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私はどこまでも団長に甘えている
団長のご実家はマトロア地区よりも王都寄りにあるとはいうものの、さすがに一日で馬車で王都まで行くのは難しい。
私たちは宿屋街で宿を取った。
「サラ、膝は痛くないか? 見せてみろ」
お風呂あがりの団長が、頭にタオルを乗せたまま、ベッドに座る私の目の前で屈んだ。
石鹸の爽やかな匂いがして、膝ではなく、少し胸が痛くなった。
「大丈夫ですよ」
「馬車移動続きでずっと座りっぱなしだったからな……少しストレッチしよう」
団長は私以上に膝の怪我について詳しい。私はずいぶん前に右膝の靭帯を断裂した。幸いリハビリで杖無しでも歩けるようにはなったものの、マメにストレッチをしないと筋が固くなってしまうのだ。定期的に軍病院に通っているが、つい面倒でストレッチをサボってしまう。
団長は慣れた手つきで私の右足の踵と先を持ち、ゆっくり曲げたり、伸ばしたりしている。団長は通院にも付き添ってくれて、ストレッチの仕方も覚えてくれた。今思えば、上官がいくら部下のためとはいえ、ここまでするのは行きすぎなのだが、私は何故か疑問にも思わなかった。団長ならそれぐらいやるだろうなと思い込んでしまったのだ。私はどこまでも団長に甘えている。
「ありがとうございます。団長は優しいですね」
「なんだ、いやに素直だな?」
「これからは団長の奥さんになるので、デレることにしようと思いまして」
私がへへっと声を出して笑うと、団長の頬が赤くなった。
◆
「サラ、そんなにくっついたら寝苦しいだろう」
「今夜は団長の雄っぱいに包まれたい気分なんです」
「……一気にデレすぎじゃないか?」
結婚の許しを貰うため、私の実家へ向かう道中なのだが、私は団長のご両親から団長の妻として認められたことが嬉しくてハイになっていた。
今夜はダブルベッドの部屋を取った。
今夜は団長とくっついて眠りたい。私がいそいそと布団の中で身を寄せると、団長は狼狽える。
「サラ、その……あまりくっつかれると。鼓動が早くなってしまって眠れない」
団長のあまりにもウブすぎるセリフに、私は少し申し訳なくなって、人一人分スペースを空けた。
「すまない、サラ」
「いいですよ! 団長、早く私に慣れてくださいね」
「ああ、善処しよう」
本当はおやすみのキスとか、手を握り合うとかしたいけど、団長が眠れなくなってしまうのは困る。まだ時間は早いし、セックスするのもありかなと思うけど、団長は馬車移動続きの私の膝のことを気にかけている。誘っても「サラの膝が心配だ」とか言って断られてしまうかもしれない。
「おやすみなさい、団長」
「ああ、おやすみ」
それに「おやすみなさい」を言い合えるだけでも、今はなんか嬉しい。私は久しぶりの恋に浮かれていた。
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