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最低最悪な夜会での出逢い
しおりを挟むこの日の夜会は最悪なこと続きだった。
私を愛人にしようと企む老男爵にばったり出くわしてしまうわ、やっとの事でうっとおしい男爵をまいたと思ったら酔っ払った子爵に絡まれるわ。
いくら振り払っても断っても、粘っこい男達から伸ばされる手が止むことは無く、もう散々だった。
夜会はだいたい嫌な目に遭うものだが、この日は特に酷かった。
酒精くさい赤ら顔の小太りな子爵に腕を掴まれて、ひと気のないバルコニーの方まで引っ張られそうになった時は本気で泣きそうになった。
私は世間から性悪・魔性・王国三大悪女などと呼ばれているが、実際のところは恋人の一人ですらも満足に出来たことがない。
恋多き女呼ばわりされているというのに、好きな人がいた事さえ無かった。
それなのに。外見がいやらしい、常に異性を誘っていると言われて、毎晩違う男と寝ていると根も葉もない噂を立てられる始末。
最近も愛妻家だと有名な伯爵を寝取ったとの噂が立ち、この間の夜会では貴婦人からワイン入りのグラスを投げつけられた。彼女は転びそうになり手がすべっただけだと言っていたが、私への怒りがありありと顔に出ていた。
謂れのないことで中傷されたり嫌がらせを受けるのも辛いが、最も辛かったのが簡単に遊べると思われ、社交の場に出るたびに一夜の関係目的の中年男がわんさか寄ってくる事だった。
「やめてください、困ります!」
「マガリー、この間は五十歳の大商人と寝たのだろう? それなら私も十分守備範囲じゃないか! 金なら十分な額を出す」
毎回、私に声をかけてくる男共は皆こんな感じだった。まともな貴公子はまず、声を掛けてこない。寄ってくるのは、私の身体目的の脂ぎった中年貴族や悪どいことをして儲けている豪商ばかり。
──なんで私がこんな目にぃぃぃ~~!
貴族令嬢として結婚相手を探すために夜会に出ているが、こんなろくでもない仕打ちにばかり遭うのなら、いっそ恵まれぬ人々に奉仕する尼になりたかったが、私は純潔じゃないからと言われて施設に入れなかった。規律を乱す存在は困ると、受け入れを拒否されたのだ。
純潔を失うどころかキスもしたことがないのに、外見だけで判断されるなんて酷すぎる。
年々増える愛人への誘い。
身体の曲線をなぞるように注がれる視線。
容赦なく浴びせかけられる中傷。
──もう死んでしまいたい……。
このまま生きていても仕方がない。
こんなに悪評が広まってはろくな縁談は来ないだろう。
結婚を半ば諦めて、侍女や家庭教師として働きに出たこともあったが、屋敷の主人に気に入られてしまい、毎回奥様の怒りに触れて追い出されていた。
働くことさえ満足に出来ないのかと自分自身に絶望した。
ただ息をしてるだけで男を誘っているだのなんだの罵られ、女性のみならずまともな男性達からの評判も散々。
両親や実の兄たちでさえ、私の身の潔白を信じておらず、新たな噂が流れるたびに『少しは分別を持て、自重しろ』といつもキツく叱られた。
皆、私の言葉をまともに聞いてさえくれなかった。
男たちの強引な誘いに抵抗するのにも疲れ果て、涙の膜が張った瞼を閉じ、ぐすりと鼻を鳴らす。
もう嫌だった。色欲に満ちた目線を向けられるのも、下品な言葉で閨に誘われるのも。
このままではキスどころか純潔を奪われるのも時間の問題だろう。
自分を守れるのは己のみなのに、こんなに弱りきっているのだから。
いつか愛する人が出来た時のためにと貞操を守っているが、意味がないかもしれないと思うとますます悲しくなった。
色々なことを諦めかけたその時、今まで力まかせに引っ張られていた腕が急にスッと軽くなった。
「──悪い。彼女はこの後、私と約束しているんだ」
自分の前に影を感じ、慌てて目を開けると、見上げるほどに高い上背に、黄金に輝く髪が見えた。
金髪の長身の男に腕を掴まれた、子爵の赤ら顔がさっと青ざめていく。
「あ、アノック様、そうだったんですかぁ……。ははっ、では私はこれで……」
男に睨まれた小太りな子爵は、でっぷりと膨れた腹を揺らしながらそそくさと逃げていった。
一瞬のことで呆然とした。
金髪の男は子爵が広間から出て行く姿を目視すると、一つ息を吐いた。
恐る恐る、広い背中に声を掛けた。
「あの……」
「お節介かと思ったが、……私の仲間だと思って、つい」
「なかま?」
「何でもない。……じゃあな」
振り向いた──切れ長の瞼から覗く青い瞳とかちりと視線が合ったかと思えば、すぐにそらされる。
見るからに仕立ての良いフロックコートを着た若い男性は、踵を返すと足早に別の扉から庭園の方へと出て行ってしまった。
──アノック……。
その名に聞き覚えがあった。
夜会のたびに姿を目にしていたが、口をきいたのは今夜が初めてだ。
最近侯爵家を継いだが未だ伴侶がおらず、どれだけ美しく条件の良い令嬢から言い寄られても絶対に首を縦に振らないと有名な男だった。
いつも社交の場では女性たちに囲まれているが、ダンスタイムになるとどこかへ姿を消して戻らないという。
実はアノックは男色家で、女が嫌いだという噂がある。
たしかに、女性たちに囲まれる彼は笑顔一つ見せず、いつも憮然とした冷たい表情をしていた。
──私の仲間って、どういう意味かしら?
侯爵家を継いだばかりの貴公子と、いきおくれ真っ只中の私。共通点なぞ何も思いつかなかったが、はたと我にかえる。
──お礼、言えてなかったわ。
彼はせっかく私を助けてくれたのに。
人から助けられ慣れていない私は、うっかりお礼を言うのを忘れていた。
私のようなワケあり女を助けても、悪いことはあっても良いことは何一つ無いだろうに。
アノックは、いつもどれだけ美しい令嬢から微笑まれても笑顔を返さないので、なんと冷たい人なのだろうかと思っていたが、意外と良い人なのかもしれない。
私は評判のものすごく悪い女なので、自分から彼に声をかけることは出来ない。
お礼も言いたいし、仲間とはどういう意味なのか聞きたかったが、多分、知る日は来ないだろう。
残念に思いながらも、この夜はこのまま帰宅した。
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