熱くなっちゃいました」
「サラ、無理をしなくてもいいぞ。俺のことは好きじゃなくてもかまわない」
「えっ?」
「サラは俺のことを、生理的には受け入れられても、好きではないのだろう?」
団長は、私は団長のことが好きじゃないと思っているらしい。あれ? 好きだって言ってなかったっけ?
「私、団長のこと好きですよ?」
「サラ、忖度は不要だ」
「いや、忖度とかじゃなくて……。私、たぶんずっと団長のことが好きだったと思います。今回プロポーズされて、団長と一線を超えて、やっと自分の気持ちに気がつきました」
「サラ……」
「ほら、私、軽いですけど身体障害がありますし、もう二十八だし、寡婦だし。市井の人間で美人でもないし……。団長を好きになるなんて許されないような気がして、気持ちにフタをしていたんですよね。無意識に」
この三年間、団長の悪いところをなんとか探し出して、団長のことを好きにならない努力ばかりしていたような気がする。団長のことをめんどくさい人だと思っていたのも、いわゆる好き避け行動だったように思う。ああ、私はなんて面倒な女なんだろう。団長ではなく、『私が』めんどくさい人間だったのだ。
「団長、失礼なことばかり言ってごめんなさい。せっかくプロポーズしてくれたのに、イヤなことばかり言って、本当に申し訳ありません」
「いや、俺も君の上官だからと割り切った態度を取ってきた。サラが俺の突然のプロポーズに狼狽えるのも分かる。前々から、少しは態度に出せていたら良かったんだが……。君に俺の気持ちを知られて、働きづらいと思われたらと思うと……」
「団長……」
団長も悩んでいたのだ。こういう時、職場恋愛はめんどくさいのだ。
「職場恋愛って難しいですね」
「ああ、むずかしい」
不器用な私たちを乗せて、馬車は進む。
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